第14話 花言葉
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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7月に入ると学校は夏休みの話題で盛り上がる。どこに行くとかバイト漬けだとかそんな話があちこちから聞こえてくる。
その前に待ち構える学生にとっての大きな壁。
──期末テスト。
中間テストの成績は平均よりちょっと下の僕に対して、祥奈はトップクラス。恭平は僕と同レベルで美佳が下の中といったところ。
「謙心くん、祥奈とせっかく付き合ったのになんで祥奈の足が治るまでにしたの?」
放課後、祥奈と美佳と3人で期末テストの勉強をして……いや、美佳と共に祥奈に勉強を教えてもらっていた。
「祥奈の足が治れば好きなことが出来るでしょ。高校も始まったばかりだし、僕に気を使ってやりたいことを抑えてしまうのも嫌だから」
テキストとノートに目線を向け、言葉だけを交わす。無言だった祥奈が口を開く。
「それで足が治るまでって言ったのね。まったく期限付きの恋人なんて聞いたことないわ。じゃあもしこのまま足が治らなかったらけっこ……いや、なんでもない……」
耳の先まで真っ赤になる祥奈。何を言おうとしたのか声が小さく聞き取れなかった。
「なんか私はお邪魔虫のような気がしてきたわ。じゃあ、祥奈の足が治って別れたら私と付き合う?」
ニヤニヤしながら鉛筆を僕に向けて中空をツンツンしてくる美佳。
「ちょっと美佳、いったい何を言い出すのよ。ほら謙心、そこで考え出さないの。今は私と付き合ってるんでしょ」
笑ってごまかすしかない。無意識に瞼を閉じて腕組みすると、美佳と付き合っているシチュエーションが頭に浮かんだ…………。ふと桜子さんの姿が割り込んで目を見開く。
「ちょっと謙心、いつまで美佳のことを考えているのよ」
慌てて言葉を返す。
「ち、違うよ。昔から知ってる祥奈と本当に付き合ってるんだなぁって……なんかまだ実感が沸かなくて。いままでと何も変わってないし」
「謙心、癖が出てるわよ、嘘ついてるときの癖が」
「なになに、まだふたりはキスもしていないの。さっさとやっちゃいなさいよ! でもロマンチックよね~、クチナシの葉を手渡して告白だなんて」
火を吹きそうな程に真っ赤になる僕と祥奈、うつむいて何も言うことができない。さらに美佳が畳みかける。
「祥奈、謙心くん。クチナシの花言葉『私は幸せ者』だとか『喜びを運ぶ』それに『夢中』なんてものもあるのよ。女性を誘う花としても有名よ。それでね──」
笑顔で話を続ける美佳。花のことが好きなようでしばらく語りは続いた……。
「でも渡されたのはクチナシの葉よ。ロマンチックとはほど遠いわ」
祥奈は分厚い本を机に置いてとあるページを開く。たたまれた新聞紙が保存袋に入れられている。
取り出して広げると、中から押し葉が出てきた。
「祥奈、これって謙心くんからもらったクチナシの葉? 大事にしてるんだね」
顔を近づけてまじまじと葉を見つめる。全縁の葉、艶がまだ残り綺麗な押し葉が完成するまでほど遠い。
「持っててくれたんだ。なんか嬉しいような恥ずかしいような……」
鼻息と共に腕組みをして頷く美佳。呆れているよう。
「ハイハイごちそうさま。そういえば学校から帰るときに大きな屋敷があるじゃない。すごいねあそこ、ホルトノキが悠々と生えてクチナシもきれいだし曼殊沙華もそろそろ咲きそうだったわ」
桜子さんの住む屋敷の植物に美佳と祥奈が盛り上がる。クチナシだって言葉しか聞いたこともない僕が話題についていけるはずもなくただただ聞いているだけだった。
「さーて勉強おしまいっ。明日からがんばるわよ」
立ち上がって大きく伸びをする美佳。大きな胸が服越しでも目立つ。つい目が追ってしまう。
「じゃあ謙心、今日の帰りはよろしくね」
テーブルに広げられた勉強道具をバッグにしまっていく。祥奈の言葉を聞いた美佳が小悪魔のような顔をして祥奈の肩を抱き頬をつつく。そのままニヤリと笑うと祥奈に抱き着いて上目遣いで僕を見上げた。
「わたしの祥奈を渡さないわ。祥奈は私だけのものよ…………」潤む美佳の目、戸惑う祥奈「なーんてやったら面白い? でもいいわね。青春って感じで、お姉さんはうらやましいぞ」
抱き着くふたりの姿を見てどう切り返していいか分からず立ちすくむ。
祥奈が落ち込まないように明るく振舞い上手くフォローしてくれる美佳は凄い。
「それにしても謙心は力持ちよね。私を軽々と2階に運ぶんだもん」
人差し指を頬に当てる祥奈。えくぼのようにできた凹みが可愛い。
「そういえばそうね、女子が運ぶときって4人がかりだったんでしょ──」
美佳の言葉を遮る祥奈、ほのかに感じる怒りのオーラ。
「ちょっと美佳、そういう言い方しないでよね。私がまるで重いみたいじゃない! 体重だってよんじゅう──」ハッとする祥奈「ゴニョゴニョきろぐらむ」
引きずる音を立てながら祥奈の隣に椅子ごと移動する美佳。祥奈の胸をマジマジと見つめて胸をツンツンする。
「これだけ立派なものをもって40キロ代って凄いわね。謙心くん良かったわねプロポーションの良い彼女が出来て」
真っ赤になる祥奈。僕もどうして良いか分からず祥奈に美佳に顔を交互に見てしまう。
「美佳、プロポーションなら美佳の方がいいでしょ。胸も大きいしバスケで引き締めた体がって……謙心の前でそんなこと言わないでよ」
両手を上下にブンブンと振る。動きに合わせてツインテールの髪もファサファサ揺れている。
「じゃあ、私が謙心くんをとっちゃおうかなぁ」
からかうように見つめてくる美佳。ニヤニヤしながら時折祥奈をチラリとみる。
このままこの話題が続くことに危機感を覚え無理やり言葉を発した。頭に何もまとまっていない口先だけの言葉。
「あ、ほらっ! なんか祥奈をおんぶしても疲れないんだよね。思ったより軽いっていうか……それに祥奈を感じられて嬉しいっていうか」
焦った心を映すように前に出した両手の平が小さく揺れる。
「ちょっと謙心! 少し考えてから発言しなさい。思ったより軽いとか、かん……(小声)じられるとか……」
冷静に考えるととんでもないことを口走っている。でもひとりで階段を背負って移動させるなんて凄いことをしているんだなぁと実感が沸いてきた。
「でも、不思議なんだよね。気合を入れるほど大変という訳でもないし、運んだ後も疲れるわけじゃないし……。いつのまにか体力がついたのかな」
袖をまくって力こぶを作ってみる。文化部の僕が作れる精一杯の力こぶは推し量れる程度であった。
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《登場人物紹介14:7月》
夢彩高校
1B:
平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。
1B:
従妹であり幼馴染、楽器演奏得意、事故で足が動かない。
1B:
親友。中学校で仲良くなった
1E:
恭平と双子の姉、祥奈の親友、植物大好き、小4まで良く遊んだ。
2A:
読書好きな先輩。歴史小説を好む
1B担任:
読書部顧問でもある
不思議な世界
不思議な少女、那奈代に似ている。
見つけた者を消滅させるらしい
その他
祥奈の
謙心の母の妹、名前を
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