第12話:承認

 私が指摘した場所は、とても特殊な地形でした。

 乾燥地帯なのに、急流に深くえぐられたような谷が複雑に組み合わされています。

 しかも水源地のある側がかなり低い場所にあるので、通潤橋が利用できません。

 いえ、谷があまりに深く広いので、石橋を造るのが難しく、縄と木を組み合わせた吊橋でつながっているだけです。

 それでも、それなりに広い場所なら、無理をしてでも開墾するのでしょうが、それほど広い場所でもないのです。


「疑うようで申し訳ないのですが、この地図の比較が正確だとしたら、四カ所に牛揚水器と溜池を造れば、広大過ぎて果てが確認できていないという場所にまで、水を送れると思います。

 ただ、これをなすには、莫大な労力と資金と時間がかかるでしょう。

 それだけのモノをここに投入するよりは、もっと開墾しやすい場所に、労力と資金と時間を投入した方が良いのではありませんか?」


 私は、前にいる筆頭城代家老と政務官達、後ろにいるアナベルと侍女達に認めてもらうために、考えられる手段を話しましたが、実行しない方がいいとも言いました。

 確かに私の考えた方法ならば、長い目で見れば利益が上がるでしょう。

 ですが、もっと効率のいい場所に力を注ぐのが領主の務めです。

 私の策は、上中下で言えば、中の策でしょう。

 いえ、損はしないとはいえ、大きな利もない、中の下策でしかありません。


「いいえ、これはセラン皇太子殿下が絶対にやらなければいけない課題なのです。

 確かに太妃殿下の申されるように、もっと開墾しやす地に力を注ぐ方が、領主としては正しい政策です。

 ただこの地の開墾は、代々の皇帝の悲願であり、今上陛下からセラン皇太子殿下に与えられ後継者としての課題なのです。

 このような素晴らしい策を御教授いただけたこと、心からお礼申し上げます」


 筆頭城代家老殿が深々と最敬礼したと同時に、表の政務官全員が同じように最敬礼してくれたかと思うと、後ろに並んでいたアナベルと侍女達まで最上の礼をとってくれたのには驚きました。

 ですが、同時に、これが失敗した時の事を考えて、背筋が凍りました。

 ここまで礼をとってもらって、皇国の悲願とやらに莫大な労力と資金と時間を投入して、失敗してしまったら、その責任はどれだけ重いのでしょうか?


「筆頭城代家老殿、アナベル皇太子後宮総取締殿、これが皇国の悲願とまで言える重大政策なら、全く話が違ってきます。

 このような絵図面と書類だけで論じる事などできません!

 実際に現場に行き、風を感じ、土地を調べ、棲む獣の習性まで調べなければ、万全の体制で開墾はできません。

 私は何としてでもその場所に行かねばなりません!」

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