第4話:情操教育

 俺は十二歳になり、サンドラは九歳になった。

 物心ついてから直ぐに両親から引き離し、いや、両親はサンドラの事など全く気にかけず、私にばかり干渉してきた。


「貴族らしくなりなさい、そのような事をしていては威厳を損ないます」


 そう繰り返し言ってきたが、上手く言いくるめて好き勝手してきた。

 領地の開発も、公爵家の財政再建も、それができるだけの実績を示してきましたから、両親も強くは言えない。

 だから俺がサンドラの教育をしても、文句は言わせない。

 血統至上主義の婆教育係など、百害あって一利なし!


「今日は私が貴族に相応しいと思う行動を教えるから、よく見ておくんだよ」


「はい、おにいさま」


 最初に言っておくが、俺はロリータ・コンプレックスではない。

 ただ初めて得た妹という存在が大切なだけだ。

 この命を捨てても構わないと思っているが、それほど大袈裟な話ではない。

 二度目に得た命などおまけのようなモノだから、不幸な設定を押し付けられ、わずか十八歳で殺されるサンドラためならば、捨てて当然なのだ。

 だがただでは捨てない、手に入れられる幸せは全てサンドラのために手に入れる!

 

「ちゃんと順番に並ばないと食事を配らないぞ。

 今日の施しは、ハカス公爵家令嬢サンドラ嬢の施しだ、感謝しろ。

 それと、社会のルールを守り、働く気のある者には仕事を与え、成果に見合った食事と報酬を与える」


 今日は貧民街に来て、飢えた民に食事を与えている。

 両親は常に反対しているが、聞く耳は持っているが、ただ聞くだけだ。

 聞かないと意固地になって邪魔をしかねないからな。

 サンドラの情操教育はもちろん、評判を買っておかなければならない。

 エレナが現れて、聖女だという民の評判を背景に王太子の心を掴むが、その前にサンドラが聖女だという評判が立てば、後から現れるエレナはかすむ。


「おにいさま、これはわたしではなく、おにいさまがやられています」


「そうだね、だけど私は色々と忙しいから、サンドラに助けてもらわなければいけない事が、たくさんあるのだよ、サンドラは私を助けてくれないのかい?」


「わたしがおにいさまをたすけられるのですか?」


「ああ、もちろんだよ、サンドラは私を助けられるよ。

 いや、サンドラしか私を助ける事はできないんだよ」


「でも、おちちうえさまも、おははうえさまも、わたしはできそこないだと……」


「そんなことはないよ、サンドラ、それは父上と母上が勘違いしているのだよ。

 私が言っているのだから間違いないよ。

 サンドラは王都に全ての令嬢の中で一番美しく賢いよ。

 サンドラは私の言う事が信じられないかい?」


「おにいさまをしんじます!」


 よかった、曇っていた表情が輝きだした。

 あの糞親父と糞婆、絶対に許さんぞ!

 今殺すと社交が面倒だからまだ殺しはしないが、サンドラの心を傷つけた罰は受けてもらうからな、覚悟しておけ!

 激烈な神経痛を発症させて、一カ月くらい寝込ませてやる。

 もうほとんど乗っ取った公爵家だが、完全に支配下に置いてやる!

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