第18話 デジャブ

 下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。

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 思い出した。病気の祥奈を助けるために病気を治す植物ポポンを食べたことを……。ばらばらになった記憶の断片が一本だけ道を作った。


 柿……柿……白い柿。


 病気を治す植物ポポンを使って誰かを回復させた記憶。思い出せない。思い出せない。


 この世界で食べた植物の効果を夢で? 夢で出会った人を回復させて何になるんだ。葛藤がこぶしを強く振るわせる。


 でもこれだけは分かる。たとえ夢であっても祥奈……祥奈だけは回復させなければいけない。それが僕の使命であるかのようにその気持ちだけが強烈に浮かび上がる。矛盾していることに気づかないほどに。




 あった……! まぎれもない眠る事の出来る植物、柿っぽいパモン


 青い色をしているがまさしく柿っぽいパモン。白を食べ緑を食べた。きっと色が違うだけのはず。


 甘くフルーティーな匂いを漂わせ、はやる気持ちが握った実に指痕をつける。気にすることなくもぎ取ると、一気にかぶりついた。


 眠い。急激な眠気が僕を襲う。抗う事のできない眠気が膝をつかせその場に倒れこませる。ほのかな風を頬に感じた……。



 ○。○。○。○。



 カーテンの開ける音を耳に、差し込んだ朝日の眩しさを視界に感じて意識を取り戻した。 


 温かい風を頬に感じる。窓から吹き抜ける風、カーテンのなびく音、朝の匂い。


「おはよう謙心、さっきスマホに着信が入っていたわよ」

 母親はスマホをチラリとみるとそのまま階下に降りていった。


 意識が遠い、頭がフラフラする……起きようと力をこめるが体が動かない、まるで誰かに操られているよう。


 うっすら見える視界の先にあるスマホに目を向けた。


[那奈] おはよう謙心くん、前は本を選んでくれてありがとうね。前に選んでもらった本を全部読み終えたからまた選んでもらっていいかな。

[那奈] 今日、これからお願いしてもいいかな。

[那奈] どうかな?


 そして、30分ほど後にもうひとつ。


[那奈] まだ寝てるのかな。お疲れだったら無理しなくて大丈夫だからね。


 頭とは裏腹に身体が勝手にメッセージを打ちこみ、送信ボタンを押下する。


[謙心] ごめん。今起きたところ、これから準備してすぐ向かうね。

[那奈] ありがとう。この間のお店の前で待ってるね。


 意識を取り戻す。過去に遡ってスクロールすると、たわいもない那奈とのやりとりがスマホに残されている。


 ん? そもそも那奈の連絡先は無かったはず。なんで僕はメッセージ交換をしているんだ……本を選んだ記憶がない……。それにこの間のお店って。



 約束してしまっているので行かないわけにはいかない。祥奈の家に寄ってからお店に行こう。本を選ぶだけだし、午前中に終わらせれば祥奈と美佳と一緒に遊びに行こう。


 ドコネのメッセージ履歴で祥奈と美佳の連絡先を探す。今日の約束をお昼前にしてもらえば十分に間に合う。




 …………ない、ない、ない。 慌てて何回もスクロールを繰り返す。




 祥奈のメッセージ履歴……最後は今年の3月。『高校生になっても一緒に学校に行こうね』『オッケー』のやりとりが最後、美佳にいたっては連絡先交換すらした形跡がない。


 どういうことだ……。焦る心を抑え祥奈の家に自転車を走らせた。



 高梨家、表札脇にあるインターホンを押すと祥奈の母叔母が出てくる。


「祥奈はいますか?」


「あら謙心くん、祥奈はねぇまだ寝てるのよ。本当にお寝坊さんなんだから……ねぇ」

 目頭を押さえる祥奈の母叔母。うなだれてしまう。前にも同じことがあったような記憶、病気の祥奈……。美佳と共に3人で三角関係になろうと話したのはなんだったんだ。


 目の前が真っ白になる……。何が現実で何が夢なのだろう……。


「け、謙心くん大丈夫? 顔が真っ青よ。そこまで祥奈のことを心配してくれてありがとうね。今日の夕方にでももう一度来てちょうだい」


 僕の頭をポンポンたたくと祥奈の母叔母は家の中に入って行った。

 


 空を見上げる。見ているよりも中空に目線を泳がせている状態。視点は定まらず足だけがフラフラと前へ歩む。


 ──ガシャン。


 門扉前に止めた自転車を倒してもらう。倒れた大きな音で呆けている自分を取り戻した。


 自転車を起こすと一筋の強い風が大きく弧を描いて葉っぱを運ぶ。頬に引っかかった葉が飛び立とうとした瞬間に手が伸びてキャッチする。見覚えのある葉『クチナシ』だった。


 葉柄を掴んで観察する。普段なら放ってしまうが捨てることが出来ずスマートフォンのケースに挟みこんだ。


「そうだ……那奈ちゃん」


 彼女が待っているショッピングモール、高梨家に後ろ髪を引かれるが祥奈の母叔母に夕方また来るように言われた。


 気持ちは乗らないが那奈ちゃんとの約束は果たさないと。


 自転車にまたがりペダルを漕ぎだす。自転車で20分程度の場所、流れる景色が心なしか早い。何組か同じ方向に向かうグループを追い越しショッピングモールに向かう。


 数千台置ける駐車場は満車、駐車スペースを探す数台の車の合間を通って駐輪場に向かう。歩道を歩く人々は休日だけあって家族連れが多い。

 

「この間のお店。前に那奈ちゃんとここに来たのか。うーん、覚えてないな」

 

 そういえばこの入り口で那奈ちゃんと待ち合わせしたんだよな。結局来なくって祥奈とご飯を食べたっけ……、あれ? さっき祥奈の家に行って病気で寝ているって……、夕方また来てって言われたばかりだよな。


 エビドリアとハンバーグプレート、そしてビックパフェ。記憶の糸をたぐりよせようとかすかに残る洋食店が気になってお店に向かう。


「謙心さん!」

 洋食店のディスプレイ前に立っているひとりの女性。


「那奈ちゃん!」

 ショートパンツにダボっとした白いシャツ。淡いピンクのショルダーバックを肩にかけた私服の那奈。普段とは違う印象にドキッとする。


「良かった。来てくれたんですね。来てくれなかったらどうしようかと思いました」

 嬉しそうな顔、キラキラ目を輝かせている。


 目を真っすぐ見られない。眩しい笑顔。照れを隠すようにディスプレイに目を移す。


「や……や約束だからね」

 ディスプレイに向けた目線に気づいたのか腕を引っ張っれ洋食店に連れられた。


「またここでご飯を食べましょう。ふたりで新作パフェにも挑戦したいですし」


 ディスプレイに飾られた巨大パフェ、祥奈と前にジャンボイチゴパフェに挑戦して敗退している。


 グランドメニューを笑顔で捲ってあれこれ考えている那奈。彼女の姿を見ていると実は僕が一緒にご飯を食べたのは祥奈じゃなくて那奈なんじゃないか。祥奈のことを気にするあまり錯覚を起こさせているんじゃないか。そんな気持ちになってくる。


「わたし前と同じこれにします!」

 指しているのは小ぶりな器に盛られたシンプルなドリア。何匹かエビの乗ったクリームドリア。


 前と同じ……? あのとき僕はワンプレートハンバーグを食べた。


「じゃあ、僕はこれにしようかな」

 ハンバーグプレートを指して那奈の反応を待つ。


「謙心さんも前と同じにするんですね。なんか嬉しいです。今日は頑張ってパフェに勝利しましょうね」


 この後、あんな話が飛び出すとは想像もしなかった。



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《登場人物紹介18:7月》

夢彩高校

 1B:建金たてがね 謙心けんしん

   平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。

 1B:高梨たかなし 祥奈あきな

   従妹であり幼馴染、楽器演奏得意。病気で寝たきりらしい?

   謙心、祥奈、美佳の仲良し三角関係

 1B:大林おおばやし 恭平きょうへい

   親友。中学校で仲良くなった

 1E:大林おおばやし 美佳みか

   恭平と双子の姉、祥奈の親友、植物大好き、小4まで良く遊んだ。

   謙心、美佳、祥奈の仲良し三角関係

 2A:代口しろくち 那奈代ななよ

   読書好きな先輩。歴史小説を好む?。前にご飯を食べに行ったらしい。

 1B担任:本谷もとや たけし

   読書部顧問でもある


不思議な世界

 余乃よの 三花みか

   不思議な少女、那奈代に似ている。

 かげ

   見つけた者を消滅させるらしい。


その他

 祥奈の叔母

   謙心の母の妹、名前を祥子あきこという。

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