第19話 本
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「く、苦しい……」
「わたしももうダメです」
パフェは残り半分、シリアルに生クリーム、アイスに桃を中心に季節の果物。
「那奈ちゃん、ちょっと休憩しよう」
膨らむ腹、手の平でポンポンと叩くと波打つように揺れる。
「そうですね。この前と同じくらいでしょうか。なんとか食べきりたいです」
背もたれに寄りかかって肩と頭を落として苦しそうに腹を押さえる那菜。イメージとは違うギャップに僕だけが彼女のことを知っているような満足感が生まれた。
「那奈ちゃん学校と雰囲気が違うね。こんなに話しをしてくれるとは思わなかったよ」
クスクス笑う那奈。スプーン片手に生クリームをすくって一口食べる。
「そうかもしれません。仲良くなれば私だって明るいんですよ」ニコリとする彼女にドキッとしてしまう──「でも謙心さんは心ここにあらずというのかな……何か戸惑っているように見えます」
大きなパフェグラス越し、歪曲したグラスと那奈の傾げた顎が重なり面長に見えた。普段なら会話のネタとして盛り上がりそうだが、心を見透かされ、鋭い矢が突き抜けたように目線が鼻に、口に、首に、胸に、テーブルに落ちていく。
那奈は僕のことを分かってくれるんじゃないか。彼女の一言が僕のことを理解してくれるんじゃないか。そんな錯覚にすがるように秘めたる想いが溢れ出した。
「実は……僕の記憶は夢と現実が混在しているんだ。前に那奈ちゃんと本を選んだことやご飯を食べたことだってまったく覚えてないんだ」
彼女の優しい眼差しに心が温かくなる。年上という安心感、読書という共通の趣味、そんな彼女だからこそ素直に言えたのかもしれない。
「わたしたちって不思議系の本好きでしょ。こんな話しって聞いたことない?」
──電車に乗っていたらうつらうつら寝てしまった男性……。
気づいたら知らない駅に到着。誰からともなくその場に下ろされた男性は行く当てもなく彷徨った。
困り果てた男性はとある女性に助けられ一緒に住むようになった。
一緒に生活していくうちにいつのまにか彼女を愛し、彼女もまた男を愛した。
とある日、そんな彼女に付けていた指輪と共にプロポーズ、結婚を申し込んだ。
彼女の両親は大喜び、盛大な宴で結婚式を挙げようと多くのご馳走を準備した。
しかし彼女だけは宴の席に男性が来るのを強く拒んだ。そして彼女は男性の手を引いて逃げた。異変に気付いた村人に追いかけられ崖に追いつめられる。
訳が分からない男は彼女になぜ逃げる必要があるのかを聞いた。
「あなたは、ここの住人ではありません。この世界で作られたものを食べ続けるとあなたの魂がこの世界で定着してしまいます。それはあなたにとってとても不幸なこと……私の幸せはあなたの幸せ」
迫りくる村人、一歩一歩崖の端に追いつめられる。村人の一人が声を上げた。
「この世界を存続させる贄を逃がそうとするやつは天罰が落ちるぞ」
僕は彼女に谷底に突き落とされた。落ちる間際に目にしたものは、彼女の頭に突き刺さる鍬だった。
気づくと終着駅で起こされていた。彼女と愛した記憶が鮮明に残っていた男性は彼女を偲んで独身を貫いていたが、いつしか記憶が風化し別の女性と結婚した。
結婚前夜、夢に出てきた女性。すべての記憶が蘇る。
『私の幸せはあなたの幸せ。きっと幸せになってください。これはお返しします』
朝起きた男は指輪を握りしめていた。目からは大粒の涙を流して……。無くしたとばかり思っていた指輪。夢から覚めた男の夢の記憶は失われていた──
「いい謙心さん、人は誰しも知らない世界に足を踏み入れているかもしれないの。時間が経てば記憶が風化する。特に夢や現実離れしたことなら尚更ね。覚えていても断片だけとかあべこべだったりね。つまり何が言いたいかというと、この世界に定着するにはこの世界の物をたくさん食べようってこと。はい、口を開けて」
考えなしに大きな口を開ける。那奈はスプーンでパフェグラスからクリームをすくい取ると僕の口に入れた。
「え、あ、それ那奈ちゃんのスプーン……」
「ふふふ、次行くわよ。はい、あ~ん」
思わず口を開けてしまう。冷たいアイスクリームの上に乗った生クリームと桃の甘みが口いっぱいに広がる。
那奈ちゃんに見つめられると他のことがどうでも良くなるような感覚さえ覚える。夢心地というのだろうか……、妙に浮かれている気がする。
「はい、おしまいー」
自分の世界に引き戻される。目の前にあるパフェグラスは空、全て食べきっていた。
「これ、僕が食べたの?」
大きな器を両手で持ち上げる。甘い香りがあたりに漂い、溶けたアイスクリームがパフェグラスの底に幾分かたまっている。
「うんうん。ふたりで協力した結果ね。なんか嬉しいわ、初めての共同作業みたいで」
ニコニコする那奈、いろいろな妄想が頭を巡って僕の顔が赤くなる。恥ずかしさに耐えられなって話題をなんとか変えようと頭を巡らす。
「そういえば今日はどんな本を選びたいの?」
急成長した胃袋から逆流する空気がゲップとして出てこないように必死で耐える。時折、喉に力を入れたり、空気や唾液を飲みこんで押し返す。
「そうですね……。この間選んでもらった本の中に『ヴォイニッチ手稿』というものの記事があったんですよ。夢があるのでもう少し調べたいなぁと思って」
バックの中から1冊の本を取り出す那奈。世界の不思議なできごと、オーパーツや未確認のことなどまとめられた本。
「『ヴォイニッチ手稿』聞いたことあるなぁ。確か植物について書かれた本だっけ?」
「ええ。いまだに解読者がいないという本ですね。いろいろな記事を読んだりスマートフォンで調べていたら面白くなっちゃって」
取り出した本をペラペラと捲っていく那奈。とあるページに辿り着くと開いたままテーブルに置いた。『ヴォイニッチ手稿』について取り上げられた小さな記事。見開き1ページ分の写真とコメントが掲載されている。
身を乗り出して写真を視てしまう。
「……パム」
思わず小さく口に出た言葉……。モミジ形の葉、多くのヤシっぽい
「謙心さん、パムってなんですか?」
人差し指を顎に当てて首をかしげる那奈。僕の小さな声に聞き取れなかったのか不安そうな表情。
「え、あ、ゴメン。パムってなんだろう。なんか急に頭に浮かんだんだ。もしかしたら僕が勝手なイメージでそう思ったのかもしれないね」
『ヴォイニッチ手稿』の記事を元にお互いの意見をぶつけあった。そこから派生するように宇宙人やネットで見つけた異世界や不思議な出来事について時間を忘れて語り合った。
「そういえば謙心さんって恭奈ちゃんって知ってます?」
「いや、聞いたことないなぁ。初めて聞く名前だよ」
「では美佳ちゃんって知ってます?」
「ああ、美佳なら知ってるよ。大林美佳でしょ」
「そうです。夏休みに美佳ちゃんがバスケでインターハイに出るんですって」
「へぇ~知らなかったよ。(……美佳は何も言ってなかったなぁ)」
「時間があったら応援に行きましょうね」
雑談は続く……。それから那奈と本を選んだ。
目的としていた『ヴォイニッチ手稿』についての書籍は見当たらず、今度、遠方の大きな図書館か本屋に行ってみようという話しになり彼女と別れた。
時間は15時、
謙心は自転車を走らせた。
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《登場人物紹介19:7月》
夢彩高校
1B:
平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。
1B:
従妹であり幼馴染、楽器演奏得意。病気で寝たきりらしい?
謙心、祥奈、美佳の仲良し三角関係
1B:
親友。中学校で仲良くなった
1E:
恭平と双子の姉、祥奈の親友、植物大好き、小4まで良く遊んだ。
謙心、美佳、祥奈の仲良し三角関係
2A:
読書好きな先輩。不思議系小説を好む?。仲良くなると心を開いて喋ってくれる。
1B担任:
読書部顧問でもある
不思議な世界
不思議な少女、那奈代に似ている。
見つけた者を消滅させるらしい。
その他
祥奈の
謙心の母の妹、名前を
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