第30話 体の異変
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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○。○。○。○。
カーテンの開ける音が耳に、差し込んだ朝日の眩しさを目に感じて意識を取り戻した。
涼しい風を頬に感じる。窓から吹き抜ける風、カーテンのなびく音が朝を感じさせる。
「おはよう謙心、さっきスマホに着信が入っていたようだけど」
母親はスマホをチラリとみるとそのまま階下に降りていった。
意識が遠い、頭がフラフラする……起きようと努力するが体が動かない、まるで金縛りにあっているようだ。スマホ、スマホ……あれ、腕も動かない。体に力が入らないわけじゃない、逆に力は
既に30分ほど経つが全く体が動かせない。微かに聞こえるインターホン、追いかけるようにパタパタと階段を駆けてくる音。
母さんがまた起こしに来たのかな。扉が勢いよく開かれる。
「謙心、まだ寝てるの!」
ん? 頭の中で糸が引っ張り上げるように色々な記憶が溢れ出す。
「祥奈!」
「ダメだなぁ、謙心はお寝坊さんなんだから。今日は夏休み最終日だから遊びに行こうって約束したじゃない」
「ごめん。体調が悪いのか体が全然動かないんだ」
鉛のように重い体、震える程しか動かない。
「大丈夫、調子が悪いならわたしが今日は看病するよ。足を治してもらったし謙心とも一緒にいたいからね」
祥奈は僕の首の下に手を入れると上体を起こすように上げた。が、びくともしない僕の体に困惑する祥奈。
「ごめん」
僕には謝る事しかできない。
「ねぇ謙心。何か夢でも見たんじゃない……、妙に体が強張ってるけど。力を抜いてごらんなさい。
体中の息を鼻から吐きだして脱力する。肩が下がりだらんとした感覚。
「あれ、体が動く。でもなんか気持ち悪い」
脱力したままなら体を動かせる。力を込めるとそこが強張り動かせなくなってしまう不思議な感じ。 力加減が難しい。
「もしかしたら私の足を治す不思議な力を蓄えてるのかもね。それならいろんな人を救えるかもよ」
「何を言ってるんだよ。僕は魔法使いじゃないって。足が治ったのもきっと偶然だよ」
「キスをしたら治った気がするの。何か温かいものが流れてきた感覚。私の全てを治してくれたような……」
少し悲しげになる祥奈の表情。
「そんなことが実際に起きたらロマンチックだね。治って良かったじゃないか、僕も嬉しいよ。でもなんでそんなに悲しい表情をしてるんだよ」
近寄って祥奈の頭をポンポンする。サラサラした髪の感触が心地よい。
「もしよ、もし謙心がキスで病気を治すならいろんな人とキスをするってことよね。病気を治すことは素晴らしいことだけど……わたし、謙心を誰かにとられたくないの」
「それは偶然だって、ほら足が治って話が無くなったけど僕は祥奈が好きだって言ったでしょ」
腕に力が入る。気持ちは両手でバタバタ手を振っているが動かない。
祥奈の顔が少し
「ねえ謙心。昨日、一緒にご飯食べたじゃない。美味しかったからまた一緒に行きたいんだけどもう一回今日行かない?」
ご飯……記憶にない。何を食べたのだろう。覚えているのはショッピングモールで食べたドリアとハンバーグ。でもどこかへ行ったのだろう。いつものように記憶の差異か……。
「いいねー。そこに行こうか。今日は何を食べようかなぁ」
「……そよ」
腕を組んで怒っている。頬を膨らませ僕を真っすぐ見つめている。
「え?」
「嘘よ。昨日一緒にご飯を食べに行ったなんて嘘。け……謙心なのね……戻ってきてくれたのね」
大粒の涙を流す祥奈。そのまま僕に飛びつくように抱き着いた。鼻に抜ける祥奈の匂い、柔らかな肌の感触。すべてが懐かしい。
唐突に部屋の扉が開かれる。
「ちょっといつまで遊んでるの。ふたり」入って来たのは母親「あら。ごめんなさい」おばさんのような手つきをして部屋を出ていった。
慌てて離れる祥奈。床に正座してあさっての方を向いている。後ろ姿でも分かるほど恥ずかしがっているのが分かる。
「ねえ祥奈、なんで嘘なんかついたんだい」
祥奈の前にゆっくりと座る。真っ赤だった頬は嬉しそうな表情へと変わり僕の右手を拾い上げて包み込む。
「おかえり、謙心」
祥奈に事情を教えてもらった。
「
謙心の様子がおかしくなったのは足が治った翌日から。普通に会話もするし生活もする。治ったことをみんなと喜んでくれたりもした。
恋人関係も足が治ったら解消するって確かに言ってたけど、私がバカだと思えるほどの温度差を感じてたの。わたしから「また付き合う?」って聞いても「今の僕は君とは付き合えない、もう少し待って欲しい」って返されるばかりで。
夏休みなこともあってなんとなくドコネのやりとりだけで1カ月が経ったの。夏休みに何もないのは寂しいから朝、メッセージを送って来たってわけ。
そしたら謙心の様子がおかしい。そこで謙心が嘘をつくようにカマをかけたのよ。嘘をつくときの癖が出るんじゃないかって……そしたらその癖が出ていたのよ。わたし嬉しくって……あの時の謙心は明らかな嘘でも癖が出ていなかった。
」
人差し指を出して前後に動かしたり、腕組みをして頷いたり、時には身振りを交え、時には表情を変え必死に説明してくれた。
「不思議な話だね。変に思われるから今まで隠してたけど記憶の断片と夢の記憶ががあちこち渦巻いているんだ。最近は落ち着いたのか慌てるほど混在はしなくなったんだけど、祥奈がさっき言った話は全く覚えていない。最後の記憶は祥奈の足が治った日に一緒に帰った事かな」
こぶしを顎に当てて考えてみる。僕と祥奈の話しを合わせると僕が変わった日と記憶が維持されていた日が一致する。
「わたしの記憶と謙心の記憶が一致してるわね」
「ねえ、美佳は……美佳は何してるの。三角関係~とか言ってた美佳は」
思わず両手を床につけて身を乗り出した。
顔と顔が近い、愛おしい祥奈の顔に徐々に吸い寄せられる。
「ふたりとも、付き合うのは構わないけど清い交際を頼むわね」
音もなく母親が部屋に入り、飲み物とお菓子を置いて出ていった。真っ赤になるふたり、どこかで見てるんじゃないかと思うほどタイミングが良い。
「ん、んん。美佳? 誰それ。わたし美佳なんて知り合いいないけど。まさか謙心の好きな人」
体を思いっきり引く祥奈。どうしてよいか分からない表情。目の前にあるジュースを一気に飲み干した。
「え!? 美佳を知らない……。足が不自由な時に話しを聞いてもらったりトイレを手伝ってもらったりした恭平の双子だよ」
記憶の差異に焦燥感が大きく溢れ出す。多少の記憶の差異なら気にならなくなったがいくらなんでも大きすぎる記憶の差異。
「ちょっと待って。言われてみればわたし誰に助けてもらったんだろ……なんだろう黒塗りされたように思い出せない。それに恭平の双子って言ったら恭奈ちゃんでしょ、小さいころに神社で亡くなった」
お互いが戸惑う。記憶の差異、記憶違い、どちらなのかは分からないけどこれ以上考えても分からないものは分からない。
「祥奈、僕と付き合ってくれないか」
言わずにはいられなかった。
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《登場人物紹介30:8月31日(夏休み最終日)》
夢彩高校
1B:
平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。
1B:
従妹であり幼馴染、楽器演奏得意。
謙心の変わりように戸惑っていた。
1B:
親友。中学校で仲良くなった、バスケ部(レギュラー)
1E:
一体誰?
2A:
読書好きな先輩。仲良くなると心を開いて喋ってくれる。
1B担任:
読書部顧問でもある
不思議な世界
不思議な少女、那奈代に似ている。
見つけた者を消滅させるらしい。
その他
祥奈の
謙心の母の妹
謙心、祥奈と共に昔遊んだ記憶が夢に現れたが記憶には残っていない。
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