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「やっぱり青木のヤツ、俺たちの味方みたいなこと言っといて裏切りやがったんだな!」
「うん・・・」
琴美の表情は、意外とも失望とも言える複雑さを湛えていた。やはり綾子を『敵』と考えねばならないのだろうか? おそらく『味方』ではないのであろう。少なくともそう認識しなければ、自分たちが傷付けられる事態を避けることは出来ないし、彼女と親密にすることで得られる物も無さそうだ。綾子本人が瓦解させた信頼関係の礎は瓦礫と化し、その上に築き得る楼閣など有りはしないのだから。それは動かしようもない冷徹な事実であった。
そもそも、生徒より教師の方が大人であるとか、人間が出来ているという保証など何処にも無い。彼らの方がむしろ、生徒たちよりも幼稚であったり、卑劣であったり、視野が狭かったりする場合が有ることは、大人であれば誰だって知っている真理の一つだ。大学で教職課程を修めたからと言って、あるいは教員試験にパスしたからと言って、その人物に『教育者』たる資質が有るとは言い切れないのだから。だが生徒たちにとってそれは、承服し難い現実であることも、また一つの真理なのだ。そういった幻想は、教師側が自分たちの都合で勝手に作り上げた独善的な前提条件に他ならないし、それを疑う視野を持たないことは、盲目的な信仰の一種でしかない。それを「おこがましい」と思えない時点で、その教師は「先生」などと呼ばれる資格は無いことに気付くべきなのだが、琴美はまだ、その幻想を捨て切る勇気が持てないのだった。琴美は聞いた。
「祐介の方は大丈夫だった? お父さんとかお母さん・・・」
「ウチの親はあんまり面倒臭いことは言わないから。『学生の間は校則の範囲内で行動しろ』って釘刺されただけだよ」
「そっか、いいなぁ・・・ ってか、何? その棒読みみたいな言い方?」
「だって、そういう風に言われたんだからしょうがないじゃん」
琴美には意味が判らなかったが、祐介の穏やかな表情から、きつく叱責を受けたわけではないことが知れて安心した。
「いずれにせよ、暫くバイトは出来ねぇな。冬休みまで我慢するか・・・」
祐介は遠くを見るような視線で言った。
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