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 二人を乗せたボートは、本島へと進路を取っていた。西に傾いた太陽が、細かな水面の揺らぎの一つ一つを写し取るかのように跳ね返り、その数知れない三角の光の群れを透かして見る船影が影絵のように揺れた。成功裏にクジラとの遊泳を終えたダイバーたちは、それぞれの感動を胸に刻みつけながら、海を渡る風に髪をなびかせた。そして、何度となくあの興奮を反芻していた。ちっぽけな人間とは比べるべくもない偉大な生き物が、各自の心一杯に満ち溢れている。「自分はなんてちっちゃなことで悩んでいたのだろう?」そんな思いが、一人一人の胸に去来しているに違いなかった。

 「俺、琴美と一緒にダイビングに挑戦して良かったよ。スッゲェ感動した」

 港へと戻る船に揺られながら、祐介と琴美は並んでベンチシートに座っていた。琴美は祐介に肩を寄せ、頭をもたせ掛けていた。

 「えへへ。私も」

 気が付くと、二人はまた手を繋いでいた。いったいいつから繋いでいたのか、祐介には判らなかった。

 「今度は祐介の番だからね」

 「何が?」

 「あぁーっ! 覚えてないんだぁ!」

 「ゴメン、何だっけ?」

 「もう、いいっ!」

 プイッと膨れた琴美だったが、その顔は別に不機嫌そうではなかった。その表情を見た祐介は、それ以上その件について話すことはしなかった。琴美の笑顔以上に大切なことなど、有るはずはないのだから。この手をいつから繋いでいたのかは忘れてしまったが、それはさほど重要ではないことに祐介は気付いていた。大切なのは、いつまで繋いでいられるかだった。

 二人の夏休みが終わろうとしていた。

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