第14話 少年の正体

  謎の少年はエイダに微笑む。まるで家族に向けた愛 情のこもっているかのような微笑みだ。

  しかしエイダは納得がいかないなぜならこの少年の素性がさっぱりわからないからだ、なのに彼はまるで家族の一員のようにエイダに話しかける。そこにエイダは温度差を感じていた。

 

「あなたはいったい誰なの?」


「昨日言ったでしょ?僕は英雄、勇者、賢人、そして神の使者」


「それだけじゃわからなくない……?その、名前とかその、教えて欲しいなって。」


「覚えてない」


「へ?」


「覚えてないんだ。今はね、じゃあ僕は疲れたから寝るねお姉ちゃん。」


「待って・・・!」


 そういうと少年は部屋から消える。最初からそこにいなかったかのように。


「どうしたんだエイダ急に黙ったりして。」


 ドンキホーテは心配そうな顔をしてエイダに話しかける。


  エイダは先ほど起きたこと、そして少年のことを話した。

  ドンキホーテとアレン先生はエイダの部屋の中でエイダの話を聞き驚愕する。


  「神の使者ぁ?!」


「ワシは魔法のこと以外、よくわからないが……なんとも不思議な話じゃの」


「驚いたな先生、神の使者の召喚は魔法じゃねぇのかい?」


「召喚魔法というのはどちらかというと教会側、つまり聖職者がやる行為じゃワシら魔女はやらんよ、やるとしても悪魔を召喚するぐらいじゃ。」


 それにとアレン先生は付け足す。


  「神の使者というもの自体ワシは初めて聞いたぞドンキホーテ。お前さんの方が詳しいのではないか?」


 エイダも頷く。


「私ももっと神の使者が活躍する物語が知りたい。私自身の出生に関わってるかもしれないし!」


 ドンキホーテは少々困ってしまう。ドンキホーテの知っていることなど1人のちょっとした小説好きレベルで、専門的なことは知らなかったからだ。

  俺の知ってることでよければとドンキホーテは遠慮がちに神の使者について説明し始めた。


  「そもそも神の使者の概念が出てきたの今から2、3年くらい前なんだ。神の使者つーのはエルフ族や妖精族の伝説をもとに作られたんだ。この伝説は不思議なことにエルフ族にも妖精族にもある共通点があってな、世界の危機が訪れる時、異界である地球という地から神に選ばれしものが生まれ変わりこの世界に来る。そしてその危機を救ってくれるという伝説があるんだ。

 エルフ族にも、妖精族にもちょっとだけ差異はあるが概ねこんな感じの伝説が語り継がれてるんだってよ。

  そしてそれらの伝説を2000年前の魔王を討伐したの勇者の伝説に絡めたのが、偉大なる神の使者モノの先駆者、メルジーナ先生さ!

  この先生はな気難しい、エルフ族と恐ろしい妖精族に根気強く取材して残っている神の使者の記録、地球の描写を調べ上げたんだ。そしてメルジーナ先生のあとがきによると、2000年前の魔王討伐伝説と2つ種族の伝説には似通った点があるらしい。

  勇者は、生まれた時から様々な魔法の才、武術の才があったと言われる。この伝説の部分が非常に似通ってるそうだ。

  これは勇者が実は転生つまり異世界、地球の民の生まれ変わりで、神によりその才を授けられたんじゃないかっていう可能性があると、先生は言っているんだ。」


 ドンキホーテは説明を熱く語る。


「そこでだ、じゃあなんでその生まれ変わった勇者の魂がエイダ共にあるのかって話になるよな。」


 エイダはハッとする確かにそうだ。なぜ自分の魂と彼の魂があそこまで近しいところにあるのか。

 その疑問にちょうど答えるようにドンキホーテは話を続けた。


「魔王退治の伝説は最後にこう続いてる。魔王を倒した勇者は神の手により座についたと。つまり神と同等の存在になったんだ。だからエイダが見た勇者様は神様なんだよ。だからエイダを神の使者にしてこの世界に連れてきたんだ。」


「待つのじゃ、それにしてはおかしくないかの?エイダよもう 一度確認する。地球での記憶はあるか?」


 エイダは首を横に振った


「ドンキホーテ、転生者というものは地球の記憶が引き継がれるものではないのかの?だからこそ地球の景色が伝説として残っておるのじゃろ?」


 それはエイダも気になっている事だ。なぜ自分には地球での記憶がないのか?


「そうだな確かに、転生者には地球からの記憶を引き継がれるって言われてる。」


 ドンキホーテは深く考えたのちこう結論を出した。


「なんか勇者様もミスったんじゃねぇ?」


 2人はずっこけそうになった。

 

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