第24話 既視感

 下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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[謙心] 返信遅れてごめんな。美佳ちゃんにバスケを教えてもらって今帰ってきたところ。

[恭平] ああ、美佳が無事ならそれでいいんだ。聞いたぞー謙心はバスケの才能があるって。

[謙心] お世辞だよお世辞、ドリブルなんてボールを蹴っちゃってな。

[恭平] パワーとスタミナがピカ一だってよ。技術をつけたらお兄ちゃん負けちゃうよって言われたよ。

[謙心] ははは、まさかそれはないだよ。年季が違うだろ年季が。


 バスケや美佳のメッセージで盛り上がっていた。恭平とのやりとりの合間に美佳とも……。

 大林家の兄妹ふたりと同一時刻にメッセージのやり取りをしているんだな~と思うと少し笑えた。




 学習机のビニールマットに挟んである祥奈からの手紙、窓から見える祥奈の家、月明かりに照らされる屋敷の木々、いつもと変わらぬ風景。


(祥奈ちゃんをこれからも助けてあげて 祥奈)

 頭の中で何度も繰り返す。ふと無意識に手紙を取り出した。


「あれ……何も書かれていない」


 確かに文字が書かれていたはず……。書かれていた内容も覚えている。母さんが机の上をいじることなんて……ましてや手紙を差し替えるなんて考えられない。


 椅子にへたりこむと無意識に頭を抱える。手から離れた手紙はひらひらと音もたてずに落ちていく。


『祥奈を助けてくれてありがとう。これからも守ってあげてね』


 手紙を巻き上げた一筋のそよ風と共にどこからともなく聞こえた声。抱える頭を上げて見回すが誰もいない。気のせいか? あれ? 窓が開いている。


 それに手紙、床に落ちたはずの手紙もない。窓から飛んで行ってしまったか。


 慌てて窓のさんに手をかけて月に明かりを頼りに周囲を見回す。無風。風を感じない。慌てて庭に降りるとスマートフォンのライトを使って手紙を探すが見つけることは出来なかった。



 * * *



 8月最初の日曜日、いつもより早い時間に目が覚めた。昨夜のことが頭に残りモヤモヤした心をすっきりさせようと1時間程のマラソンコースを走っていた。


 夏の真っただ中、5時を過ぎたばかりの少し涼しい時間帯はマラソンに散歩にと人が多い。慣れ親しんだ地元の道は心が安らぐ。道端に根を張る雑草、錆びたトタンで囲われた灌水かんすい設備、用水路に目を向けると真っ赤なザリガニや捨てられたであろう亀が優雅に泳いでいる。


「ふぅ~」

 体が妙に軽かったなぁ。40分は走っているのにまだまだ余力がある。そういえば美佳と2時間バスケをしても疲労感があまりなかったな……。ふと僕の体に何かが起こっているのではないか、そんな焦燥感に包まれた。


 ブッゥ、ブッゥ、ブッゥ


 ポケットに入れられたスマートフォンの振動を尻に感じる。ディスプレイには恭平の文字。


「もしもし、どうしたの?」


「謙心! 美佳が……美佳が……」

 恭平の慌てた声がスピーカーから響いてきた。すがるような必死さ。


「恭平。美佳に何があったのか!?」

 聞いたことの無い恭平の声。ふと美佳とバスケで遊んだシーンが頭をよぎる。


「美佳が……事故に……謙心に会いたいって」


 なんだ……前に同じようなことがあったような気が……。事故、病院、怪我……記憶の断片が一本の線に繋がらない。


「おい謙心、聞いているか。美佳が謙心に会いたいって……今すぐ来てくれないか」


 自転車を走らせた。美佳のことが心配で『疲労』という2文字など吹き飛ぶほどに心はザワザワしていた。


 屋敷を通りがかった時、一瞬、祥奈の姿を見た気がした。タイヤ痕が数メートルできるほどの急ブレーキ。屋敷を見るが誰もいない。祥奈どころか桜子さんの姿も見えずいつもの風景が広がっているだけだった。


「今は一刻も早く美佳のところにいかないと」


 ペダルの上に立ち上がって一気にペダルを踏みこむ。立ち漕ぎで勢いをつけるとサドルに座って前のめりになる。顔に当たる風が痛い、天が味方したのか信号に引っかかること無くスムーズに駅に到着した。


 15分ほど乗る電車。手持ち無沙汰てもちぶさたが焦燥感を何倍にも膨らませる。


 1時間にも2時間にも感じた電車。電車のドアが開くと階段を駆け上がって改札へ、駅から走って20分程の距離にある病院まで猛ダッシュした。心が熱くなっているせいか疲労は全く感じない。


 

 市立中央総合病院前。

 恭平に電話を掛ける。ワンコールが鳴るか鳴らないかのタイミングでつながる。ずっとスマートフォンのディスプレイを見て待っていたのかもしれない。


「謙心来たか、7階だ768号室にすぐ来てくれ」

 恭平の大きな声が耳に痛い、若い女性の声で「静かにしてください」と注意されている。微かに聞こえた美佳の声に焦りが幾分か和らいだ。



「大林 美佳さんが運ばれたと聞いて来ました」


  救急専用入口の受付に声をかけると冷静に台帳をペラペラとめくる。リストの中から名前を見つけたのかどこかに内線をかけ始めた。数回のやり取りをすると受話器を離して通話口を塞ぐ。

「えっと、お名前をお伺いしていいですか?」


建金たてがね 謙心けんしんです」


 再び通話口に向かって話を始める。そしてまた数回のやりとりが始まる。手際の悪さに焦る心が手伝って怒りの種を生み出す。僕の表情を見たスタッフは話も途中に首掛け式の『7階』と書かれたカードキーを手渡した。

 

 

 一般棟の奥にあるエレベーターで7階に向かう。初めてくる場所だがなんとなく場所が分かる。エレベーターを降りると正面に『東棟』『西棟』と案内がでかでかと書かれた壁。

 768号室のある西棟、受け取ったカードキーを使って自動ドアを抜ける。


(……そういえば受付で部屋番号教えてもらってないな)


 恭平に教えてもらった768号室は西棟の一番奥。突き当りには大きな窓になっており、住宅や駅、巨大スーパーなどが小さく見える。その左手側だった。


 カーテンを乱暴に開ける音が響き、目線を向けると恭平が病室から慌てて走ってきた。 


「謙心、よく来てくれたな。美佳が……美佳が事故に……」 

 僕の返事を待つことなく右肩を掴まれ背中を押されたまま病室へ入る。


「恭平、美佳ちゃんは大丈夫なのか」


「いや、ちょっと…………な。美佳が謙心を呼んでほしいって、勇気づけてやってくれないか」

 珍しく声のトーンが下がっていく。こんなにつかえたような言い方をする恭平は何年ぶりだろう。


「美佳ちゃん事故に巻き込まれたって……。さっき恭平から連絡があって来たんだ。

 白い壁に白い天井、ピンクのカーテンで区分けされたふたり部屋。無表情のまま天井を見つめている美佳。ゆっくりとこちらに顔を向ける。


「病院まで来てくれてありがとう。ちょっと体が動かせなくて寝たままでゴメンね」

 弱弱しい声、笑顔を見せてくれるが明らかにつくり笑顔、駆け寄ると両手でベッド柵を掴んで覗き込んだ。


「連絡をもらって急いできたよ。元気そうで良かった」

 

 心ここにあらず。静かな空気の病室、唯一聞こえる音は廊下で忙しそうに動き回っている看護師の足音だけ。この空気感、落ち着いているというより諦めに近いものを感じる。


 空気無言のプレッシャーに耐えられなくなったのか恭平が声をあげた。


「今朝な、バスケの練習試合があって両親が車で美佳を送って行ったんだ。その時に事故に巻き込まれてな。両親は軽傷だったが念のため検査してるよ。美佳は強く腰をうったみたいで別室で──」

 話が止まらない。家族の一大事に必死な形相で激しい身振り手振りを交えて。


「お兄ちゃん、わたしから話をさせて。謙心さんとふたりきりにさせてもらっていいかな」


 弱弱しい美佳の声、その言葉にトボトボと部屋を出ていく恭平。この感じ前にどこかで……、足? 一体なんだこの沸きあがってくる悲しい感情。美佳はまだ何も言っていない。ただただ涙をこらえるのに必死だった。


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《登場人物紹介24:8月》

夢彩高校

 1B:建金たてがね 謙心けんしん

   平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。

 1B:高梨たかなし 祥奈あきな

   従妹であり幼馴染、楽器演奏得意。病気で寝たきりらしい?

   謙心、祥奈、美佳の仲良し三角関係は幻?

 1B:大林おおばやし 恭平きょうへい

   親友。中学校で仲良くなった、バスケ部(レギュラー)

 1E:大林おおばやし 美佳みか

   恭平と双子の妹、祥奈の親友、植物大好き、小4まで良く遊んだ。

   妹のように可愛い、バスケ部(レギュラー)、事故に巻き込まれた。

 2A:代口しろくち 那奈代ななよ

   読書好きな先輩。不思議系小説を好む?。仲良くなると心を開いて喋ってくれる。

 1B担任:本谷もとや たけし

   読書部顧問でもある


不思議な世界

 余乃よの 三花みか

   不思議な少女、那奈代に似ている。

 かげ

   見つけた者を消滅させるらしい。


その他

 祥奈の叔母

   謙心の母の妹、名前を祥子あきこという。見えない祥奈を看病している。

 ???不明 恭奈きょうな

   謙心、祥奈と共に昔遊んだ記憶が夢に現れたが記憶には残っていない。

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