第109話 未来の景色
「核…だと?!」
王の言葉にドンキホーテは驚きを隠せなかった。
「そんな、ソール国は、魔王を作っただけじゃなく勇者を…」
言葉に詰まったドンキホーテの代わりにライジェルが話す。
「そうだ、勇者を生贄にし、核とすることで魔王を作った、それは最強の魔王だった。なにせ勇者を核にしたおかげで、勇者の能力をそのまま使えたのだからな」
王はさらに話し続ける。
「最初、ソール国王はこの作られた魔王の力を使い、世界に平和もたらすつもりだった、前回の魔王の出現から鑑みるに、強大な脅威を前に人々は団結すると考えたからだ」
ドンキホーテは吠える。
「そんなこと有り得ると思ったのかよソール国の王は!」
ドンキホーテの怒りににた、指摘に冷静にライジェル王は答える。
「ああ、そう思っていたさ、当時の王はな、実際成功したろう?魔王の脅威を前に国々は団結した。そしていくつかの大国は消え去り代わりにソール国が強大な国となった。実に都合よく状況が進んだものだ。そしてちょうどいい頃合いになった時、勇者を派遣し、魔王を殺してもらう。実にうまくいった計画だ」
「だが」とライジェル王は顔を険しくする。
「誤算があった、勇者コルナ達は魔王を殺しきれず封印することしかできなかった。そして勇者は真実を知ったのだ、魔王を作り出したのはソール国という真実を。どうやって知ったのかはわからんがな、あとは前に話した通りだ、勇者コルナは反旗を翻し、鎮圧されたそれで終わりだ」
「まて封印だと!?まさか!」
ドンキホーテは焦りを顔に出す。今までの魂を集める目的はまさか、魂の活性化の意味がドンキホーテはわかりかけていた。
「もう遅いドンキホーテ、君たちがこの頂上に来た時点で魔王は復活している。四つに分かれた魂を一つに…元に戻したのだ」
「グレン卿はよくやってくれた」とライジェルは締めくくる、ドンキホーテは気が気でなかった。
「くっ!だったらアンタと話している暇はもうない!俺は魔王を殺しに行く!ボスいいか!?」
ドンキホーテの提案にマリデは頷く
「ああ…その方がいいようだ、ここでくだらないおしゃべりに付き合っていられるほど僕たちは暇ではない、世界を守らねばならないからね」
その言葉にライジェル王は不敵に笑う、嘲笑うように、もう遅いと言うように。そしてこう言った。
「魔王なら目の前にいるぞ?ドンキホーテ」
「何を…」
次の瞬間、ドンキホーテは果てしない重圧感をライジェル王から感じる。今まで感じたことのない、強大な力、脅威を。
そして実感する、この目の前の男の内に秘めるもの、それは魔王の力だと。言葉だけでなく直感でも理解できたのだ。
気圧されるドンキホーテを、気にすることなくライジェル王は話を続ける。
「本題に戻ろう。改めて聞く、世界平和のために私と手を組めドンキホーテ。ヴァルデ、君は無理だと言うだろう、しかしドンキホーテ、お前なら私とともに来てくれるだろう?」
「なぜ、魔王を復活させることが世界平和のためなのか、微塵も理解できないから無理だぜ!」
ドンキホーテは気を持ち直して反論した。ライジェル王は未だ笑みを崩さず言う。
「世界は、ソール国のせいで狂った」
「何が…いいてぇんだ?」
突然の言葉にドンキホーテは思わず聞き返す。
「最近、ロウル国が領土問題を巡って、戦争も辞さないような態度を取ってきている、なぜか?」
ロウル国、そういえばとドンキホーテは思い返す、前に飛空挺事件のさいレーデンスから聞いたことがあった。
ロウル国が領土を巡ってソール国と争い、不穏な動きを見せていると。
「それは――」
しかし考えてみればなぜそのような態度に出られるのか、ドンキホーテは思いつかなかった。ドンキホーテの疑問に答えるように王が喋る。
「この巨大な国であるソール国に対しなぜロウル国はそのような強気な態度で、いられる理由それは」
ライジェル王が苦虫を踏み潰したような顔をして答える。
「ロウル国もまた、魔王に匹敵する軍事兵器を作ることに成功したからだ…!!」
ドンキホーテは驚愕する、そのようなことになれば再び、国が滅ぶことになる。魔王の再来だ。ライジェル王はさらに続ける
「ロウル国だけではない、ソール国の周りの国も同じくいつか、そのような軍事兵器を量産する!そしていつか世界は滅びるだろう」
「なぜわかるんだい?まるで見てきたことのようじゃないか」
マリデの質問に王は答えた。
「見たのさ、私ではないが、勇者の力である予知能力に目覚めたホムンクルスがね、そして今や私にも見える」
そう言うと、ライジェル王は手を天にかざした、すると塔の頂上が白き雲に飲まれる。
ドンキホーテ達の視界が雲に包まれるもはや外の雲海の様子はわからない今わかるのは、ライジェルの姿だけだ。
ライジェル王は指を鳴らす、すると、白き雲に色がつき始める、それは模様となり、さらに変化し、どこかの景色となった。
「ボス!これは!」
ドンキホーテは戸惑いが隠せない。白き雲に飲まれたと思ったら次の瞬間、その雲が、どこかの大地の草原思わしき風景を映し出したのだから。
「これは幻影だよドンキホーテ、落ち着いて!」
「ああ、ボス、わかってるんだが、この草触れるぞ!」
「かなり再現度が高い魔法のようだ、精神に直接及ぼすものではなく、実体を作り出しているんだ、これは投影に近い!」
ドンキホーテの驚きをよそに、再び王は喋り始める。
「そうだ、言うのを忘れていたが、この今の私の体はホムンクルスでね、元はエイダ達の兄弟だった男だが魂が勇者の魂と適合せず、生きたまま、魂が死んでしまった。だが魂が壊れる瞬間、ある景色をこの男は見てな…」
「そして」と王は続ける。
「これは、そのエイダ達の元兄弟が見た、未来の景色だ」
そう言って、王は遥か地平線をみた、それもドンキホーテ達に背を向けて。それをみてドンキホーテは王の背に向けて、吐き捨てるように言った。
「どこをみてーー」
「まあ、見ていろドンキホーテ」
ライジェル王が食い気味に言い返し、じっと地平線を見直す、するとその地平線から、猛烈な風と共に強烈な光が草原を包み込む、その光は地面をえぐり美しい野を徹底的に破壊していった。
やがてその光は王を包み、ドンキホーテ達を包んでいった。
ドンキホーテがあまりの眩しさに目を瞑り、そして目を開けた直後、あの恐ろしい景色はどこにもなく、ただただ、霧のように雲が辺りを漂っているだけであった。
「これが人類の進む道だ、やがて人類は手に余る兵器を自らの手で生み出し、そして自滅する、全てソール国のせいだ、ソール国が全てを歪め頂点に君臨したその反動とでも言うべき結果だろう」
「だから」と王は、確固たる自信を、信念を、執念を持って言う。
「私たちが再び魔王の力を持ってして、世界を導く必要がある!今度は魔王ではなく、神として!世界を歪めてしまった責任を私たちは取らねばならないのだ!!」
振り返り、ドンキホーテを見つめる王の目は、あの時と変わらない。世界を…平和を愛する男の目だった。
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