第101話 なにもない

 目の前の喋る蛇が、マリデだという事実に若干の戸惑いを隠せないエイダ達だったが、しかしそれでも、声はマリデのものであり、状況的に考えてもマリデだと考えた方が妥当であった。


「ま、マリデさん無事だったんですね」


 とりあえずこの蛇をマリデだと確定してエイダが話しかける。

 蛇は「信じてもらえてよかったよ」と話し、こう続ける。


「ああ、一応これも分身でね。この繭に閉じ込められる前に僕の記憶を写した分身を作り出したんだ。いや〜ギリギリだったよ、というわけでこれは分身の分身というわけさ」

「ややこしいな、オイ」


 ドンキホーテが頭を掻きながら言う、たしかにややこしいが、どうにか納得できたエイダ達は状況を整理すべく、マリデを交え話始めた。

 エイダはまずはアイラから聞いたことを全てを皆に打ち明けた、魔王のこと、使者のこと、それぞれ驚くことばかりで、全員が頭を抱え悩み始め沈黙が流れる。


「とにかくだ、問題は奴らがどこに行ったかだな」


 ドンキホーテが沈黙を引き裂き、そう言った。


「奴らはどこで魔王を復活させるつもりなんだ?そもそも死んだ奴の復活なんてできんのかよ?」


 ドンキホーテは「わかんねぇな」と言いながら頭を抱える。尻尾振りながら、アレン先生も口を開いた


「この際方法はどうでもよい、どこに行ったかを考えれば自ずと方法もわかるのではないか?」


 アレン先生の言葉にドンキホーテは首をかしげる。


「どう言うことだ先生?」

「魔王を復活させるには、つまり死者を復活させるような儀式をするには、自ずと大量の魔力、そして環境が必要になる」


「要するに」とマリデが説明を引き取る


「魔王を復活させるための条件に合うような場所は限られていると言うことだ」

「その通りじゃ、そして、場所によって復活させる儀式の内容も変わってくる」


「なるほど」とドンキホーテが手を叩く。


「じゃあとりあえず、奴らの行く場所を考えればいいわけだ!どうやって復活させるのかはそのあとわかるんだな!で?奴らはどこに行ったんだ?」

「それがわかれば、苦労はせんのだがのぅ…」


「さっぱりじゃあ」と、がっくりと肩を落とす、アレン先生をみて、エイダはこじんまりとした挙手をする。


「あの…もしかしたら私わかるかも…」


 その言葉にその場いた全員が目を丸くした。ドンキホーテが身を乗り出して聞く。


「え、マジで…」

「マジ…かも…なんとなくあの兄妹たちの居場所がわかる、アイラみたいに地図を持って来てくれれば、もしかしたらわかるかもしれない!」


 エイダ達は急ぎ、馬車へと戻る。疲れを気にしている暇はなかった、自然と足は進み、夕暮れにはロシナンテに再会することができた。


「あら、エイダ無事だったのね」


 馬車にかけられていた、封印を解き扉を開くと、そこには、アンが座って待っていた。


「うん、なんとかね、ごめん地図が必要なの!」


 馬車の荷物の中から地図を取り出すとエイダはすぐさま外に行き、ドンキホーテ達の元に行く。


「見つけて来た!」


 マリデはドンキホーテの首に巻きつきながら頷く、そしてなにかを唱えたかと思うと、空中に光り輝く光の玉が灯され地図を照らした。

 そしてエイダはその地図を開きじっと見つめる。

 しばらくエイダはじっと見つめていると、なんとなくだが地図のある一点に何か、違和感ようなものを感じた。

 それは、まるで見えない何かが移動しているような、そんな感覚を覚えた


「ここ、何かが移動している」


 エイダが地図の上に指を指す、そして指を違和感が移動するたびにずらしていく。そこからマリデは進路を見出した。しかしどうにも納得の出来ないことがある。


「この進路何を目指しているんだ、この先には何も霊的に優れているところないはずだが?」

「とにかく追ってみようぜボスそうしないとはじまらねぇ!」


 とにかく居場所はわかったのだ、ドンキホーテの言う通り、エイダ達はロシナンテを走らせた。





「のう、エイダ起きておるか?」


 馬車が出発してすぐのことだ、馬車の中、アンが寝静まっているの確認してから、アレン先生がエイダに話しかける。

 ドンキホーテとマリデは外でロシナンテの進路を取っている。ひとまず敵の進路はわかったためその進路に沿うように馬車は走っていた。

 なのです今、馬車の中は実質アレン先生とエイダの二人きりであった


「なあに?アレン先生」

「いや、一つ気になったことがあっての?なぜあの時、妖精の剣を抜かなかったのじゃ?」


 それにエイダはいいよどむ。妖精からもらった妖精の大剣、と言ってもエイダにとっては少し長い短剣のようにか感じられないが、それをエイダはあの謎の遺跡の時使わなかった。

 アレン先生にとってはそれが謎でしょうがなかったのだろう。魔法の補助装置にもなる便利な代物だと言うのに、エイダは今も腰に挿したままなのだ。

「それはね」とエイダは話し始める。


「剣を抜いたら、本当にもう話し合いもできなくなっちゃうなと思って…」

「そうかお主は…」


 そこまで聞いてアレン先生は何も言わなかった、むしろ、この質問をした自分を恥じた。


 ――エイダにとってはあの者たちは自分の血の繋がった兄妹たち残された家族じゃったな


「すまんエイダ、くだらん質問をした」

「いいのアレン先生、私に覚悟が足りなかったのも事実だし、今度はちゃんと剣を抜くよ、魔王が復活させるわけにいかないから」


 エイダはそう言いつつ内心は誰もが傷つかなければいいと感じていた、誰もが平和にいられるような解決策があるはずだと。

 しかしそんな甘い現実ではないことも知っていた、アイラ達の信念は本物だ、いずれ来るであろう残酷な選択にエイダは恐れながら、馬車の中で眠った。





「間違えないのかい?」


 マリデの問いにエイダは頷く。出発して1週間、エイダ達は港町セイドに来ていた。エイダは地図を指差す。


「間違えなくここから、魂の気配が感じます」


 しかしそこは――


「そこは海しかないはずだ…」


 マリデのつぶやきは海に飲み込まれていった。

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