第33話 ファンタジー?
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「ハァ、ハァ、ハァ」
毎朝のランニングが日課になっていた。最初は記憶の混濁で焦る心を落ち着かせようと始めたが、屋敷の見える休憩所に座って植物を眺めると心が凄く落ち着いたことから続けていたのだ。
この日も休憩所に座って屋敷を眺めながら考え事をしていた。2学期に入ってから授業内容がすんなりと頭の中に入ってくる。今までは勉強で分からない所は「まあいいか」程度で済ませて、試験前に祥奈に教えてもらっていたが、不思議と理解できる。
「ふふふ、あなたの器が大きくなったのかもしれませんね」
隣にひとりの女性が座った。どこかで見たことがある
「あの……、前にここで会った事ありましたよね。確か……
「
ニコリとする亜巫。不思議な雰囲気に吸い込まれそうになる。
「そうでしたっけ、何かを大事にするように言われた覚えだけが……何だったかまでは覚えてないですけど」
「そうね。今のあなたは祥奈さんを大事にしてあげなさい。きっとその先に答えが見つかるでしょう」
「祥奈のことを知ってる君は一体何者なの」
「前にも行ったけど質問には答えられないの。今あなたがすべきことは全力で祥奈さんを大事にすること。あなたの器は着実に成長しているわ……それともう一つ、宗玄のところに行きなさい」
「なんで亜巫さんは僕のことをそんなに知っているんだ。少しくらいは教えて欲しい」
亜巫はポケットから何かを取り出す……トランプ? 不思議な紋様が描かれた束ねられたカード。
「そうね。ひとつだけ教えてあげるわ。この22枚のカードを見てごらん、この中から自分の好きなカードを1枚選んでちょうだい。それがあなたにとってのわたしの姿よ」
表面には太陽の絵柄が書かれたもの、悪魔の絵柄が書かれたもの、人が吊るされているような絵柄もあった。そのカードを裏返すと僕の前に広げた。
広げられたカードの1枚が僕を引っ張る。このカードを引かなければならない衝動、それ以外は目に入らない。
……導かれるまま1枚のカードに手を伸ばした。
ひかれたカードの絵柄をこちらに向ける亜巫。空でラッパを吹いている女性、ラッパには十字の旗がついている。
「これは……」
「審判よ。あなたにとってのわたしは審判ということね。その理由も
そのまま彼女は振り返る事もなく屋敷に戻って行った。良く分からない話しにモヤモヤしたものを感じるはずが……ギザギザした不安が全て取り除かれ、心が軽くなったように思えた。
* * *
家と家の合間にある薄暗い路地の奥、年季の入った薄茶色をベースとした木造の建物が立派な門扉の奥に見える。一歩入っただけで違った世界に来たような神々しさを感じた。
「ごめんくださーい」
社のような建物、道場の入り口から声をかけるが誰もいない。人の気配はなく庭に置かれた大きめの庭石に座る。場所を間違えたのかと受け取った名刺に書かれた地図を取り出すと一瞬光って煙のように消えた。
「謙心殿」
誰もいなかったはずの道場からひとりの男が出てきた。髪の毛の薄くなった初老の男、黒い胴着を
「宗玄さん……ですよね」
「いかにも。主は審判にかけられておる。いつかきっと必要になるであろう戦う術を学ぶのだ。
「この矛を取れ」
一本の武器が投げられる。それを右手でキャッチ、長い柄の先に取り付けられた3又の刃。
「槍? なんで僕がこんなことを」
全く意味が分からない。普通の高校生がたまたま通りがかった神社で巻藁を斬り、たまたまこの場所を教えられ、たまたまここに来ただけの僕が。
「たしかにそうだな。しかしこれは必然だ。審判にも見つからないこの場所で謙心には出来るだけ強くなってもらわなくてはならない。君の愛する人を守るためにもな」
「愛する人って……祥奈のことか!」
「今は『そうだ』とだけ言っておこう」
「宗玄さん、さっき審判に見つからないって言ってましたけど、僕がここに来たのは亜巫さん……嫌、カードで僕の審判だって言ってた人に勧められたからなんです」
「そうか……審判は知っているのか。それなら少しはこの世界が変わることを期待しているのかもしれんな」
「僕に一体何をやらせたいんだ。普通の高校生の僕に……」
「そうか、やるかやらないかは謙心の自由だ。やってもお前にとって不要となるかもしれない。しかし、術を学べば選択肢が広がる。愛する者を守れる力となるかもしれぬ。それにお前は既に普通の高校生ではない、人の体では耐えられないほどの力が眠っておるのだ。だからこそ体が動かなかった」
「祥奈に……祥奈に一体何が起こっているんだ。守るって何なんだ。教えてくれ」
「ここを抜ければこの場所の記憶は抜けるだろう。2度と戻ってくることはできない。ここは時間が進むことはないゆっくりと考えるがよい。守る術を得たいと思ったら道場へ、良く分からない夢だと思ったらこの場から立ち去ると良い」
宗玄は道場へと消えていった。風一つ拭いていないこの場所はとても静か。耳に入る音は自分の呼吸と、落ち着かない心が動かす手の擦れる音だけだった。
…………。
…………。
「ん? 僕はここで何をやっているのだろう」
フッ……急に冷静になって手に持った武器を後ろに放る。この現実離れした状況、夢? 最近、記憶の混濁が少なくなっていたのに色々と頭が混乱する。いつもの休憩所で亜巫さんに声をかけられてここに来た。朝起きてからここまでの記憶がしっかりあることを考えると現実……でも。
「ハイハイハイ、何を迷っているの。あなたは祥奈さんのことが好きじゃないの? 好きなんだったら彼女を守る術を教えるって言ってるんだからふたつ返事で受けるべきべきよね」
後ろから声をかけられた。静寂の中、人の気配なんて全くなかった。振り返ると男性? 声の主は可愛らしくも凛々しい人だった。
「君は……」
「ボクは
沼田は僕を横にずらすように無理やり石の上にお尻を乗せる。でも名前を知ってるって……ああ、祥奈にメッセージを送りまくったストーカー!
「君は祥奈につきまとっている……」
「ハハハハ、君たちの間じゃぁ僕はふたりの中を引き裂く悪者だね。大丈夫だよ、君から祥奈さんをとったりしないから」
僕は背中を強く叩かれた。
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《登場人物紹介33:9月》
夢彩高校
1B:
平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。
1B:
従妹であり幼馴染、楽器演奏得意。
謙心の変わりように戸惑っていた。
1B:
親友。中学校で仲良くなった、バスケ部(レギュラー)
1E:
一体誰?
2A:
読書好きな先輩。仲良くなると心を開いて喋ってくれる。
1B担任:
読書部顧問でもある
不思議な世界
不思議な少女、那奈代に似ている。
見つけた者を消滅させるらしい。
その他
宗玄の居る道場で現れた。何者だろうか。
???《不明》
黒胴着の初老の男、髪が薄いが武器の扱いに長けているようだ。
祥奈の
謙心の母の妹
???《不明》
謙心、祥奈と共に昔遊んだ記憶が夢に現れたが記憶には残っていない。
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