第105話 愛への報い

 グレン卿は不敵な笑みを浮かべながら、魔王の復活を宣言した。だがそれを黙って見過ごすようなエイダ達ではない。


「おいおい、本当にさせると思ってんのかよ!」


 ドンキホーテそう言い、飛びかかろうとしたその時――


 迎撃しようと構えていた、アルの胸が剣に貫かれた。


「な……に…?」


 アルは突然の出来事に困惑を困惑を隠せない、それはエイダ達もアイラ達も同じだった。


「なにをしてるの!?」


 エイダは叫ぶ、グレン卿がアルを突き刺したのだ。しかし不思議なことに、血は胸からにじみ出ていない。


「許せアル…」


 グレン卿は許しをアルにこう。


「そんな…父上なにをするのですか!」


 アイラの訴えを無視して、グレン卿は剣を引き抜く、アルは地面に倒れ伏した。そして次はアイラの番だ、とでも言わんばかりに、アイラの方を振り向き、剣を構える。


「やめてよ父上!どうしたの!」


 エールの言葉も、グレン卿には届かない、そのままアイラに向かって剣が振り下ろされる。


 しかし、剣はアイラには届かなかった、エイダが妖精から、譲り受けた剣でグレン卿の剣を防いだのだ。

 エイダが誰よりも速く動けたのは、背中の一対の光の翼のおかげだ、その翼のおかげで誰よりも速くグレン卿の元に辿り着くことができた。


「エイダ!都合がいい!お前の魂も私たちによこせ!」


 そのグレン卿の言葉にエイダは震えが止まらない、この男はすでに自分を殺そうとしている。その事実を言葉により感じたからだ。

 しかし怖気付くわけにはいかない、理由はわからないがこの男はアイラ達を殺そうとしている。それを、見過ごすような事はエイダはできなかった。

 エイダは覚悟を決めグレン卿の剣を弾く、この時、エイダは何か違和感を感じていた、それを言葉にできないままエイダはグレン卿と相対する。


「…エイダ!気をつけろその剣!」


 しかしドンキホーテがすぐにエイダが気がついた、違和感を言語化する。


「破壊剣じゃない!魂を吸い取る、吸魂の剣だ!」


 そうドンキホーテの指摘通りだ、グレン卿の剣は前に戦った時と形状が違う、よく見ると剣の柄のデザインが刺々しく、刀身の色も違う。

 エイダはドンキホーテの言葉のお陰でようやく、その違いに気づくことができた。ドンキホーテは続けて言う。


「その剣の特殊能力は魂を吸い取り吸い取った者の力を使える!気をつけろエイダ!世界が静止させられるぞ!」


 ドンキホーテがその言葉を言った瞬間、グレン卿は不敵な笑みを浮かべたまま、剣を掲げた。


 世界の時間が静止した。動けるのはドンキホーテとエイダ、そしてグレン卿だけだ。


「ほう、これが時の止まった世界か…」


 グレン卿は剣を構え直しながら言った。次の瞬間グレン卿が踏み込み、強烈な一撃をエイダにくらわせた。


「きゃあ!」


 エイダは呻き、吹き飛ばされ、ドンキホーテの下まで飛ばされる、ドンキホーテはエイダを飛んでくるエイダを、受け止める。


「大丈夫かエイダ!」


 ドンキホーテは受け止めながら言う。


「私よりもアイラ達が!」


 エイダがそう言って目を向けた先には、止まった世界で、動けないまま剣に貫かれた、アイラの姿があった。


「そんな!」


 止まった世界の中でエイダの叫びが木霊する。

 そして、無駄だと言わんばかりに、グレン卿が剣を振りかざし地面に突き刺す。

 地面が隆起し、複数の石柱となって、エイダとドンキホーテに遅いかかる。

 ドンキホーテは剣を横一文字に一閃、複数の石柱を破壊するも、数に押し負けてしまう、しかし石柱に押しつぶされる前に、テレポートの魔法で自身を石柱の攻撃範囲から逃す。

 エイダは上空に飛んで逃げるがそれでも石柱は追ってくる。エイダ妖精の剣を振り回し火球の魔法を連発した。

 妖精の剣という補助装置により強化された火球の魔法は威力を爆発的増加させ次々と石柱を破壊する。

 だが、ドンキホーテとエイダ達が石柱の相手をしている合間、グレン卿はエールに剣を突き刺していた。


「クッソ!何をしてるかワカンねぇが!相手の思惑通りに行ってるようだぜ!おい!」


 ドンキホーテは悔しそうにいう。エイダは手を握りしめ思う。


 ――守れなかった…


 敵とはいえ、アイラ達の驚きようから見るに、アイラ達が裏切られたのは間違えないだろう。そんなアイラ達を守ってあげたかったとエイダは思っていた。


 しかし、それはもう叶わない。


 アイラ達は、本当にグレン卿のことを愛していた、その愛を利用したのだ。それがどうしようもなく、エイダを苛立たせた。


「アイラ達は!あなたの事を愛していたんですよ!グレン卿!」


 エイダはグレン卿に怒りをぶつける。


「それなのになぜ!」


 ――なぜこんな事を!


 そんなエイダの慟哭に似た叫びに対し、グレン卿は止まった世界の中で答える。


「愛していたさ、しかし所詮は、この子達は世界を救うための道具でしかない」


「致し方ない事、必要な犠牲だ」とグレン卿は、締めくくる。ドンキホーテが怒りを爆発させる。


「テメェ!!それが、仲間を殺す理由だっていうのかよ!」

「そうだ、ドンキホーテ、致し方ない犠牲なのだ。あの子達はな」


 エイダは上空から静かに、剣を握りしめて、グレン卿の言葉を反芻していた。「必要な犠牲」それは本当に必要だったのか、それが愛を裏切る理由なのか。

 どんな理由があろうとも、信じ慕っていた、アイラ達を裏切っていい理由などあるはずがない、エイダはそう思った。たとえ敵だったいえど、アイラ達にグレン卿がした所業を許す事は、エイダにはできなかったのだ。


「グレン!私はあなたを許せない!」

「まてエイダ!」


 ドンキホーテの制止を振り切り、エイダはグレン卿に上空から襲いかかる。静止した世界が回り始める。アイラとエールは倒れる

 エイダはグレン卿に妖精の剣で斬りかかる。グレン卿の右肩から脇に剣が抜けていくような軌道の袈裟斬りをエイダは繰り出す。しかしそれはグレン卿に防がれた。

 続いて、剣を逆手に持ち直し、横一線に斬りつけようとする。グレン卿は再び剣の峰でそれを防いだ。


「流石は、英雄ヨータの魂に一番適合した者、剣の腕前はヨータ譲りか!」

「黙りなさい!!」


 グレン卿の言葉を遮るようにエイダは剣を振るう。今度は斜めから肩に向かうような軌道の逆の袈裟斬り、しかしグレン卿に防がれ、そのまま反撃の蹴りをエイダ食らう。


「くっ!」


 エイダは呻く、そして体勢が崩れたところをグレン卿が一撃を喰らわせようと剣を掲げる。刃が閃光の如く振るわれエイダの首筋に直撃するかと思われた――


「ワシを忘れるでないわ!」


 その時、アレン先生が石柱の陰から姿を現し、火球をグレン卿に直撃させるグレン卿は火傷をしなかったものの火球は爆発し、グレン卿の行動を抑制する。


「行け!ドンキホーテ!」

「あいよ!」


 ドンキホーテがアレン先生の掛け声に合わせてグレン卿の背後にテレポートし、斬撃を食らわせる。グレン卿の左腕では宙を舞った。


「ウグゥ!」


 グレン卿はうめき声をあげ、腕を抑えてドンキホーテ達から距離を取ろうとする。


「させない!」


 エイダが飛び上がりグレン卿に、とどめの一撃を喰らわせようとしたその時。グレン卿の口角が上がったのをエイダは見た。


 グレン卿は血が溢れ出る左手を気にもせず、吸魂の剣よ力を解放する。


 水晶の檻が、エイダを包み込む。これはエイダには見覚えがある。エールの水晶の盾だ。それの応用をグレン卿はやってのけたのだ。


「な…!」


 それは一瞬の油断、とどめだと、これで終わりだと、思ったその瞬間の気の緩みからエイダは檻にまんまと囚われる。


「エイダ!」

「いかんエイダ抜け出すのじゃ!」


 ドンキホーテとアレン先生の叫びも虚しく、グレン卿はエイダを剣で貫いた。

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