第21話 不安な気持ち

 下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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「どうぞ」

 ドアノブを掴んだまま目線で部屋の中に入るよう促される。


 そこで見たものは…………


「え、あ、祥奈??」


 窓際に置かれた白い木のベッド、可愛らしい柄の白いタオルケットが掛けられ、シーツに枕に寝具の柄が揃えられている。


 部屋の中に人の気配はない。ベッド脇のテーブルにはアルコールやガーゼ、良く分からない医療器具が置かれていた。


祥奈の母叔母さん……祥奈は……」


 祥奈の母叔母は静かに扉を閉めると祥奈を見守るように膝をついて優しく布団をなでる。


「良く寝ているでしょ。朝になったら「おはよう」って言ってくれそうな気がして……。ふふふ、謙心くん祥奈の寝顔が可愛いからって襲っちゃだめよ……でも謙心くんなら……」

 

 え、いや……どう見てもいないものはいない。祥奈の母叔母はどうしてしまったのか。混乱する頭、何を言っていいのか分からない。


 今できることは祥奈の母叔母の話しに合わせることだけ。

 祥奈の闘病におかしくなってしまったのか。そんな考えが頭をよぎった。


「おっ、祥奈の母叔母さん。あんまり祥奈の寝顔を見ていたら悪いから今日は帰ります」


 振り返ってとドアノブに手をかける。触れた瞬間、鉄の冷感が指を伝わって全身を駆け巡る。寒気さむけが何倍にも増幅され背筋が震えた。


「たまには祥奈のところに来て話しかけてあげてね。呼び声に反応して起きることがあるかもしれないから……美佳ちゃんもバスケで忙しいのに時間を見て来てくれているの」


 祥奈の母叔母の方を見ることなく「また来ます」と一言置いて祥奈の部屋を出た。



 屋敷近くの休憩所で石椅子に座って呆けていた。祥奈……居なかったなぁ。頭を掻いてみたり頬を掻いたり膝の方に行ったりと手がフラフラ落ち着かない。


 散った葉が風に飛ばされて地面の上で競争しているように走り回る。その瞬間、一陣の大きな風が吹き抜けた。走り回っていた葉は飛び散り僕の顔を叩く。その隙間から囁くような声が聞こえた。


『目に見えるものだけが全てではないのよ』


 思わず立ち上がる。あたりを見回しても誰もいない。

 空耳か……椅子に座るもさっきの言葉が頭から離れなかった。考えれば考えるほど混乱する。思考がぐるぐると巡る中、自然と家へと足が向かった。


 どうやって家に帰ったのか。気づいたらベッドの上に座っていた。枕元に置かれて1枚の紙。三つ折りにされた紙を丁寧に広げる。


 『祥奈ちゃんをこれからも助けてあげて 祥奈』


 ん? 前にも見たときと何かが……何かが違う。拭えないヤキモキした感覚が今日の祥奈の家で見た出来事を思い返させる。


 一体祥奈は……祥奈の母叔母は……どうなっているんだろう。ベッドには確かに誰も寝ていなかった。でも祥奈の母叔母は祥奈がその場にいるような行動。


 そういえば美佳! 美佳が祥奈に会いに来てるって……。母さんに心配はさせられない。まずは美佳に相談してみよう。


 枕にほうったスマートフォンを拾い上げるとドコネを起動する。何回タップしても反応はなくフリーズしているようだ。いくら電源ボタンを連打しても変わらない。


 美佳が不安を解消してくれそうな期待が心をはやらせる。

 電源ボタンを長押して再起動するが、画面が切り替わるまでの時間がとても長く感じる。程なくしてスマートフォンの画面が暗転した。


 真っ黒になった画面に自分の必死な顔が映る。そんな自分と目が合った。


「プッ」

 一瞬吹き出した言葉と息と共に、今まで積もった緊張感と必死さが全て吹き飛んで笑いが込み上げる。


「今は、祥奈が部屋にいなかったという事実を美佳に聞いてみよう。話はそれからだ」

 自分を納得させるように目線を落として声に出して言い聞かせる。


 まるで冷静になる自分を待っていたかのようにスマートフォンの画面が開かれた。


 ドコネをタップしてトーク画面を開く。履歴の中には美佳とのやりとりはなく友だち一覧にも美佳の名前は無い。


 冷静になっている僕は美佳と連絡をとる方法を考えていた。トーク履歴を上下に動かし………………。ふと思い立ってとある人物のトーク履歴をタップすると続けて受話器形の通話ボタンをタップした。


 1コール……2コール、コールが鳴るたび心臓がドキドキする。いつもなら気にすることもなく枕にほうってスピーカーモードでゴロゴロしながら通話するが耳に冷たい感触を感じながら待ち続けた。


 ……8コール……出ないか。


==通話==


「もしもしどうした?」


 コールが鳴るたびに積み重なった緊張が一気に抜けてベッドにへたり込む。いつもと変わらぬ相手の声に安堵すら覚えた。


「恭平、悪いな急に連絡して」


「いやいいさ、珍しいな謙心が通話なんて。いつもは用件だけドコネで送ってくるやつが」


「ちょっと恭平に頼みがあってな」


「なんだ頼みって、何でも聞くぞ。金を貸してくれ以外だったらな」

 恭平の笑い声が耳に響く。流石スポーツ部、声がでかい。


「美佳ちゃんと話がしたいんだ」


「おっ! 美佳か? なんだなんだ、謙心は美佳に気があるのか?」


「い、いや。ちょっと祥奈のことを相談したくてな。祥奈のところに良くお見舞いに行っているから聞きたいことがあってな」


「そっか、やっぱり謙心は祥奈さんか。オッケー、ちょっと待ってろ」


 端末越しに聞こえる恭平のとてつもなく大きな声。

「おーい美佳ー、謙心が祥奈さんのことでお前と話しをしたいってよ。どうするー?」 ………………………… 「おっけーだって。明日、終業式後ならいつでも良いって」


「ありがとな。じゃあ学校に近いショッピングモールにある個室珈琲だんコーヒーに13時でって伝えてもらっていいか。個室を予約しておくよ」


「個室? 一体何を相談するんだよ。まあいい、可愛いからって美佳のこと襲うなよ……。あ、謙心が弟になったら面白いからそれもいいかも」

 恭平の笑い声が耳に痛い。


「なに馬鹿なこと言ってるんだよ。ありがとうな」


===(通話を切断)===


 良かった。断られたらどうしようかと思った。頭に残る三角関係の記憶。祥奈の病状、お見舞いに行った話しなどいろいろ聞きたい。


 僕はこの時、恭平との通話にあった違和感に気づいていなかった。



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《登場人物紹介21:7月》

夢彩高校

 1B:建金たてがね 謙心けんしん

   平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。

 1B:高梨たかなし 祥奈あきな

   従妹であり幼馴染、楽器演奏得意。病気で寝たきりらしい?

   謙心、祥奈、美佳の仲良し三角関係

 1B:大林おおばやし 恭平きょうへい

   親友。中学校で仲良くなった

 1E:大林おおばやし 美佳みか

   恭平と双子の姉、祥奈の親友、植物大好き、小4まで良く遊んだ。

   謙心、美佳、祥奈の仲良し三角関係

 2A:代口しろくち 那奈代ななよ

   読書好きな先輩。不思議系小説を好む?。仲良くなると心を開いて喋ってくれる。

 1B担任:本谷もとや たけし

   読書部顧問でもある


不思議な世界

 余乃よの 三花みか

   不思議な少女、那奈代に似ている。

 かげ

   見つけた者を消滅させるらしい。


その他

 祥奈の叔母

   謙心の母の妹、名前を祥子あきこという。見えない祥奈を看病している。

 ???不明 恭奈きょうな

   謙心、祥奈と共に昔遊んだ記憶が夢に現れたが記憶には残っていない。

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