第9話:罠なの
私は居直る事にしました。
側室であろうと人質であろうと、そう簡単に後宮を出る事はできません。
もしかしたら、一生出らないかもしれません。
ですが、希望を捨てるわけにはいきませんし、出られる可能性もあります。
問題は実家が潰されて何も持たされずに放り出された時の事です。
そんな時のために、知識や技術は手に入れていなければいけません。
幸い後宮には莫大な蔵書がありますから、それを読んで勉強です。
「太妃殿下、表の政務官が謁見を希望しております、いかがいたしましょうか」
私が皇太子領の報告書を読み、新発明の農業技術の成果と問題点を確認していると、後宮総取締のアナベルが話しかけてきました。
建前上は側室の私の方が地位が上になっていますが、あくまでも建前です。
下手に逆らえば、私は病死することになるかもしれません。
大好きな読書の邪魔をされても、嫌な表情を浮かべるわけにはいきません。
「アナベル後宮総取締、私は後宮の仕来りを知りません。
こういう時は会うべきなのですか?」
私は正直に自分の無知をさらす事にしました。
ここで見栄を張るのは、意味がないどころか墓穴を掘りかねません。
今は無知でも聞くことで知識になります。
もっとも、聞いたからといって真実を教えてくれるとは限りませんが、セラン皇太子殿下が選らばれた人間なら、それほど悪人が紛れ込んではいないでしょう。
「普通なら皇太子殿下がおられない時に男と会う事は危険で止めた方がいいです。
罠を仕掛けられていて、不義密通を疑われ、処罰される可能性があります。
しかし今回は、皇太子殿下直々に私と表の総責任者に、領地の決済は太妃殿下に決めていただくようにとの命令がございました。
今日まで後回しにできる事は、全部皇太子殿下が戻られてから決済するようにしてきましたが、どうしても早急に決めなければいけない事ができたのでしょう。
今回ばかりは謁見していただくほかございません」
セラン皇太子殿下、なんという命令を残していったのですか!
私を処断したいのなら、アーサーの腕を斬り落とした時に、一緒にやればいいではありませんか!
わざわざ皇国にまで連れて来て、後宮に押し込めて、期待と不安に胸が潰されるような状態にしておいて、陥れようとするなんて、酷過ぎます!
「太妃殿下、誤解されておられるようなのでひと言申し上げますが、これは罠ではありませんし、殿下の太妃殿下への好意も嘘偽りはございません。
ただ、太妃殿下を邪魔に思っている王侯貴族は数多くおりますので、油断されてはいけませんが、今回は気を付けて謁見される分には大丈夫でございます」
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