第31話 付き合いと出会い
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「祥奈、僕と付き合ってくれないか」
「えっ、良いけどどこに行くの?」
予想外の返事に真剣な表情をしたまま、あぐらをかいた体がコロンと倒れる。目線の先には祥奈のパンツがチラリ。
目線に気づいた祥奈はスカートを抑えてパンツを隠す。顔を真っ赤にし頬を膨らませている。
慌てて起き上がって手をバタバタさせる。
「ごめん、わざとじゃないんだ。僕の恋人になってほしいって言いたかったんだ」
四つん這いになって目を真っすぐに見つめる。破顔一笑する祥奈。
「なんでこんな時に言うのよ。余計に混乱しちゃうじゃない」
顔をフリフリする祥奈。髪もフリフリ揺れる。揺られた勢いで生み出されたそよ風を頬に感じた。
「僕は祥奈と一緒にいてこそ安心できるし先に進めるような気がするんだ」
僕の告白に考え込む祥奈。何を心配しているのか焦燥感が生み出され溢れ出す。自分の中では100%だと思っていた心が崩れ始めた。
「いいわよ、でも──」
両手をついて一気に脱力する。焦った心が天にも昇るような心へと変わった。祥奈の話を途中で遮るように喜んだ。
「良かった。思いっきり間があったから断られるかと思ったよ」
体中の空気を吐き出す勢いで安堵の息が大きく噴き出す。
「でもね、困った事があるの。夏休みが始まって直ぐ頃にドコネでメッセージが来るようになったの」
「困った事? ストーカーみたいなメッセージが来るとか?」
頭を掻きながら冗談ぽく中空を突く。祥奈はスマホを取り出すとドコネを開きメッセージ履歴をこちらに向ける。
「遠からず近からずね。『僕には君が必要なんだ』なんてメッセージから始まって、良く遊びに行こうって連絡が来たわ」
確かにそんなメッセージが並んでいる。都度、祥奈は丁寧に断りをいれているが心にザワザワしたものが膨らむ。
相手の名前は、
「女の子?」
聞いたことない名前。祥奈の知り合いだろうか。
「夏休み中に転校してきたんだって。そんなことメッセージに書いてあったけど……そういえばなんて転校してきたばかりでわたしのことを知ってるんだろう。名前的には女の子だよね。でもわたし、その人と会ったことないんだ」
「へぇ、でもその沼田さんって人は祥奈のことを知ってるんだよね」
「まあいいじゃない、わたしは今まで通り断るつもりよ、さっきまた謙心と付き合う事にもなったからね。ほら、夏休み最終日なんだから遊びに行きましょう」
* * *
杉や銀杏、紅葉といった季節の樹木におおわれた、県内屈指の有名神社に来ていた。大鳥居を抜けた先、1キロメートルほど整備された参道。行事やイベントともなれば両脇に屋台が埋め尽くされる名所。
社殿の前には大きな賽銭箱が置かれ、庭の中央には巨大な鐘が吊られている。大晦日ともなれば除夜の鐘を撞木で鳴らそうと多くの参拝客で賑わう。
「なんでここに来ようと思ったの?」
六角錐のおみくじ箱に手を突っ込み1枚の引く。
「クラスメートと会いたくなかったからね。まだクラスのみんなは祥奈の足が治った事知らないんでしょ」
六角錐のおみくじ箱に手を突っ込み1枚の引く。
肩を寄せてお互いのおみくじを見せ合う。小さく折りたたまれた紙を広げていく。この瞬間、妙にドキドキする。
「「普通だ」」
お互いに書かれている文字を見せ合う。解放されたドキドキが笑いを誘った。
『吉』
見比べてみると、一字一句書かれている内容が同じ。ある意味凄いことである。
「せめて中吉くらい出したかったなぁ」
おみくじの紙を長細く折りながら肩を落とす。
「なに言ってるのよ。吉は大吉の次に良い結果なのよ。それに、大事なのは書いてある内容。そのことを心がけようってね」
「そうなんだ。大吉、中吉、小吉、吉、凶、大凶かと思ってたよ」
おみくじ掛けに隙間なく結ばれたおみくじ。不思議と高いところに結びたくなってしまう。
「参道の方に行ってみようか」
「ちょっと見に行こう」
観覧している人の合間に立つ。中央には巻藁に対峙をして腰に差した鞘、刀の柄を握っている男。静かに息を吸い込み呼吸を整えている。静かな空気を震わせるような気合と共に目を見開き、鞘から抜いた刀が巻藁に一閃、巻藁が斜めに切断される。
まばらな拍手。人が多ければ周りが振り向くほどの盛り上がりをみせただろう。
「はい。無事に巻藁を斬ることができました。
観覧者同士お互いを見回す。お腹がぼこっと出た中年男性、老夫婦などの中に1組だけいる若いカップル、一斉に視線が僕に集まった。
「ほら謙心、男らしくやっちゃいまさいよ」
祥奈に強く背中を押され、一歩二歩とよろめきながら前に出る。髪の毛の薄くなった初老の男、黒い胴着を
ヒソヒソと祥奈に話しかける観覧者の声が微かに聞こえる。
「……彼氏の……ところが見れ……いいな」
「彼氏は……んか……ーツやってたのか」
などなど。子供や孫と同年代の僕たちカップルに興味津々なのか笑顔が向けられていた。
腰に紐を巻き付け刀を結ぶ。左手で鞘を持ち右手で柄を握る。少し屈んだ体勢から巻藁に心を集中させる。緊張した心が体を
そういえばいつのまにか普通に動く分には意識しなくても体が動かせるようになっている。人間の順応は凄いものだなぁと感心しつつもこの状況に戸惑っていた。
異様な空気。動かせない体に心で必死に抗っているのを勘違いしているの観覧者の雑談が消え、固唾を飲みこむような表情。そこへポンと肩に手が置かれ耳打ちされる。
「君は不思議な子だね。体にある力が大きすぎて扱いきれないような。君の力を10としよう。今、10の力を使って斬ろうとしている。もう少し細かく力の配分が出来るように、100あると思って30の力で斬ってごらん。10の3じゃなくて、100の30だよ」
黒胴着の男性はそのまま僕からゆっくり離れていった。地面に敷き詰められたじゃりの音が心を落ち着かせる。
(100のうちの30。こんな感じかな……)
体がスムーズに動く。10の力で握ると、柄から手の平に伝わる感触が僕の知っている今までの感覚。
力を微小に加えていくたびに柄の感触を強く肌に感じてくる。
25……26……27……28……29……30──
鞘から抜けた刀は巻藁にめがけて一直線、水平に捉えた。
ザンッ…… あまり手応えを感じないまま巻藁は2つに分断された。
観覧者の拍手が一斉に巻き起こる。人数的にそれほど迫力があるわけではないが何か嬉しかった。黒胴着の男に1枚の紙を渡され受け取る。
「いつでもここに来なさい。ここに来れば道が拓けるはずだよ」
駆け寄る祥奈が腕を絡ませる。笑顔と共に喜びの声、黒胴着の男にお礼を言うと参道へと引かれていった。
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《登場人物紹介31:8月31日(夏休み最終日)》
夢彩高校
1B:
平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。
1B:
従妹であり幼馴染、楽器演奏得意。
謙心の変わりように戸惑っていた。
1B:
親友。中学校で仲良くなった、バスケ部(レギュラー)
1E:
一体誰?
2A:
読書好きな先輩。仲良くなると心を開いて喋ってくれる。
1B担任:
読書部顧問でもある
不思議な世界
不思議な少女、那奈代に似ている。
見つけた者を消滅させるらしい。
その他
祥奈に近づく人物……誰だろう
祥奈の
謙心の母の妹
謙心、祥奈と共に昔遊んだ記憶が夢に現れたが記憶には残っていない。
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