第42話 ひとつの結末 ~IFストーリー、美佳と共に~
僕は理解した。どちらか一方を選ばなくてはならないことに。
左の扉に那奈代が、右の扉に三花がゆっくりと歩みを進め扉の前でこちらに手を差し伸べる。
「『選んだ者と扉の中へ、選ばれなかった者は矛と共に扉へ……』」
翼を広げるように優雅に両手を広げる亜巫、神々しい雰囲気、これが審判の役割なのだろう。兄妹として接した時間、桜子さんと接した時間を思うと不思議な感じがする。
「亜巫……矛、矛ってなんなんだ、それに扉の先には何があるんだ」
「『質問に答えることはありません。どちらかを選べばそれはあなたにとって鍵としての役割の終結を意味する』」
すべての記憶を取り戻したことでふたりとの記憶が全て蘇る。けなげにずっと僕を思ってくれた美佳、小さいころに泣きながら僕の後をついてきた恭奈と高校生になってから再会した美佳。恭奈?美佳? 僕にとってはどちらでもいいこと。
彼女に引力でもあるかのように歩みはじめた。祥奈の待つ左の扉へ……。10メートル程度しか離れていない扉までの距離が長く……とても長く感じる。
扉までの歩みで恭奈との出会い、美佳との再会をした人生をやり直したほどの時間を感じた。
恭奈の記憶、美佳の記憶が頭を巡る。空白の時を埋めるように記憶がつくられていく。ある時から恭奈から美佳へと記憶が変遷しているが違和感はない。
変遷の理由は恭奈の死。本来死ぬべきではない人間が人ならざる者によって命を奪われたことで三花によって再構築された美佳。それと同時に祥奈との審判にかけられる運命を背負わされた美佳。
しかしそんなことはどうでも良い。僕は美佳との将来を選んだのだ。そのまま三花の手を取ると扉の中へ……
* * *
カーテンの開ける音が耳に、差し込んだ朝日の眩しさを目に感じて意識を取り戻した。
「珍しいわね、謙心が寝坊するなんて。下に朝ご飯があるから食べたら学校に行きなさい」
パタパタとスリッパの音をさせて母親が1階に降りていった。
支度を済ませて学校に向かう。玄関で靴を履きながらいつもの日常を思い描くと笑みがこぼれる。
足取りも軽く夢彩高校に向かう。通学中に美佳と合流する場所、ここがいつもの彼女との待ち合わせ場所になっていた。
大イチョウのある神社を越えた暫く先にある小さな神社の手前でいつもの幸せが舞い上がる。
「謙心……」
穏やかで優し気な声を後ろに感じた。白いシャツに羽織ったブレザーの下からリボンがチラリ。ナチュラルボブの髪をかき上げると、美佳の優しい匂いがふんわり香る。
「美佳、きれいだね」
こう返すのが当たり前になっていた。照れながら腕を絡ませる美佳。お泊りしたときに可愛い姿を褒めたセリフ、気づいた彼女のはにかむ顔が可愛くていつもの言葉になっていた。
やっと叶った彼女との恋。いつしか一緒に居るのが当たり前になり、空気のように必要な存在になった美佳。恋人としていつも隣にいてくれる。
僕の願いはただ一つ、彼女がこの笑顔を絶やすことなく人生を全うできること。
その為には勉強はスポーツに頑張ってどんなトラブルがあっても彼女を守れるように自分を向上させる必要がある。
2学期に入ってからスポーツも勉強も学校でトップを走るようになった。記憶の断片に僕の力を引き上げたキスがあった。夢の出来事なのか事実なのかは分からない。それでも僕はこの能力で彼女を守っていく。
高校、大学、就職。彼女と結婚をして娘をもうけた。神の加護を受けているような幸せな人生だった。
そして僕は……いつしか存在しているのかしていないのか分からない存在になっていた。美佳も娘もひとつになったような感覚。世界のために新たな
がんばってね
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