第3話:格付け

 眼の前に憎たらしい王太子レオンがいる。

 俺の可愛い可愛いサンドラを婚約破棄して殺した極悪人だ。

 今直ぐこの手でぶち殺したいが、そうもいかない。

 決してこいつだけが悪い訳ではなく、あの頃のサンドラはオイタが過ぎた。

 それに、全てはゲームの製作者が悪いのであって、演じさせられている俺達が悪いわけではないと、頭では分かっているのだ。 


「王太子殿下、私ごときに遅れをとってどうなされるつもりですか?!

 殿下は王国を背負うお立場なのですぞ!」


 まさか稽古でレオンを殺すわけにはいかないから、いや、跡が残るケガもさせる事もできないから、湧き上がる怒りを抑えて痛いだけの攻撃をする。

 その方が悪質だという者がいるかもしれないが、高貴な立場にはそれに伴う責任というモノがあるのだ。

 公爵令息に過ぎない俺に、剣技で足元にも及ばない王太子では威厳がなさすぎる。


「うぎゃ、痛い、おのれ、今一度だ!」


 思わず痛いと泣き言を口にしたのが、恥ずかしく悔しかったのだろう。

 顔を真っ赤にして再び俺に向かってきた。

 だが物心つく前、生まれた瞬間から鍛錬してきた俺にかなうはずもない。

 物理的な体力体術訓練は、身体が動くようになってから始めたが、魔力的な訓練は生まれて直ぐに始めている。


「国王陛下、クリスティアン殿は千年に一人の天才でございます。

 もうあの歳で身体強化の技を会得しておられます」


 王国筆頭魔導士が俺の事をほめているが、要注意だ。

 王にとって才能の有り過ぎる家臣は、王権を奪うかもしれない危険人物だ。

 今日王太子を叩きのめして、格の違いを思い知らしたら、しばらく隠棲しよう。

 目立ち過ぎないのも処世術の一つだからな。


「それだけではありませんぞ、国王陛下。

 クリスティアン殿の足裁きと剣筋は、今まで王国になかった技術です。

 恐らく独自に編み出したのでしょうが、末恐ろしい天才です」


 こら、こら、大将軍、俺を追い込むんじゃない。

 王の目が更に危険人物を見る眼に変わったじゃないか。

 俺は妹のサンドラを助けたいだけで、弑逆や簒奪など考えていないぞ。

 しかたがない、ここは忠誠心を持っているフリをしなければいけない。

 レオンを持ち上げるのは嫌だが、サンドラを助けるためには、自分自身が盤石な地位を確保しなければいけないからな。


「王太子殿下、才能も磨かなければ輝きませんぞ!

 私以上の才能を持っておられても、努力しなければ宝の持ち腐れです。

 もっと真剣に努力されて、私の忠誠心に見合うだけの君主になっていただきます。

 王太子殿下の才能を光り輝かすためなら、いくらでも稽古にお付き合いしますぞ」


 口が腐りそうな見え見えのおべっかだが、どうやら騙せたようだ。

 元々の設定では、輝く光の王太子と呼ばれるほど高スペックなのが王太子だ。

 俺の方がはるかにに低スペックの公爵令息だったんだから、鍛えればそこそこの能力にはなるはずなんだ。

 王や重臣達もその設定で性格も好感度も決められている。

 言葉一つで俺への警戒感は低下させられるはずだ。

 頼むからこのまま何事もなく断罪回避ができますように。

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