第三章:並木家
1
祐介は自室のベッドに寝転がり、脚を組んだ姿勢で琴美に借りたダイビング・マガジンを読んでいた。そこには、色とりどりの熱帯魚が、サンゴ礁の合間で泳ぐ姿が有った。祐介は、自分がそういったサンゴ礁の間をぬって泳ぐ姿を想像してみた。「きっと気持ちいだろうなぁ」そう言ってウンと伸びをした。その時、雑誌の記事に出ている、見慣れない文字が目に付いた。
「このBCDってのは何なんだ?」
雑誌から目を離さずそう言うと、床のローテーブルで別の雑誌を読んでいた琴美が答えた。
「それは浮力調整装置のことだよ。色んなタイプが有るけど、今はショルダーベルトタイプが主流かな。水中で簡単に中層に浮くことが出来るから、無重力みたいな感じになるんだって」
「へぇ~、やっぱ海に潜るとなると、色々装備が必要なんだな」
琴美は読んでいた雑誌をパタンと閉じて言った。
「そりゃそうだよ。だって危険と隣り合わせだもん。適切な機器を適切に使わなきゃ事故になっちゃうよ」
その時、部屋のドアが開いて祐介の母、優子が顔を出した。普段なら、祐介の部屋にコーヒーを持って来ることなど決して無い。息子の部屋に上がり込んでいる女子が気になって仕方がないのか、その手にお盆に乗せたお菓子とアイスコーヒーを携えて、ニコニコしながらやって来た。何も、今日初めて連れてきたわけでもないのにだ。
「いらっしゃい、琴美ちゃん」
「あっ、おばさん。お邪魔してます! わぁっ! わたし『たけのこの里』大好きっ!」
琴美はコーヒーよりもチョコレートの方が気に入ったようだ。
「でしょ? この前、そんなこと言ってたから。祐介なんか、絶対『きのこの山』の方が旨いって言うのよ」
「えぇ~、判ってないなぁ男子わぁ。絶対『たけのこ』ですよねっ、おばさん!」
女子供に『きのこの山』の旨さは判るまい。祐介はそんな風に思った。
「うっせぇな、それ置いたらさっさと行けよ」
「はいはい。じゃぁ下に居るから、何かあったら声かけてね」
「はぁ~い」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます