第10話:筆頭城代家老
私の目の前には、セラン皇太子殿下の筆頭城代家老と名乗る方が平伏しています。
城代家老というのに、頭に筆頭がつくという不思議、普通は城代家老は一人なのですが、皇太子領が広大な上に散在しているので、複数の城代家老がいるのです。
私は男性と謁見するために、政宮と後宮の間にある、中宮という場所にまで、戦闘侍女に護られてやってきたのです。
この状況は正直もの凄く居心地が悪いです。
相手は傅役に次いでセラン皇太子殿下の信頼が厚い方なので、何かあれば私など独断で処刑することもできるでしょう。
後宮総取締のアナベルが大丈夫だと言ってくれてはいますが、この言葉を鵜呑みに出来るほど私は天真爛漫ではありません。
「太妃殿下の御尊顔を拝し奉り、恐悦至極でございます」
背中にぞわぞわとしたモノが駆け上がり、脇と背中に嫌な汗が流れます。
筆頭城代家老は満面の笑みを浮かべていますが、眼が笑っていません。
いえ、周りの人間には笑っているように見える眼なのかもしれません。
ですが、私には分かります、こいつは私を採点しています。
セラン皇太子殿下の側においていいモノなのか、それとも排除しなければいけないモノなのか、冷徹に見定めているのです。
「セラン皇太子殿下が心から信頼されておられる、筆頭城代家老殿にそのような丁寧な挨拶を頂くと、身の置き場に困ります。
太妃の役目は頂いていますが、私もセラン皇太子殿下の臣下の一人です。
同じ主君に仕える臣下として、正直な話がしてみたいと思っています。
そこで率直に言わせていただくのですが、私には会談の意味が分からないのです。
私は後宮でセラン皇太子殿下に仕える身ですから、表の政務に口出しするのは大きな問題があるのではありませんか?
もし問題があるのなら、筆頭城代家老殿からセラン皇太子殿下に諫言するわけにはいかないのですか?」
筆頭城代家老殿の笑顔が一段と深くなりましたが、その眼から放たれるモノも、一段と鋭くなりました。
そのような視線を向けられては、失禁してしまうではありませんか!
そんなことになってしまったら、恥ずかしくて自害するしかなくなります。
もう少し婦女子を労わる心を持つべきだと思いますよ、筆頭城代家老殿!
「お言葉もっともでございます、太妃殿下。
臣も一大事と考え、すでに殿下に諫言させていただいております。
しかしながらお聞き入れ頂けず、このような仕儀となっております。
臣の力不足で太妃殿下に御足労願ってしまい、申し訳なく思っております」
ああ、なんてことをしてくれたのですか、セラン皇太子殿下!
これでは表の家臣全員に毒婦と思われてしまっています。
ここは何としてでも印象を変えなければいけません!
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