第12話 みんなの本心
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「えっとね、祥奈の悪口を言っているのを聞いたの。どうしたらいいか分からなくって」
テーブルを叩いて身を乗り出す。ドンと大きな音と共にカップが揺れコースターの上で小さく跳ねる。陶器同士がぶつかる音を響かせ僅かなコーヒーがカップを跳びだしテーブルを濡らす。
「なんだって……! いったいなんで祥奈が」
美佳が慌てて備え付けのペーパーナプキンに手を伸ばすと、興奮しすぎたことに気づいて一緒にコーヒーを拭き取る。
落ち着くように促され、コーヒーを一口、喉に流し込む。不安な心が冷水にもちょこちょこと手を伸ばさせる。美佳はタブレットで新しいコーヒーとサンドイッチのセットを注文した。
「ほら、新しいの頼んだから。少しはお腹にも何か入れなさい」
ニコリとする美佳の笑顔に心が落ち着く。
「ありがとう。なんで祥奈が……、誰だって悪口を言われることはあるだろうけど、個室まで予約したくらいだからよっぽどなんだよね」
受け取りBOXの明かりが点灯する。美佳は扉を開けるとコーヒーとサンドイッチを取り出して僕の前に置いた。
「まあ食べなさい」
僕がサンドイッチを食べ始めるのを見ると美佳が語り始めた。
「この間ね、トイレに入っていた時に聞いちゃったのよ。祥奈のサポートが面倒だって……クラス中に声をかけて無視しようかってね。言葉はもう少し悪かったけど」
沈黙──
頭が混乱する。クラスの女子が一丸となって祥奈のサポートをすることでまとまっていた。祥奈はお礼を言い笑顔を向けることで感謝の気持ちを伝えた。
「そうか……」
パンの間に挟まったハムやレタスがテーブルにポロポロと落ちる。支えを失ったパンも具材を追うようにテーブルに転がった。
慌ててテーブルに散らばったサンドイッチを重ねて拾い上げるとペーパーナプキンに包んでお皿に乗せた。
「思ったより冷静ね。これまでの言動を見るともっと興奮するかと思ってたのに」
ティースプーンを拾い上げると意味もなくコーヒーをかき混ぜる美佳。
「ああ、無視はやり過ぎだけど気持ちは分からないでもないからね。僕も毎日祥奈の家に行って足を撫でている。足を治したい一心で……祥奈が元気になる事が僕の目標だからね。でも……クラスのみんなは何かに向かっているわけじゃない。休み時間を削って自分の時間を削って毎日毎日大変なのは理解できるよ」
「謙心くん大人ね。これからは休み時間の度に私が行って祥奈をサポートしてあげようかしら」
残ったコーヒーを一気に喉に流し込む美佳。無意識に砂糖を多く入れていたのか「あっまー」と声が漏れる。
「あ、美佳ちゃんはこのまま祥奈の話を聞いてもらっていいかな。精神的なサポートは女同士の方がいいと思うんだ。肉体的なサポートは僕がやるから……あんまりひとりで抱え込むと潰れちゃうからね──」タブレットを取るとコーラを2本注文する「──……疲れたときは炭酸を一気に飲むとスカッとするよ」
笑顔で美佳を見つめる。少し不安を解消させることができたのか僅かに笑顔が見れた。
「肉体的ってなんかエッチね。分かったは祥奈の話なら何でも聞いて助けてあげるくらいの気持ちでいくわよ」
美佳のこぶしが目線と共に上に挙がっていく。「よしっ」とこぶしとともに気合をいれた。
「まあ、話しを聞くだけじゃなくって友達として接した方が喜ぶと思うよ」
美佳のおかげなのか随分と冷静に物事を聞けていた。
「なんか謙心くん凄いね。祥奈のこと分かってるって感じがするよ」
「ははは、幼馴染だからね……腐れ縁かな。ずっと見てきたからね、年の同じ兄弟みたいなもんだよ」
頭を掻きながら照れ隠しをする。僕の目をずっと見つめる美佳に心の中を見透かされているようだった。
* * *
高梨家。門扉を抜けて家に入る。上がり框の段差はスロープが作られ車いすでの出入りが出来るように改修してある。もともと2階にあった祥奈の部屋は1階の和室に移動していた。
「こんにちはー」
いつものように祥奈の寝室で脚に刺激を与える。祥奈と雑談をしたり今日の出来事を話したり僕にとって楽しみの時間になっていた。
普段なら15分くらいさすって家に帰るが、今日は
「
ソファーに座る。窪みにあるピアノを見ると和奏の演奏が思い返される。あんな楽しい時間をまた過ごせたらと考える。
「謙心くんどうしたの? 改まって。 ……もしかしてもう来たくないっていうんじゃないわよね」
歩み寄って肩に手をのせ、僕の手を握って悲しそうな表情を浮かべる
「いえ、僕は祥奈の状態が良くなるつもりです。今日はお願いがあって時間をとってもらいました」
悲しそうな顔が一転、笑顔になって対面のソファーに座る
「ええ、謙心くんのお願いなら何でも聞くわよ」
「実は……明日から学校での祥奈のサポートを僕に任せてもらえないでしょうか」
びっくりする
「えっ、今は祥奈のクラスメートが手伝ってくれているんじゃないの?」
僕はことの顛末を説明した。このままクラスメートに任せっぱなしにすると祥奈がハブられてしまう可能性があること、その話しをしているのを大林美佳が聞いたこと。祥奈が気を使いすぎて疲れてしまうんではないかということ。
「それなら僕が祥奈の母からサポートを頼まれたということで宣言すれば友人たちも嫌な思いをしなくなると思うんです。今まで彼女たちなりに自らサポートしてくれたことは事実ですからね」
大きく身振り手振りを交えて説明した。必死な顔をしていただろう。
「そうね。謙心くんの言うとおりね。わたしはいつのまにかやってもらうのが当たり前のようになっていたのね」
「先生にそのことを依頼してもらえないでしょうか。僕から先生に言うよりもいいと思う。親同士の付き合いで決めて仕方なく僕がやるという形にした方がみんなにとっていい結果になると思います」
「分かったわ。
「やっぱり祥奈は元気じゃなくっちゃね。早く良くなれば毎日僕と顔を合わせなくて済むでしょ」
頭を掻いて笑いながら立ち上がると帰り支度を始める。挨拶をするとリビングを出た。
「……謙心くん。良かったら祥奈と…………今の祥奈じゃこんなことは言えないわね」
「え、
振り返って
「いえ、明日からも祥奈のことをよろしくね」
「もちろんです」
力いっぱい答えた。
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《登場人物紹介11:6月》
夢彩高校
1B:
平凡な高校生、読書部、夢の記憶に悩んでいる。
1B:
従妹であり幼馴染、元気?病気? 楽器演奏得意
1B:
親友。中学校で仲良くなった
1E:
恭平と双子、祥奈の親友。小4まは良く遊んだ
2A:
読書好きな先輩。歴史? 不思議系?
1B担任:
読書部顧問でもある
不思議な世界
不思議な少女、那奈代に似ている。
見つけた者を消滅させるらしい
その他
祥奈の
謙心の母の妹、名前を
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