第11話:会談か謁見か

「今回の謁見は臣の力不足から起きた事、太妃殿下には申し訳なく思っております。

 ですから、ここで太妃殿下が申された事が、表のやり方にはそぐわないと臣が判断いたしましたら、臣の独断で握り潰させていただきます。

 その事はここにおられる後宮の方々も聞いておられますので、ご安心ください」


 私は筆頭城代家老の言葉を聞いてほっと胸をなでおろしました。

 一応最初の応答は合格点をもらえたようですが、まだ油断はできません。

 どこに罠が仕掛けられているかわかりません。

 少なくとも、筆頭城代家老が口にする謁見という言葉を認めてはいけません。

 認めたら、私が図に乗っていると思われます。


「分かりました、筆頭城代家老殿。

 この会談で話された事が、あくまでも雑談であるというのなら、私も警戒せずに思う所を口にすることができます。

 筆頭城代家老殿は政務で忙しいでしょうから、直ぐにセラン皇太子殿下が決められた、領地のお話させていただきましょう」


 私は筆頭城代家老が口にした謁見という単語を再度会談に訂正しました。

 その上で、セラン皇太子殿下が決められた事と強く言葉にしました。

 全ての責任はセラン皇太子殿下にあるのですから、当然の事です。

 ですが筆頭城代家老もしつこくて、必ず謁見と言い直します。

 私も会談と言い直します、自分の命がかかってるので、断じて引きません!


「では、その王太子領では水不足が起こっているのですね?」


 私は筆頭城代家老と言葉の駆け引きしながらも、早くこの会談を済ませたくて、要件をテキパキと処理するようにしました。

 私が何を言っても、最後は筆頭城代家老が決めるのです。

 まあ、それも当然で、馬鹿な主君の愛妾の言葉通りに領地を統治していたら、王太子領が破綻してしまいます。


「はい、左様でございます」


 私は資料を読みながら、問題点を考えました。

 河川から用水路をひいて田畑に水を送れる場所は、確実に工事が進んでいます。

 乾燥地帯では、地下用水路が活用されています。

 どちらも利用できない場所には、通潤橋まで建設されています。

 セラン皇太子殿下と家臣団は、皇国の発明を積極的に取り入れて、やれる限りの事をやられています。

 私が口出仕するような事は何もないと思うのですが……


「この場所ですが、組み合わせはどうなっているのですか?

 踏車と牛揚水器を上手に活用しているようですが。

 少しこの場所の農地は減りますが、ここに溜池を造って、ここから更に踏車と牛揚水器を使って、水不足の場所に水は送れないのですか?

 労力はかかりますが、牛さえいれば人間の負担は減るでしょう」

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