第37話 ふたりの引っ越し
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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○。○。○。○。
カーテンの開ける音が耳に、差し込んだ朝日の眩しさを目に感じて意識を取り戻した。
涼しい風を頬に感じる。窓から吹き抜ける風、カーテンのなびく音が朝を感じさせる。
「謙心、謙心、日曜日だからっていつまで寝ているの。話があるんだけど起きなさい」
身体を大きく揺らす母。寝ぼけた頭に揺りかごのような感覚が心地よい。目をつぶったまま布団の中に丸まって揺らす母に体を委ねる。
「もうちょっとだけ……。なんか頭がぼやぁっとしてるんだ」
「もう。今日からあなたに妹が出来たのよ。下にいるから挨拶しなさい」
天井まで届く勢いで布団を跳ね上げる。慌てて飛び起きて母の顔をみるもいつもの表情。
「ちょっと母さん、どういうことだよ。妹って何だよ……」
肩をポンポンと叩きながらウンウンと頷く母。両肩を掴み見つめられる。
「確かにビックリするわよね。だって私もビックリしているもの。私の遠い親戚の子なんだけどね、両親が亡くなって親戚中をたらい回しにされてたの。そんな状況だったから私が引き取るって連れてきたのよ」
頭がついていかない。妹? 引き取った? こんなことってあるもんなのか。腕を掴まれ引かれるがままリビングに降りる。あまりにも唐突な出来事になされるがまま。
リビングに座る一人の女性。腰まで伸びる黒髪、将来性ばっちりの顔立ち、身長は150センチメートル程だろうか。ついマジマジと顔を見つめてしまう。
「こら謙心、そんなに
亜巫と呼ばれる女性は無言のままうつむいている。なんかどこかで見たことあるような雰囲気……いや、もっと大人っぽかったような……でも、こんなかわいい子なら忘れるはずはない。
「はじめまして。
立ち上がってふかぶかと丁寧にお辞儀をする。長い髪の毛が首でふたつに別れ垂れ下がりユラユラ揺れる。
「いいのよ亜巫ちゃん。今日から家の子なんだからそんな礼儀正しくしなくても。私のことはお母さんでもママでも好きな方で、息子は謙心でもお兄ちゃんでも好きなように呼んでね」
混乱する頭、フラフラとリビングの椅子に座る。力なく腰を落とすように座ったせいで椅子が傾き倒れそうになる。
「ちょ、ちょっと母さん、理解が……。こういうことって前もって言うんじゃないの」
「謙心、そんな状況じゃないのよ。亜巫ちゃんを助けるためになんとか連れ出したんだから。兄として妹をしっかり守ってあげなさいよ。それとね、いくら可愛いからって亜巫ちゃんに手を出しちゃだめよ」
「おばさん、本当にこの家に住んでもいいんですか。やっぱり迷惑なんじゃ……私が家に来ても何もメリットはありませんよ」
うつむく亜巫。母は隣に座ると背中をパシパシ叩く。次第に音が大きくなっていく。
「なに言ってるの。わたしは昔から娘が欲しかったのよ。謙心みたいな男とふたりで住んでいても楽しくないからね。亜巫ちゃんと一緒にショッピングしたりご飯を食べに行ったりするんだ~」
指を組んで祈るようにニコニコと中空を見上げる母。笑顔の中に不安が見え隠れする亜巫。
母の説明だと。亜巫の両親が事故で逝去、多額の遺産を親戚で分割され交代で預けられたが容姿も相まって襲われそうになったり、自分の子供と差別されていじめられたりと大変な思いをしていたようだ。たまたま聞きつけた母は彼女を引き取ることにしたらしい。遺産目当てだと責められたがお金は一切受け取らず約束で彼女だけを引き取ったということらしい。
「ねえ。亜巫さん。前に一度会ったことないかな?」
なんだろう。やっぱり気になって仕方がない。その言葉を聞いた母が駆け寄って力強くバッシーンと背中を叩れた。あまりの強さにゴホゴホせき込んでしまった。
「何いきなり口説いてるのよ謙心。さっき手を出しちゃだめよって言ったばかりじゃない」
「違うよ母さん、なんか見覚えがあるような気がしただけなんだ」
「ほら謙心、テレビとかじゃない? 亜巫ちゃんは可愛いからアイドルと間違えたんじゃないの」
「い、いえ……そんな……わたしなんて……」
「亜巫ちゃん、母さんと買い物に行きましょう。娘と買い物なんて嬉しいわー」
母と亜巫はさっさと買い物に出かけてしまった。急な出来事に心の中に良く分からない感情が生まれてじっとしていられない。何年も住む自宅の空気が重く感じた。もやのかかった心を払しょくしようといつものマラソンコースを走った。
なんだろう、いつもの風景を眺めながら走っていると、いままでいろいろな感情でこの場所を歩んできたなぁと思い出す。ふわりと浮かぶ幼馴染、そして双子の親友。
気づくと屋敷の見える小さな休憩所にいた。座って眺める屋敷が素晴らしい。大イチョウは色づき秋を感じさせる。青い葉に黄色みがかかった葉が一面に落ちている。
一枚の葉を拾い上げて
「お前、なにやってるんだよ」
女?男? どちらとも言い難い可愛らしくも力強くもある声。思わず見上げるとそこにはイケメン男性が立っていた。彼は対面の椅子に座ると大笑いしながら話しを続けた。
「ハッハッハ、何そんなところで黄昏てるんだよ。確かに秋にはピッタリだけどさ」
つい怪訝な顔をしてしまった。見ず知らずの男にいきなり声をかけられて……何者だろう。同じ年位だけど知り合いにこんなやつは記憶にない……。もしかして小学生時代の級友とか幼稚園で一緒だったか。思い当たる節がない。
「えっと、誰だっけ? 君は僕のことを知ってるの?
キョトンとする彼。
「ああ、ゴメンゴメン。初めましてだよ。今日そこに引っ越して1人暮らししてるんだ」親指をたてて屋敷を指す「丁度窓から君が見えたんで友達になろうと思って声をかけたんだ」
頭を掻きながら照れている。
「そうなんだ。今日越して来たんだ。いきなり声をかけられたからビックリしちゃってさ。僕は謙心、
「ボクは
「天音って可愛い名前だね」
「そんなこと言うなよ。ボクがつけた名前じゃないんだ。親がつけた名前だからな。もっとカッコいい名前にしてくれれば良かったのに」
「ハハハ、今をときめくキラキラネームじゃないか」
急に現れた妹の存在、急に現れた彼の存在。なぜか初めて会った気がしないふたりの存在に何故か嬉しかった。
「それで天音はどこの高校に通っているの? 僕は近くの夢彩高校なんだ」
「ボクは彩光高校、一人暮らしをさせてもらっている手前文句は言えないからね」
初対面なのにとても気の合う天音。日が暮れるまでこの場で語り合っていた。
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《登場人物紹介37:9月の終わり》
夢彩高校
1B:
平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。
2A:
読書好きな先輩。仲良くなると心を開いて喋ってくれる。
不思議な世界
不思議な少女、那奈代に似ている。
その他
不幸な少女、家を転々として謙心宅にたどりついた。
屋敷に引っ越してきた。一体何者だろうか
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