第2話:決意を固める

 乙女ゲームの設定通りなのを確認した俺は、惜しみなく前世の知識を使った。

 とはいっても、最初は言葉を話し字を書き覚えるくらいだ。

 大笑いしてしまいそうになったが、西洋風の容姿の人間が、西洋風の時代設定で生きているのに、文字も言葉も日本語だった。

 あくまでも西洋風でしかなく、史実とは全然違う、噴飯物のご都合主義設定だ。


「父上、母上、庭で剣の稽古をやってまいります」


「気を付けるのだぞ、クリスティアン」


「無理をしてはいけませんよ、クリスティアン」


 今さら特に勉強をする必要はなかったので、苦手でも身体を鍛えることにした。

 しんどい事は大嫌いで、努力などした事がない前世で、運動が苦手だった。

 特に反射神経が悪く、瞬発力も持久力もなかった。

 だから妹が生まれるまでは、文系で力をつける心算だった。

 特に魔術を極める心算だったのだが、妹の存在が俺を変えた。


「おにいさま、おにいさま、おにいさま」


 舌足らずな言葉で、ほてほてと妹が俺に近づいてくる。

 剣の素振りが当たるといけないので、直ぐに稽古を中止した。

 胸に高まる妹への想いが爆発しようになって、急いで妹に近づき抱き上げた。

 妹の乳母が、甘やかしてくれるなと眼で訴えるが、知った事か!

 前世では身勝手で憎たらしい脛齧りの弟しかいなかった。

 だから妹という存在が、これほど愛おしいモノだとは知らなかったのだ。


「どうしたんだい、サンドラ?

 お昼寝の時間ではないのかい?」


「あにいさまと、あそぶの。

 さんどら、おにいさまとあそぶの」


「駄目でございますよ、サンドラ様。

 クリスティアン様は剣のお稽古中でございま、ひぃいいい」


 俺は思わず手加減なしの殺気を放ってしまっていた。

 サンドラが俺と遊びたいと言ってくれているのに、乳母の分際で邪魔をするとは!

 その罪万死に値するのだが、使用人とはいえ、理由もなく殺すのは不味い。

 サンドラをゲームの断罪から助けるためには、俺の評判をあげておく必要がある。

 間違っても、直ぐに怒って使用人を殺す殺人狂と呼ばれるわけにはいかない。


「サンドラは私の可愛い妹でレディなのだぞ。

 妹を大切にするのは兄の務めで、レディを護り願いを叶えるのは騎士の務めだ。

 私は聖騎士たらんと日々努力しているから、その邪魔をするでない」


「申し訳ありません、クリスティアン様」


 表向きは耳当りの好い理由をつけておく。

 だが本心は、サンドラをブラコンにして、破滅ルートを回避させるためだ。

 サンドラが王太子に執着してしまうから、ヒロインに嫉妬して意地悪するのだ。

 だったら破滅ルートを回避するのは簡単で、王太子よりも俺が好きブラコンに育てればいいだけの話だ。


 俺が妹大好きのシスコンだから、丁度釣り合っている。

 だからといって禁断の近親相姦に走るつもりなど全くない。

 プラトニックなシスコンとブラコン姉弟を目指すのだ。

 まあ、真っ当な情操教育も当然行う。

 この世界のこの時代に蔓延っている、血統至上主義の選民思想にサンドラが毒されないように、父と母の影響は徹底的に排除するけどね。

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