第40話 審判
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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──文化祭当日
校門には大きな文字で『夢の彩り祭』と書かれた看板、独特なデザインで描かれた絵は美術部の傑作。校門を繋ぐアーチに架けら前菜のように気持ちを盛り上げる。
アーチを抜けると、校舎まで続く通りには様々な匂いが折り重なって人々の食欲を掻き立て、ピンクウサギの着ぐるみが女性の声で「よろしくお願いしまーす」と、パンフレットを渡している。
1Bの“ぶっ茶店”、予想以上の大反響だった。カップル連れや力自慢の者たちが押し寄せ長者の列を作る。
飲食者へのサービスとして初心者用、中級者用、上級者用、プロ用と繰り返し使える瓦の代用品を使って瓦割り、ビックマウスな挑戦者をした人や相応の挑戦をした人で明暗が分かれ、カップルの人間模様が垣間見れた。
* * *
「ふぅー、終わった~」
あまりにも盛況だったおかげで午前中のうちに準備した飲食物はすべて完売。午後からはやることが無くなってフリーとなった。
「よぉ、遊びに来たぜ」
教室に入って来たのは天音。普段よりお洒落している。その姿を見た女生徒がキャーキャー騒ぎだした。
「天音、来てくれたんだね」
「おお、家にまで空砲が聞こえてたからな。そういえば文化祭って言ってたものな」
ツカツカと歩いて中央にある瓦に一撃、瓦は二つに折れ地面に落ちる。教室中から聞こえる歓声。
「天音すごいな、それプロ用瓦だぞ、誰一人割る事が出来なかった……」
鼻をこする天音、頭を掻きながら呆れたような表情。
「あのな謙心、覚えてないかもしれないけどお前のほうが力は上なんだぞ。まったく」
「天音、それってどう──」
クラスの女生徒が天音を紹介しろと騒ぎ立てる。最近引っ越して仲良くしていることを含めて説明している
「亜巫も天音みたいなのがタイプなのか……でも天音と亜巫が結婚してくれたら天音が弟かぁ……なんか楽しそうだな」
喜ばしい感情の中に残るモヤモヤ感、自分でもモヤモヤの原因が何かは分からなかったが頭に浮かぶ姿は亜巫、妹をとられる兄の心境なのだろうと納得させ、天音が割った瓦を直すと、モヤモヤを発散するようにこぶしを振り下ろした。
──ガシャーン。
大きな音を立てて崩れ落ちる。パラパラ破片をまき散らしこぶし形の穴が開く。折れ目に開いた穴、逆に置いて壊してしまったのかと焦ったがそんなことはない。
『『パチパチパチパチ』』
誰もいない教室に響く2つが重なった拍手の音、入って来たのは双子の転校生。
「「素晴らしいですね」」
那奈代を見て「那奈世ちゃん」、三花に視線を移して「三花ちゃん」。交互に見渡す。
「ふふふ、良く私たちの容姿でどちらか分かりましたね。誰一人として迷わず当てた人はいないのに……。私たち双子の用紙は全く一緒、違うのは『心』だけですから」
「双子って性格も似るって言うじゃない、ほくろが違う場所にあったりとか」
「そうね、でも私たちは容れ物は全く一緒なの。違うのは『心』だけ、性格といった方が分かりやすいかしら」
この言い方は双子だからこそのこだわりなのだろうか。
そういえば僕と亜巫も誕生日が一緒なんだよなぁ……。腕組みをして中空をぼやっと見つめると両肘に柔らかな感覚を覚えた。
「祥奈、美佳……」
ツインテールの懐かしい女の子、ナチュラルボブの安らぐ女の子が那奈代よ三花に重なって見えた。
「「謙心さん、那奈代と三花ですよ。こんな状況で他の女性を呼んだらダメですよ」」
両肘に感じる柔らかなものは胸の感触にドキドキする……。そのまま腕を引かれて教室を後にした。
古くからの知り合いのように居心地が良く、昔なじみのように何でも話せる。那奈代は元気な優等生のような女の子、三花はおっとりしておとなしく妹のような女の子。そんなふたりと巡る文化祭は多くの敵を作りそうな程充実したもの。
軽音部の演奏を聴き、射的にヨーヨー釣り、手品や迷路、文化祭で1番盛り上がったお化け屋敷は圧巻だった。
映画研究会が本気で作ったセット、リアルな特殊メイクを施されたお化け役。恐怖のあまり出口に辿り着けない生徒が続出したという伝説まで作った。
「「謙心さん、楽しかったですね」」
陽が沈み空は真っ暗に染まっている。グラウンド中央には巨大な焚火が組まれ、多くの生徒が取り囲んで盛り上がっている。この光景はひとつのことを学校全体でやり遂げた祝祭、団結した証として後夜祭はくるものがある。
中央で巨大な炎が舞い踊り、ダンスミュージックと共に全校生徒で自由に踊る。キャンプファイアーの炎が生徒たちのテンションを上げ、打ち上げ花火が快感を最高潮に持ち上げる。花火が終わりに近づくにつれて参加者たちの心をゆっくり冷まし日常を取り戻させる。
打ち上げ花火が上がり始めた頃、近くの女生徒からヒソヒソ声が聞こえてくる。
「せんぱ~い、後夜祭のファイアーストーム中に意中の人に告白すれば恋愛が成就するって聞いたんですけど本当ですか」
「ああ、それはなー。吊り橋効果のひとつだよ。こう目を合わせると雰囲気もあってドキドキするだろ……、……、……、なあ、君とふたりで話したいことがあるんだけどちょっとあっち行かない」
ニコニコする那奈代と三花、炎の光で照らされる表情、花火の音と色鮮やかな光があたりを包む。この場にいるだけで……女の子が近くにいるだけでドキドキしてしまう。
「ハハハ……、さっきのふたり上手くいくといいね」
「ハイハイ、吊り橋効果なんてものは雰囲気に飲まれているだけだよ。こんなのがキッカケで付き合うやつなんて、どーせクリスマス前には別れちゃうよ」
雰囲気をぶち壊すような言葉と共に現れる天音、耳に届いたであろう周りの生徒たちに睨みつけられたが
そのまま屋敷まで連れられる。道路に設置された街灯と窓から漏れる光が大銀杏を僅かに照らす。庭は絨毯が敷かれたように枯れ葉が積り、踏むたびに乾いた音がパリッパリッと秋の終わりを告げる。
屋敷の玄関、存在感のあるアーチ状の2枚扉。天音は両手で観音開きの戸を押し込むと、漏れた光が大きくなっていく。
扉の先には赤い絨毯が奥へと続き、途中でYの字に分岐してそれぞれの突き当りには不思議な扉。繋がる2枚の扉の間には、なんと表現して良いのか分からない像が立っている。幾人かの人が折り重なったような男性とも女性とも言い難い……厳かであり神々しくもある像。
どこからともなく現れた亜巫が像の前に立った。妹として接してきた亜巫とは違う……大人びており柔らかくも厳しい表情。
「『審判の時』」
すべての感覚から言葉が入ってくる。亜巫の声を感じるが個として捉えるのが難しい。
「『祥奈は左の扉を、美佳は右の扉を』」
「『那奈代は左の扉を、三花は右の扉を』」
2つの言葉が重なって聞こえる不思議な感覚、僕はすべてを思い出した。祥奈のこと美佳の事、そして不思議な世界で出会った三花のことを……。
僕は理解した。どちらか一方を選ばなくてはならないことに。
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《登場人物紹介40:11月》
夢彩高校
1B:
すべてを理解した。
1B:
不幸な少女、家を転々として謙心宅にたどりついた。
1A:
那奈代と三花は双子の姉妹。祥奈と重なって見える。
1A:
那奈代と三花は双子の姉妹。美佳と重なって見える。
彩光高校
1C:
屋敷に引っ越してきた。キーとなる屋敷に住む理由とは。
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