第41話 ひとつの結末 ~IFストーリー、祥奈と共に~

 僕は理解した。どちらか一方を選ばなくてはならないことに。 


 左の扉に那奈代が、右の扉に三花がゆっくりと歩みを進め扉の前でこちらに手を差し伸べる。


「『選んだ者と扉の中へ、選ばれなかった者は矛と共に扉へ……』」


 翼を広げるように優雅に両手を広げる亜巫、神々しい雰囲気、これが審判の役割なのだろう。兄妹として接した時間、桜子さんと接した時間を思うと不思議な感じがする。


「亜巫……矛、矛ってなんなんだ、それに扉の先には何があるんだ」


「『質問に答えることはありません。どちらかを選べばそれはあなたにとって鍵としての役割の終結を意味する』」


 すべての記憶を取り戻したことでふたりとの記憶が全て蘇る。今までずっと応援してくれた祥奈、生まれてからずっと兄妹のように育った彼女のことしか浮かばなかった。


 彼女に引力でもあるかのように歩みはじめた。祥奈の待つ左の扉へ……。10メートル程度しか離れていない扉までの距離が長く……とても長く感じる。


 扉までの歩みで恭奈との出会い、美佳との再会をした人生をやり直したほどの時間を感じた。


 祥奈との記憶。同じ日に生まれ同じ病院から人生が始まった祥奈。今までの人生で祥奈がいない時間を過ごすことなんて考えられなかった。いや、これからもそうなのかもしれない。共に遊び、共に学び、共に人生を歩む。これまでも、これからも。

 ずっとずっと同じ時間ときを歩んでいきたい。生まれながらに世界のにえとしての運命を負わされた祥奈。


 しかしそんなことはどうでも良い。僕は祥奈との将来を選んだのだ。そのまま那奈代の手を取ると扉の中へ……



* * *



 カーテンの開ける音が耳に、差し込んだ朝日の眩しさを目に感じて意識を取り戻した。


「珍しいわね、謙心が寝坊するなんて。下に朝ご飯があるから食べたら学校に行きなさい」

 パタパタとスリッパの音をさせて母親が1階に降りていった。


 支度を済ませて学校に向かう。玄関で靴を履きながらいつもの日常を思い描くと笑みがこぼれる。


足取りも軽く夢彩高校に向かう。いつものように祥奈が後ろから声をかけてくるのを期待して……。


 大イチョウのある神社を越えた先、病院の手前でいつもの幸せが舞い上がる。


「けーんしんっ!」


 後ろから背中を叩いて僕を追い越すとクルリと回って笑顔になる女の子。白いシャツに羽織ったブレザーの下からリボンがチラリ。後ろに縛ったツインテールが動きに合わせてフワリと揺れる。


「祥奈(あきな)、急に叩いたらビックリするだろ」


 こう返すのが当たり前になっていた。ニコニコしながら腕を絡ませる祥奈。やっと叶った彼女との恋。いつしか一緒に居るのが当たり前になり、空気のように必要な存在になった祥奈。恋人としていつも隣にいてくれる。


 僕の願いはただ一つ、彼女がこの笑顔を絶やすことなく人生を全うできること。


 その為には勉強はスポーツに頑張ってどんなトラブルがあっても彼女を守れるように自分を向上させる必要がある。 

 

 2学期に入ってからスポーツも勉強も学校でトップを走るようになった。記憶の断片に僕の力を引き上げたキスがあった。夢の出来事なのか事実なのかは分からない。それでも僕はこの能力で彼女を守っていく。


 高校、大学、就職。彼女と結婚をして娘をもうけた。神の加護を受けているような幸せな人生だった。


 そして僕は……いつしか存在しているのかしていないのか分からない存在になっていた。祥奈も娘もひとつになったような感覚。世界のために新たなにえを探さなくてはならない。個であり全である僕、歴史は繰り返される。


 がんばってね祥羽あきは。気づいた時には遅かったのだ。


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