第35話 クサヒバリの鳴くころ
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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庭園に面した神社に来ていた。
参道の両端には多くの植木が植えられ、ほのかに黄色く色づいている。厳かな雰囲気の中、砂利を踏みしめた音を楽しんでいると日本ならではの和を感じる。
「ちょっと謙心、ちゃんと石畳の上を歩きなさいよ」
アプローチ中央に石畳が並び、両端に砂利が敷かれた道。ギシギシした砂利のこすれる音が心地よい。
「この砂利の音、なんか気持ちいいね。祥奈も踏んで見なよ」
連休という事もあって多くの人で賑わう。
わざわざ砂利を歩く人はいない……僕ひとりを除いて……。少し離れた場所を歩く祥奈は僕と腕を組むと石畳に引っ張った。
「もう子供なんだから。せっかくだからお参りしていきましょう」
神社にある拝殿で賽銭箱に小銭を投げて鈴を鳴らす。喧騒と多くの人が投げる小銭の音が響く中手を合わた。
「謙心は何をお願いしたの?」
「祥奈との旅行が無事に終わりますようにってことかな。祥奈は?」
「ねえ謙心、お参りはね『祈り』を捧げるものでお願いするものではないのだよ……プッ……なんてね。わたしはね、この幸せが続きますようにねーって」
ペロリと舌を出す祥奈。自然に手を握って歩き出した。
「祥奈~、本当は何をお願いしたのさ。教えてよ」
祥奈はただニコニコしながら「ないしょー」と指を唇に当てていた。
* * *
神社を参拝してお昼を食べると大きな体育館に来ていた。
「謙心、凄かったみたいね」
「え、なにが?」
「そう、やっぱり覚えていないのね。バスケよバスケ。天下の花桜高校に接戦だったのよ惜しくも負けちゃったけど。わたしここまで応援に来たのよ。あれ……誰を応援しに来たんだっけ。あはは、わたしも記憶が抜けちゃってるみたい」
200メートルを越える大屋根、どこからでも採光できるように全面に大きな窓が作られている。エントランスに入ると大勢の人で賑わっていた。
「あれ、僕もここに来たことがあるような気がする。なんだろう、ドキドキしながら来たような……」
「謙心は応援に来てなかったよね。そういえば夏休みの記憶がないって言ってたじゃない。その間はどこに意識はあるんだろうね」
確かに……夏休みの記憶が全くないわけじゃない。断片的な記憶は残ってるし普通にご飯を食べて宿題を済ませている。祥奈と何かをしていた記憶はなく普通に恭平と遊んだ記憶だけは残っている。
考えてみると祥奈の周りに関する記憶……考えがグルグル回る。ひとつひとつのピースがはっきりしない。ピースのないジグソーパズルをやっているようだ。
それにしても……──
「……ん。……しん。けんしーーん、いい加減に帰ってきなさーい」
徐々に耳に入る声が大きくなってくる。騒がしい喧騒、いつのまにか自分の世界に入っていた。
「Σ(゚□゚;)、ごめん」
「もー、一応デート中なんだから自分の世界に入んないの」
「ハハハ、ゴメンゴメン。じゃあ公園の方に行ってみよう」
体育館があるスポーツセンターの敷地にある公園。陸上競技場に面した花や植物が多く育てられている場所。
草の合間からクサヒバリが『フィリリリリリ……』と独唱している。釣られるように2匹3匹と合唱が奏でられる。
「謙心、なんで急に旅行に行こうと思ったの? いろいろと混乱していた時だったよね」
祥奈が近くのベンチに座る。僕は膝をついて彼女を見つめ両肩に手を置いた。
「ぼくと付き合ってくれないか」
僕たちの時が止まる。クサヒバリだけはお構いなしに泣き続ける。祝うようにツクツクボウシが鳴き始めた。ポロリと一筋の涙を流す祥奈。
「何よ急に、わたしたちもう付き合ってるんでしょ。もしかしてそう思っていたのはわたしだけ……」
「ち、違うよ。ほら、ちゃんとしたシチュエーションで告白したかったんだよ」
頬を膨らませる祥奈。表情とは裏腹に僕の手をそっと握る。そのまま公園を散歩した。お互いが笑い合い笑顔で会話する。とても幸せな時間。握られた手はどちらともなく恋人つなぎに変わっていた。
* * *
──ホテルゆめゆめ
健康ランドと宿泊施設を兼ね、近くにはスポーツ施設がある人気のホテル。
「ご、ごめん。何も考えてなかった……」
両手を合わせて額をつける謝る。部屋の確保だけを考えていたので予約していたのはツインルーム。しかもダブルベッド。
「ハハハ、いいわよ。折角の旅行だもんね。ふたりの方が楽しいじゃない」
動揺しているのが分かる。せめて、シングル布団をふたつにしてもらおうと交渉したが既に満室で叶わなかった。
「ごめんね。一部屋だけどふたりでゆっくり夜を楽しもうか」
祥奈の頭にポンと手を乗せる。祥奈の顔が真っ赤になる……両手を頬に添えて目線がどんどん下に移動する。
あっ! 僕の言い方が悪かった。あの言い方だとまるで……。
「ごごごごめん。祥奈と一緒に夜の時間って一緒にお話ししたりテレビ見たりとゆっくり楽しもうって……。変なこと言ってごめん」
顔を隠すようにさらにうつむく祥奈。小さく「変なこと考えちゃってごめん」と聞こえた。
部屋は和室。祥奈に言わせると家だとベッドだが、畳に布団の方が旅行に来た実感がして嬉しいようだ。
夕食の時間、1階の大食堂での夕食。部屋の場所は2階の角部屋、赤いカーペットの敷きつめられた廊下を歩いていく。
「ほら祥奈スマホ見ながらだと危ないよ」
「だってママが面白半分にドコネ送って──キャッ」
──ドタッ ドアの下枠に躓いて右足をひねってしまった。壁を使って何とか立ち上がるが 右足を地に付けることができず宙に浮かしている。慌てて駆け寄り足首に触れると腫れているのが分かる。
「ほら」
屈んで前かがみになるって背中を差し出す。祥奈は「ごめん」と僕の背中に乗った。
「ありがとう謙心。重いでしょ」
背中に感じる胸の感触、祥奈の匂いに頭がクラクラする。
「あ、ほらっ! なんか祥奈をおんぶしても疲れないんだよね。思ったより軽いっていうか……それに祥奈を感じられて嬉しいっていうか」
「謙心は力持ちだもんね。ありがとうね。こんなに幸せだったらこのままでもいいかなぁ。……え、あ、わたしを感じられる」
胸が密着していることに気づいたのか肩を掴んで背中から胸を離そうとする。痛みが増したのか「あっ」と苦痛の声、諦めたのか首に抱き着いた。「謙心ならいいかっ」と耳元に感じた。
肉に魚に素晴らしいコース料理に舌鼓をうつ。かなりの量があったがあまりの美味しさに全て平らげた。
「あ……」祥奈を背負った時に感じた食べた分の重み。
「謙心、『あ……』って体重のことでしょー」
膨れるように強く首に抱き着く。そして笑い合うふたり。とても幸せな時間だった。
残されたことはあと2つ。『お風呂』『睡眠』……
「ね、ねえ祥奈。お、お、お風呂はどうしようか?」
「うーん。四つん這いならなんとか行けるかな………………」うつむいて赤くなる祥奈「あのさ、這うのも痛くて辛そうだから一緒に入らない? もうここまで来たら私の全てを知ってほしいなって」
1階にある家族風呂、祥奈の初めての裸、手伝うたびに感じる祥奈の感触に色々なところがドキドキした。
部屋で雑談、地元では見れない地方のテレビ番組を観て笑い合い肩を寄せる。
屈託のない笑顔、恥ずかしがりやの祥奈が見せた積極的な行動。今まで見たことがない祥奈の1面に今まで以上に愛おしさを感じた。
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《登場人物紹介35:9月》
夢彩高校
1B:
平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。
1B:
従妹であり幼馴染、楽器演奏得意。
謙心の変わりように戸惑っていた。
1B:
親友。中学校で仲良くなった、バスケ部(レギュラー)
1E:
一体誰?
2A:
読書好きな先輩。仲良くなると心を開いて喋ってくれる。
1B担任:
読書部顧問でもある
不思議な世界
不思議な少女、那奈代に似ている。
見つけた者を消滅させるらしい。
その他
宗玄の居る道場で現れた。何者だろうか。
???《不明》
黒胴着の初老の男、髪が薄いが武器の扱いに長けているようだ。
祥奈の
謙心の母の妹
???《不明》
謙心、祥奈と共に昔遊んだ記憶が夢に現れたが記憶には残っていない。
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