第99話 あなたはなにもの?

 聖剣が、弧を描き三日月状の光の刃が射出される。その刃は真っ直ぐとエイダに向かっていく、エイダはそれを魔法障壁で防ぐ。


「くっ!」


 たとえ魔法障壁で防いでも、衝撃波は伝わり、エイダはよろめく、体勢が崩したところをエイダはアルに狙われる。


「もらった!」


 ――まずい!


 アルはいつのまにかエイダの背後にとてつもないスピードで回り込んでおり、雷を纏った貫手を繰り出した。

 エイダは咄嗟のことで、攻撃されることを認識できるが回避が間に合わない。

 アルの貫手による一閃が、エイダの胴体を貫こうとした瞬間、アルの体は火球に飲み込まれ、吹き飛ばされていった。

 エイダが目を、火球がきた方向に向けると、アレン先生が掌をこちらに突き出していた。


「大丈夫かエイダ!」

「うん!」


 エイダはアレン先生の隣にバックステップで着地する、聖剣の一閃を放ったアイラは未だに余裕そうな笑みを浮かべている。

 エールはアイラから付かず離れずの距離を保ちいつでもアイラを守れる位置に立っていた。

 エールが守り、アイラが安全な後方から攻撃、そしてアルがトドメを刺す、隙がなく一瞬でも油断すれば、やられてしまう、そんな緊張感をアイラ達は生み出していた。

 そんな中唐突に、アレン先生がエイダに語りかける


「エイダ、なぜアイラは前回の襲撃時に、聖剣を持っていなかったと思う?」


 エイダはアイラ達に目を配りながら返した。


「さあ、わからない、もしかして何か条件があるのかな?」

「その通りじゃ、おそらくじゃが、あの聖剣、破壊剣は紛い物、何かしらの制限があるはずじゃ例えば時間とかの」


 あの、紛い物の聖剣は形を保っていられるのは時間に制限がある、そう考えれば前回の襲撃の時、聖剣を持っていなかったのも頷ける。

 あの時は、エイダの発見までにかなりの時間を要していた。


「もしそうだとしたら…」

「聖剣の形が保てなくなる瞬間、相手の戦力は激減するとみていい」


 ――正解ね、全く、年寄りの勘というやつかしら?


 アイラは心の中でそう思う。確かに模造の聖剣は威力も本物とは劣る、おまけに時間が過ぎれは大気に霧散していくという代物だ。




「エイダその瞬間を狙うぞ!」

「わかった!」


 アレン先生の言葉に応えるエイダ、それを見て、全く敵ながら、的確な作戦を練ってくるものだとアイラは感心した。


「厄介ね、全く…」


 アイラは聖剣を構え直す。


「アル!体は再生できたの?」


 アレン先生の魔法によりその体を紅蓮の炎で焼かれた、吹き飛ばされたアルが、アイラのとなりに光の翼の羽ばたきとともに舞い降りた。


「問題ない」


 アルは、まるで何事もなかったかのように再び、構えの姿勢をとる。

 先に仕掛けたのはエイダ達だった、エイダは風の魔法と火の魔法を組み合わせ、巨大な火炎を作り出した。

 火炎の旋風がアイラ達を襲う。

 しかし、エールが水晶の盾を使い、再び防いだ。火炎は水晶の盾に当たると同時に二股に分かれ、アイラ達の両隣を過ぎていく。


 防げたものの、アイラ達の目の前には炎の渦が広がり視界を防いだ、すると炎の渦の中から魔法障壁を纏った、女が飛び出してきた。

 アレン先生だ、アレン先生はまさか接近してくると思っておらず混乱しているアイラ達の懐に、まんまと入り込み、こう唱えた。


「想像の土よ!我が思いに応え、怨敵を貫け!」


 地面から岩の槍とでもいうべきか、円錐の状の岩の突起が複数、生成される。その円錐はアイラ達3人向かって伸びていった、アルは上空に避け、アイラは剣で防ぎ、エールは水晶の盾を使って凌ぐ。


「魔術師のくせに接近戦とは生意気な!」


 アルが空中に浮かび叫んだ瞬間、何者かが背後にいることを感じた。

 後ろを振り向くと、そこには黄金の両翼を広げたエイダがいた。


「ごめん…!!」


 エイダは思い切り、その両翼で、アルを殴打する。地面に落とされる瞬間アルは気づいた、火炎が途切れていることに。


 ――奇襲のタイミングをここまで綺麗に合わせてくるとは!


 アルは床に激突、床は砕け、アルは口から空気を吐き出し、そのまま意識が遠のいていった。


「アル!」


 アイラがアルの名を呼ぶ、だが、返事はない、アイラは目の前の魔女を殺すことが優先だと考え、聖剣に力を込め振り下ろした。

 閃光がアレン先生の体を包み、かき消した。


 ――やった…!


 閃光はそのまま一直線に、柱が連なる場所まで飛んでいきそこで爆発した。

 アイラは内心、歓喜する。だがアイラの視界の端に光を感じた。その方向に目を向ける。

 そこには、光でかき消したはずの魔女が立っていた。


「デルタ・レイ!」


 アイラは驚く暇はなかった、属性複合魔法が放たれる。

 エールが素早く反応し、アレン先生の魔法を水晶の盾で防ぐ。


 ――分身の魔法!


 アイラはすぐに理解した、あの時、屠った魔女は恐らく本体ではなく分身だったのだろう、考えてみれば妙な話だったのだ魔術師が接近してくるなど。

 そして何よりも聖剣を無駄撃ちに終わったのはアイラにとって、痛手だ。

 その証拠に聖剣は風に舞う砂のように、頭身が綻んだいき、消えてしまった、そう限界がきたのだ。

 エールは未だにに光線を防いでいる。空になった手を見つめてアイラは叫ぶ。


「でもまだよ!」


 アイラは背中の羽を羽ばたかせ、エールの盾の陰から出た。アイラは地面すれすれを飛行しながら地面に手をかざす、すると地面がえぐれ変形し無数の石柱となってアレン先生に向かって伸びていった。

 アレン先生は光線を出す傍ら、片手で魔法障壁を展開しその石柱を防いだ。

 だが、アイラの猛攻は止まらない、すぐさま石柱の上をなぞるようにアイラは飛行しアレン先生の頭上に行くと懐に手を伸ばし短剣を取り出した。


 ――これで!


 短剣をアレン先生に向け、突き刺そうとしたその時。


「アレン先生!」


 エイダはアレン先生が危機を陥ってると気づき無意識に、あの光の翼の羽からなる、光の剣を生成していた。

 エイダは無数に生成した光の剣を射出する。


 アイラの防御は間に合わなかった、アレン先生に意識を取られすぎていたのだ。無数の剣にアイラは貫かれ、そして腕をちぎり飛ばされた。


 悲鳴も上げられずにアイラは落下していく


「そんな!」


 代わりに悲鳴のような声をあげたのはエイダだった、エイダはおもわず、アイラを抱きかかえ地面に降りた。

 アレン先生は光線を照射するのをやめ、エイダの方を見る。エールは息を切らしながら膝をついた。アイラが死んだその絶望をみにしみて実感したのだ。


「せめて無力化できればと…」


 エイダは思わず祈った、お願い死なないでと。

 するとエイダの手が暖かく光り輝き、アイラの傷を治していった。

 アイラは朦朧とする意識の中、気づく、自分のちぎれとんだ腕も再生していることに。


「エイダ!そのものをしっかり抱えておれ!」


 アレン先生は間に近づきすぐさま、封印の魔法をアイラに施す。


「これで2対2じゃな」


 その言葉でアイラはすぐさま覚醒し起き上がるも、封印の魔法を施されたため能力が使えないことに気づく、そして体も思うように動かない。

 エイダは、唱える。


「光の鎖よ!」


 光の鎖がアイラを縛り付け動きを封じた。


「エイダ、あなた…一体何者なの!」


 悔しさ紛れかアイラはエイダに対して、強い口調で言う。エイダはなんのことかさっぱりわからない。アイラは叫び続ける。


「切断された肉体を、再生するなんて能力、神の使者の能力では確認されていない!貴方は…一体なんなの!」

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