第13話 告白
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「授業を始める前にみんなにお知らせがある」
ざわつく教室内。所々でヒソヒソ聞こえる声を制止するように出席簿で教壇を軽くたたく
祥奈は心なしかうなだれていた。両親からどの程度の説明を受けたか分からないが、自分のことでクラスの人間関係が変わるかもしれない気持ちに苦しんでいるようだ。
祥奈は昔からそうだった。人に迷惑をかけることが大嫌い。車いすになってから友人にかける迷惑に心を痛め、頻繁に美佳に相談していたようだ。
「今日から
ザワザワする教室内。クラスメートの視線が僕と祥奈のふたりに集まる。
「みん──」
祥奈の言葉を遮るように僕は立ち上がった。
「みんなこれまでありがとう。母さんたちがクラスメートのみんなにいつまでも迷惑をかけられないからって勝手に決めたみたいなんだ。僕たちは兄妹みたいなものなんだからサポートしてあげなさいって」
恭平がスチール椅子を膝裏で後ろに倒す勢いで立ち上がる。椅子の背もたれが後ろの机に当たり大きな音を立ててぶつかった。
「謙心がんばれよ! 困ったときは声をかけろよな、俺たちも応援するからな」
力強く拳を振り上げる恭平。それに釣られるようにクラスメートからも賛同の声があがる。女生徒からは「「いつでも言ってくれていいんだからね。私たちは卒業まで祥奈のサポートをするつもりだったんだからね」」という声が多々上がっていた。
恭平の言葉。後に美佳の差し金であったことを知った。
先生から祥奈のサポートを僕がやる発表があったら、出来るだけ派手に応援するように言ってあったようだ。いの一番に派手にポジティブな応援をすれば、ネガティブな言葉を吐く生徒は声を潜めるだろうという画策であった。
フロアの階段脇に椅子を置かせてもらい、祥奈を背負い移動先フロアの椅子に座らせて車いすを運ぶ。トイレの時は美佳にお願いする。
祥奈を背負うと必然的に胸が当たる。太ももの感触を手に、胸の感触を背中に、身近に感じる祥奈の匂いに頭がフワフワする日々だった。
「ありがとうね」
こんな言葉を日に何回も聞く。好きでやっているからいいんだよと言ってはいるがやはり申し訳ない気持ちが多量にあるようだ。当然と言えば当然かもしれない。
「祥奈、気しなくていいって。僕が好きでやってるんだから嫌がらないでやらせてくれよな」
そんな会話が繰り返された。
ある日の昼食、ふたりで屋上のフェンスに寄りかかってお昼ご飯を食べていた。本来は立ち入り禁止なのだが祥奈の精神面が不安な時だけ利用許可をもらっている。
「まったくそんなことを言って、お母さんたちに頼まれたなんて嘘でしょ。謙心から聞いた時に癖が出ていたわよ」
握ったペットボトルがスルリと落ちる。地面に落ちたペットボトルは僅かに跳ねかえり中に入ったお茶をまき散らしながら倒れる。無意識にキャッチしようと動いた祥奈がバランスを崩して僕にもたれかかった。
祥奈を濡らさないように慌ててお茶を拾い上げて、祥奈をフェンスに座らせると僕はうつむいて目線を下げ考えこむ。
「僕にそんな癖があったんだ……全然気づかなかったよ。どんな癖なの?」
頬を触ったり耳を引っ張ったり目線を動かしたり挙動不審状態になる。
「ダメよ、教えないわ。これは私だけの秘密よ」
クスリと笑う祥奈、目線が自然に空へとゆっくり動く。物思いにふけた顔。
「それじゃあ僕は祥奈に嘘がつけないな」
温かい風が吹き抜ける。夏を感じさせる暖かい風。祥奈のツインテールがなびくように揺れている。
「ねえ謙心。私、高校を辞めようかなぁ。謙心に迷惑をかけてクラスのみんなにまで……先生たちにまで迷惑かけちゃって」
必死に涙をこらえている。一枚の葉が大きく弧を描いて頬に引っかかり涙を拭うように飛んでいく。
「なに言ってるんだよ、僕は迷惑だなんてまったく思ってないよ。むしろ嬉しいくらいだよ。モテない僕が女の子に密着出来るんだからね、祥奈が治ったら二度とそんなことないかもしれないじゃないか」
立ち上がって大きな声で笑う。言った後にものすごい恥ずかしさに襲われた。いくら元気づけるとはいえ密着って──
僕の真意に気づいたのか胸を隠すように両手をクロスする祥奈。うつむいて頬を赤らめる。
「もう……エッチなんだから。でも元気づけようと無理しているのは分かるわ。謙心の顔、真っ赤だし。でもね、いつまでも私が独占するわけにもいかないからね。何人かに聞かれたのよ? 謙心と付き合ってるのかって」
ニヤニヤしながらつついてくる祥奈。
「祥奈のサポートをしている部分だけを切り取って優しいと思う人がいるみたいだね。僕も祥奈と付き合ってるの? って何回か聞かれたよ」
『さぁ』のポーズをして肩をあげる。タイミング良く風に運ばれたクチナシの葉が手のひらに舞い降りた。
「それでもいいじゃない。付き合ってみないと分からないことってあるでしょ。私のことは気にしないで気に入った人がいたら付き合ってみたらいいと思うよ」
うつむく祥奈。胸の前でこぶしを握りしめている。僕は手に持っているクチナシの葉を彼女に手渡した。
「僕は祥奈だから頑張れてるんだ。遠慮があるなら僕と付き合って恋人になって欲しい。祥奈の足が治るまででいい、それまで彼女として僕の隣にいてくれないか。足が治ったらその時にまた考えよう」
受け取ったクチナシの葉柄を握って見つめる祥奈。
「それは本心? なんか付き合いたくないから女除けに私を利用しているようにも聞こえるんだけど。だって私たち兄妹みたいなものじゃない」
頬を膨らます。クチナシの葉柄を握ったまま両手を上下に動かしてぷんぷん怒っている。
「いや、そんなつもりはないよ。僕は前から祥奈のことが好きだから。こんなときじゃないとモテモテの祥奈と付き合うチャンスは無いからね」
誇らしかった。穏やかな
「今のわたしで本当にいいの? 出来ることは少ないよ。お出かけデートだって……」
うなだれて肩を落とす祥奈。目線がふらふらと定まらない。
「僕は祥奈を好きになったんだ。祥奈の体を好きになったわけじゃないよ。まあ出かけられないなら出かけられないでいいよ。気持ちの問題だからね」
立ち上がって車いすの準備をする。そろそろお昼休みも終わる時間。祥奈を車いすに移乗する。
「ちょっと変なこと言わないでよ。か、体なんて」思い出して真っ赤になる「でもありがとうね。今でも私に連絡をくれるのは謙心と美佳くらいよ」
体への負担を極力減らすために密着して抱えるように車いすへ移乗する。告白したばかりという心理がお互いを意識させる中、目と目が合った。
お互いの脳が麻痺する。ゆっくりと近づく唇と唇──
キーンコーンカーンコーン
予鈴に驚き冷静さを取り戻すふたり。真っ赤になりながらもアタフタ教室に戻った。
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《登場人物紹介13:7月》
夢彩高校
1B:
平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。
1B:
従妹であり幼馴染、楽器演奏得意、事故で足が動かない。
1B:
親友。中学校で仲良くなった
1E:
恭平と双子の姉、祥奈の親友。小4まで良く遊んだ
2A:
読書好きな先輩。歴史小説を好む
1B担任:
読書部顧問でもある
不思議な世界
不思議な少女、那奈代に似ている。
見つけた者を消滅させるらしい
その他
祥奈の
謙心の母の妹、名前を
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