第15話:裏話

 真剣に果ての地の開拓を考えて、分かった事があります。

 それは何故この地が皇太子領にされているかです。

 皇帝陛下に失敗の汚点をつけることができないと同時に、開拓資金を皇国財政からではなく、皇太子の私費で出すためでした。

 皇国の財政を傾ける事がないようにしているのです。

 しかも皇国軍と皇太子軍を労働力として利用できるので、大幅な経費が削減できますし、当たり前の事ですが、防衛戦力としても活用できます。


「セザール筆頭城代家老殿、この川と湖は皇太子領なのですね?」


 私は来る時に渡った大河と、その後で見た驚くほど大きな湖が、皇太子領であることを確認しました。

 この二つが皇太子領に含まれている事が、果ての地開拓のための布石なのは、現地を見てよく分かりました。


「はい、建国皇帝陛下の勅命で、果ての地とこの一帯は皇太子領とされております」


 本当に建国皇帝陛下はよくこの地の事を御存じで、技術が進んで果ての地に水を送れるようになれば、水争いになると分かっておられたのでしょう。

 単なる皇室領では、家臣の褒美で分割されてしまう恐れがあるから、皇太子領としたうえで、開拓の遺命を残せば、経費の捻出のために、誰も皇太子領を分与させられないと、考えられたのでしょう。


「セザール筆頭城代家老殿、地下用水路ではなく、運河を大河から果ての地まで建設する事は可能ですか?」


 セザール筆頭城代家老殿は悩んでおられますね。

 皇国軍と皇太子軍を動員しても、全く経費をなしにはできないです。

 両軍に所属している騎士や従騎士、兵士や奉公人の忠誠と士気を維持するには、多少は褒美や酒食を与える必要があります。

 今の皇太子領の収支にどれだけの余裕があるのか、それによって実現できることが変わってくるでしょう。


「皇太子殿下が遠征から帰られましたら、莫大な量の素材が手に入ります。

 それを活用する事も、売り払って費用に充てる事も可能です」


 セラン皇太子殿下は本当に恐ろしい方ですね。

 私が果ての地を開拓できると予測したうえで、必要な費用を手に入れに行かれた。

 恐らくご自分でも開拓案を考え付いておられたのでしょう。

 それなのに、自分の手柄にはせずに、私の手柄になるように仕込まれた。

 あの舞踏会での会話は、私に手柄を立てさせられるか、能力確認されたのですね。

 だとすると、セラン皇太子殿下の私を愛しているという言葉も信じられます。


「セザール筆頭城代家老殿、私はセラン皇太子殿下が無事に帰られる事と、莫大な素材と財宝を持ち帰られる事を確信しております。

 ですから、今から運河の建設を始めます」

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