第103話 霧の中

 翌日、衝撃的な出来事を聞かされたエイダは、それでもグレン卿を倒す為に、今日出発をしなければならなかった。


「それにしてもライジェル王が…」


 宿屋の自室で、旅支度をしながら思わず呟く、ドンキホーテの話によれば、病死だったらしい。前に会った時はあんなにも元気そうだったのに、やはり無理をしていたのだろうか。


「しっかりしなくちゃ!」


 様々な疑問が頭に浮かんでは消えていくのを抑え、扉を開けた。


 ――考えてもしょうがないんだ、たしかに王様が亡くなったことは悲しいこと、でもわたしにはやるべきことがある


 そうエイダは考えて宿の外、ドンキホーテ達が待っている。宿屋の玄関先へと行った。

 外に待っていたのは、ドンキホーテ、マリデ、アレン先生で、どうやらエイダが一番遅かったようだ。


「ごめんおまたせ!」


 エイダは思わず謝る。


「なあに、別に遅刻ではないのじゃ謝る必要はありはせんぞ」


 アレン先生はいう。


「じゃあみんなが集まったところでさあ船探しに行こうか」


 マリデの提案に全員賛成し、早速港に行き借りられる船を探すことにした。今まで共に、苦楽を共にしたロシナンテしばらくの間の別れを告げて。

 港には大中小様々な船があった、幸い金には苦労していない、冒険の始まりの際、もらった経費込み、報酬の金がまだ大量に残っていたからだ。


「さてと、どの船に乗るかな?」


 ドンキホーテは潮風の香る港町を見渡す。


「ワシらは船の操作なんぞできん、できるなら船乗りも一緒に雇いたいところじゃなぁ」


 ドンキホーテの肩に乗りながら、アレン先生が呟いた。その提案には全員が賛成した。

 なにせ、今の状態は蛇1匹と猫1匹に、人2人だ、どう考えても小型の船動かすのにも苦労するだろうし何より、船の動かし方をエイダ達は詳しくなかった。


「たしかに、私も船なんて初めて乗るかも」


 エイダも苦笑いしながらいう。


「へぇエイダ始めてか、じゃあ良かったぜ一応酔い止め買ったといたからな」


 ドンキホーテは自慢げにそう言った。そしてしばらく船を探し練り歩いていると。大きなガレオン船を見つけた。おおこれならちょうどいいじゃないかとドンキホーテは早速駆け出す。

 遅れてエイダ達も後に続いた。


「すみません!ちょっといいかな?!」


 ドンキホーテはそこら辺の例のガレオン船の船乗りらしき人物を捕まえた。


「実は行きたいところがあるんですが」


 ドンキホーテが説明している間にエイダ達も遅れて合流する。

 事情をエイダ達がその船乗りに説明すると、船乗りは付いてくるようにエイダ達にいう、どうやら船長に会わせてくれるようだ。


 エイダ達は船長室に案内され、室内に足を踏み入れる。中には白髪混じりの中年の男性がいた、顔からはベテランの風格が漂っている。


「やあ、私が船長のエドワードだ、私に仕事を依頼したいと聞いたが…」


 エドワードはエイダ達の連れを見て少々訝しむ、蛇と猫を連れているからだ。なかなかに珍しい依頼主だとエドワードは思ったがとりあえず、話は聞いてくれるらしい。


 ドンキホーテは流石に猫と蛇がいきなり喋り出すと混乱が生じると思い、自分から進んで説明役引き受けた。

 ドンキホーテはエドワード船長に、なるべく魔王のことなどは伏せながら誤魔化して説明した。

 ドンキホーテの説明はこうだ、実は自分達は強大な犯罪者を追っている最中であり、この海域にその犯罪者がいる可能性があると。

 するとエドワード博士は「話は理解した」と言いこう続けた。


「なるほどつまり、この海域に犯罪者いると、それを逮捕しに行きたいのか」


 ドンキホーテは騎士の証である国から発行される印鑑つきの手帳を見せると、エドワード船長はあっさり納得してくれた。「なるほど確かに治安維持の仕事か」と。

 いい説明がそれ以上思いつかなかったためドンキホーテは「そうなのです」と力強く頷く。


「なるほど、だが一つ疑問なのだが、なぜこの海域に犯罪者がいるのだ?ここには隠れられる島などないはずだが?」


 エドワード船長の説明はもっともだった。咄嗟の機転でドンキホーテはいう。


「ああ、実はこのエイダは、この歳で有名な占い師でありまして、捜査に協力してくれているのです、そのエイダの占いによりますとこの海域に犯罪者がいるらしいのです」

「なるほど…するとその放し飼いにしている猫と蛇は占いのアシスタントか」

「その通りです船長!恐らく船か何かに乗っているのでしょう、報酬は十分に払います、危険があったら私が守ります、どうでしょうか?」


 ドンキホーテの提案に、船長は二つ返事で承諾した。ドンキホーテの提示した金額がとんでもなく良かったのもあり、危険を犯すには充分な報酬だと感じたのだろう。


 すぐさま船は例のエイダが地図に指差した航路に向かっていった。





(全く見事に思いつくもんじゃのう、占い師とか)


 アレン先生はテレパシーの魔法でドンキホーテに語りかける。ドンキホーテは船のデッキで手すりに寄りかかり海を見ていた。


(しょうがねぇだろ先生、グレン卿は世間一般じゃ今、失踪扱いだ、説明しようにもできねぇよ、そのグレン卿が実は魔王を復活を狙っているなんて話したら無用な混乱を生じさせるだけさ)

(まあ同感じゃ)


 ドンキホーテは思うこの、依頼は友である王、最期の願いなのだ。ならば成し遂げてやりたいと。

 だがだからといって船長にグレン卿の情報を知られるわけにはいかない。

 万が一自分たちが負けたら、グレン卿は秘密を知った、船乗り達をどうするかわからない。

 嘘をついたのは船長達を守る為でもある、致し方ないのだ。


 ――といっても若干、嘘が膨らんじまったがな


 ドンキホーテがそんなことを考えているうちに、突如霧に船が呑まれた。


 船内に混乱が訪れる、船は今まで晴天の青空の下を進んでいったはずなのにいつのまにか、霧中にいるのだ。


「みんな落ち着いてくれ!大丈夫だ、俺が守る!」


  騎士の言葉に船員たちら若干の安心を取り戻す。

 、

「ドンキホーテこれって!」


 エイダがマリデを連れて船内の客室から飛び出す。


「エイダ!あたりの警戒をするんだ!」

「わかった!」


 エイダ達はこのような事態はすでに慣れている。ドンキホーテはとりあえず攻撃の気配がないことを悟ると、船長に今後の方針をどうするか相談しにいった。

 船長はデッキの上でドンキホーテと同じ様に船員を落ち着かせていた。

 一旦船は状況を整理するために錨を落とす。


「船長、大丈夫ですか?」


 ドンキホーテは船長に声をかける。


「あ、ああドンキホーテか、私はなんともない」


 若干の戸惑いはあるも、どうやらベテランの風格は伊達ではなかったようだ。

 船長は状況を理解しようとつとめていた。


「いまどの辺ですか?船長!」


 ドンキホーテの言葉に船長は海図を広げいう。


「いまちょうど、例の海域の近くだ」

「エドワード…行ってくれますか?」


 この状態は異常事態だ、しかしこの船には行ってもらわなければ、グレン卿が野望を止めることはできないのだ。

 ドンキホーテは船乗り達に対して危険を強いたのだ。

 船長はいう。


「わかった…行けるだけ行ってみよう報酬はすでに受け取ってしまったからな、ちなみにこれは敵の魔法か?ドンキホーテ」

「いえ残念ながらわかりません、しかしもし危険が迫ったら責任を持って守らせていただきます」

「1人でか?」

「私はこの場にいる誰よりも強い、ご安心を」


 ドンキホーテの力強い目に射抜かれ、船長は察する、この男の言っていることは本当なのだと。

 そうと決まればもはや投げ出すわけはにはいかないと船長は船員たちを奮い立たせる。


 船は錨を上げ、再び帆を張る。船は霧の中を行く。




 そして、しばらく船が進んだ時、濃い霧が晴れた。といっても目の前の、だが。

 奇妙な話だが霧の中にどうやら霧のない空間があった。まるで水の中の気泡のようにポツンとここだけ霧がない。

 つまり霧がドーム状にある地点を中心に覆いかぶさっていたのだ、まるで何かを隠すように。


 そして何が隠したかったのかその場にいる誰もが予想がついた。


「なんだこの島は…」


 エドワード船長が呟く。エイダ達の目の前には得体の知れない、巨大な島がそびえていた。


 そう霧は、きっとこの島を覆い隠していたのだ。

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