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 「それは放ってはおけないわね」

 その日の放課後、祐介は職員室に来ていた。自分の席に座っていた担任の青木綾子は、キャスター付きの回転椅子をクルリと回し、机を右脇に抱える様な姿勢で祐介を見た。薄っすらと青が混じる清潔なシャツに、膝下まである黒を基調としたスカートを履いていた。そのスカートの中では、彼女のスラリとした脚が組み合わされている。綾子は腕組みをして続けた。

 「で、並木君は山下さんがイジメされているところを目撃したの?」

 「いえ、直接見たわけではありません。ただ、山下が持ち込んだ雑誌に落書きされているのを見ました」

 祐介は琴美の涙を思い出していた。同じクラスメイトでありながら、彼は琴美がイジメられていることなど、全く気づいていなかった。そんなことが自分の身の回りで起こるなんて、信じられない気持ちだった。

 「なるほど・・・ じゃぁ誰がやったか心当たりは有るのかしら?」

 「いえ、それは・・・ 全く有りません」

 「そう・・・」

 暫く考え込んだ綾子は、祐介の目を見つめながら言った。

 「判った。じゃぁこの件は先生に任せて頂戴。責任持って対応します」

 祐介の表情が明るくなった。

 「でも人に言い触らさないようにね。問題がこじれると厄介だから」

 「判りました。よろしくお願いします」

 やっぱり先生に相談して良かった。祐介は一礼しながら「失礼します」と言って職員室を後にした。綾子はそれを黙って見送った。

 「さぁーて、どうしたものか・・・」と綾子が考えを巡らせ始めた時、自分の左肩に何者かの手が置かれるのを感じた。振り返るとそこには、学年主任の尾鳥が立っていた。

 「青木先生。今の生徒が言っていた件、業務週報で報告願いますよ。お願いします」

 「は? あっ、はい。判りました」

 そう答えた綾子であったが、何故、学年主任がそんなことを念押しして来たのかは判らなかった。

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