第100話 蛇
「貴方は一体、何者」その言葉は、エイダにとって不可解なものだった。なにせ神の使者の能力は、まだ不明な点が多い。
メルジーナ先生から教えてもらった、例の伝承の知識しかないのだ、逆にエイダ達以上に神の使者の能力を知っているのはアイラ達の筈だ。
そのアイラが今困惑している。
――アイラ達が知らない能力を私が持っている…?
エイダは戦闘の最中だと言うのに目の前の疑問に心を奪われる。そんなエイダを目覚めさせるようにアレン先生の声が、耳に届いた。
「お主ら、さぁどうする!こやつの命はわしらが握っておる!こやつを死なせたくなければグレン卿とともに、引き下がるがよい!」
アレン先生は電撃の魔法を詠唱し、掌をアイラに向ける。掌には紫電が走り、アレン先生がその気ならばいつでも雷が、アイラの体を貫くだろう。
しかしアレン先生は、アイラの命を取るつもりはなかった、あくまでも脅しだ、エイダと歳がそう離れていなさそうな、少女を殺す気にはなれない。
そしてエイダもアレン先生がアイラを殺すことはないと信じこの場を任せることにした。
たがそんなアレン先生の内心とは裏腹に、それを見てアルとエールの2人は手を出すことができない、2人とも黙って見ているままだ。
「こやつに体を再生する能力がないのはマリデから聞いておる!この魔法を食らえばひとたまりもないはずじゃ!」
「チッ」舌打ちがアルの口から聞こえる、エールもまた何もできることがない、指をくわえてみることしかできなかった。
「わかった、手は出さない」
アルは両手を、上げ戦う意思がないことを示す。
「アル!私のことは構わないで!戦うのよ!」
「そんなわけにはいかない!お前を今ここで失うわけにはいかないんだ」
アイラは、その言葉を聞くと言い淀む、確かにアイラを今ここで失うわけにはいかない、魔王に対抗する手段が減るからだ。
「アイラお姉様ごめん、私もアル兄様に賛成だわ」
エールもまた戦うという事を放棄した。
「賢明じゃな」
その様子を見てエイダは内心、安堵しホッと思わず息をついた、アレン先生はいう。
「さあ!グレン卿とともに引くが良い!」
「ああ分かった…」
アルが答えたその瞬間である。
時が止まった。
アルはアイラに向かって弾丸のように突進していく、咄嗟の出来事により気づくのが遅れ、エイダは時の止まった世界に入り込むが、対応ができない。
アイラはアルの手に渡ってしまった。
「しまった!」
エイダは叫ぶ。
アルはアイラを抱え、静止した世界を、元に戻した。戻すと同時に、背中の羽で飛ぶとそのままエールの元に戻っていった。
「エール!」
「兄様やったのね!」
「ああ!このまま父上を連れて逃げるぞ!」
エールもまた翼を展開し、壁の向こう側へと飛んで逃走していった。
「ごめんなさいアレン先生!」
「謝るのは後じゃ!ドンキホーテが危ない、すぐに向こう側に行くぞエイダ!」
アレン先生は壁に白銀の光線を放った。
魔法灯と呼ばれる魔法によって空中に灯される光の玉に照らされる2人の剣士がいた。片方は老人、片方は若者、白髪と黒髪、黒い服と白い鎧と何から何まで正反対の2人は剣を交えていた。
剣がぶつかり合い衝撃波が発生し遺跡を揺らす。
「オラアアア!」
野蛮な叫び声をあげながら、優雅さのかけらもない斬撃を黒髪の男ドンキホーテは、老人にくらわせる。
しかし老人はドンキホーテの剣を自身の剣の峰で受け、防ぐ。たが衝撃までは受け流せず、体勢を維持したまま、地面をえぐりながら後退する。
「ふん…なかなかやるではないか」
老人、グレン卿は、そう言いながら再び剣を体の正中に構え直し。剣越しにドンキホーテを見つめた。
「そりゃあどうも…!」
嬉しくない褒め言葉をもらい、皮肉げにドンキホーテはそう返した。先程からこうして、膠着状態が続いている。
どうにか打開策がないかと、にらみ合いながら、考えていると。
一瞬だけ時が止まる。
それは異変に気付かないほどの一瞬、時が止まったとドンキホーテが気づいたのは、再び時が動き出してからだった。
すると上空から声が響いた。
「父上!退却を!」
グレン卿はその言葉を聞くと、地面に向かって何かを投げた。投げたそれは地面にぶつかると弾け、勢いよく煙を吐き出した。
「煙幕かよ!」
ドンキホーテは、予想外の一手に呆気をとられる。
このままではグレン卿に逃げられる、そう思ったドンキホーテは剣を振るい風を起こし突風を起こし、煙をなぎ払った。
しかしそこにはグレン卿はいない。あたりを見回してもどこにもグレン卿はいなかった。
突如、分断の壁に爆発とともに穴が空いた。爆煙が起こりそしてその中から2人の、人影が見える。
爆煙の中から走りてできたのはエイダとアレン先生だった。ドンキホーテはその姿を見るなり安堵の声を上げた。
「2人とも無事だったか!」
「なんとかのぅ」
その言葉を皮切りにアレン先生は猫の姿へと戻る。「もう限界じゃ」と言いながら変身したアレン先生は、ドンキホーテが一人でいることに訝しむ。
「グレン卿は?ドンキホーテ」
アレン先生の代わりにエイダが聞いた。
「どうやらまんまと逃げられたみてぇだ」
アレン先生は、辺りを見回し「そのようじゃの」と呟く。
「どうやら転移魔法でどこかへ飛んだようじゃ、ほれ見てみろ」
アレン先生の前足の指す先、そこには、先程まで無かったはずの、複雑な模様の魔方陣が床に現れていた。
「クソ、前から仕込まれてたのかよ」
「そのようじゃな」
エイダはいう。
「待ってまだあの魔方陣でグレン卿と同じところに飛べるんじゃないの?」
エイダはまだ諦めてはいなかった。しかしそんなエイダの思いにアレン先生は水を差すような返答しかできない。魔方陣をじっと見つめてアレン先生は言う。
「ダメじゃな、もう転移先で閉じられておる、このタイプの転移魔法は、入り口と出口を作っておるものでの、どちらかを閉じてしまう昨日しなくなると言うものなのじゃ。」
「じゃあ今頃グレン卿はもう安全なところに…」
エイダは肩を落とす。だが気を落としている場合ではない、まだやるべきことがある事をドンキホーテが思い出す。
「そうだ!ボス!」
その言葉に、エイダもハッと気がつく、白い鎖の繭にエイダ達は駆け寄った。
「多分、こんなかにボスがいるはずなんだ!」
ドンキホーテは剣を叩きつける。しかし白い繭はビクともしない。
「クソ硬いな、オイ!」
「バカモン、落ち着けドンキホーテ、これは古代の魔法でできた封印術じゃ、ワシでもこれは解けん、残念じゃが、マリデはココにおいていくしかない」
見事に、これで戦力を減らされてしまったと、落胆するアレン先生のそばに細長い何かが忍び寄る。
エイダはそれに気づくと、アレン先生に呼び掛ける。
「あ!アレン先生、ヘビ!」
「にゃわあああ!」
人間と、猫が入り混じったような叫び声をあげ、アレン先生はエイダの肩に飛び乗った。
ドンキホーテは「気をつけな!毒ヘビかもしれねぇ」とエイダ達を庇い一歩前に出た。
するとヘビはドンキホーテ達の方をじっと見つめると…
「ひどいなぁ、毒ヘビなんかじゃないよ、僕は」
喋り出したのである。
「その声まさか…」
エイダはその声に聞き覚えがあった。
「まさかマリデさん?!」
肯定するようにヘビは鳴いた。
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