第9話 市立中央医療センター
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「わたしね、もしかしたらもう歩けないかもしれないって」
力強い声。言葉を聞いた瞬間、頭の理解を驚きが上回って言葉をだそうとしても音が出てこない。口だけがパクパクと動くだけだった。
「何言ってるんだよ祥奈。元気そうじゃないか……どこも悪くないように見えるけど」
ベッド柵に手をかけて立ち上がりながらゆっくりと声をかけた。揺れ動く心が声に反映するように震えている。信じたくない事実とこの状況でうそを言うわけないという心がせめぎ合っている。
「わたしね、下半身の感覚が全くないの。上半身は動くんだけど足だけは全く動かせないの」
涙でかすむ声になる祥奈。布団を持ち上げて顔を覆った。
僕はどんな言葉を投げかけてよいのかわからない。何を言っても祥奈の心には響かない気がする。
静かな空気が流れる。祥奈は鼻から上だけ顔をのぞかせた。
「ごめんね謙心。折角来てくれたのに嫌な思いをさせちゃって。どうしても心の整理がつかなくてさ」
自分のことで大変な祥奈に気を使わせてしまったことを反省した。しかし何と言って声をかけたらいいか分からない。祥奈の顔に落とした目線を足の方へ動かす。
布団を引くと足先が徐々に現れる。膝あたりまで布団を引いた。
「あのね、お医者さんやお母さんが触っても何も感じないの。痛みも温度も何も……」
右手で祥奈の脛に手を置いた。ゆっくりと祥奈の足を撫でる。何も変わらないキレイな足、柔らかく温かい足。動かないなんて信じられない。
「ねえ謙心。何をしたの?」
驚きの表情を見せる祥奈。いきなり女性の足を触るなんて申し訳ないことをしたという心が勢いよく手を引かせ、実際に触って祥奈の足に感覚がないという実感が涙を表出させた。
「ごめん、いきなり触って」
触った右手に目を落としてそのままお詫びする。
「違うの、謙心が撫でてくれたとき温かかったの。触られた感覚が少しだけどあったの」
祥奈は慌ててナースコールを掴んでボタンを押し込む。ほどなくすると看護師と共に
「お母さん、感覚が……謙心が私の足に触ったら温もりと感触を感じたの」
驚きの表情を見せる
「お母さん、何も感じない……。さっきのはなんだったんだろう」
うつむいてシーツを握りしめる祥奈。溢れた涙が目じりから耳の方へ流れていく。
指先を祥奈の腿に触れるとピクリと反応する。そのまま手の平を置いて足先へと向かって撫でるように下ろしていく。
「やっぱり感じる……僅かだけど謙心の指の感触、ほんのりとした温かみを……」
病室の中に医師を連れて入ってくる看護師。
医師の指示によって試した結果、祥奈の足に僕が触ったときだけ感覚があることが分かった。
* * *
「謙心くん、お願いね。お願いだから祥奈のところにきてあげてね」
上目遣いですがるように声をかける
医師から皮膚感覚を受け続けることで、神経が活性化して下半身の動きを改善する可能性を告げられていた。
電車の中で色々と考える。揺れる電車が心地よく自分の世界を創り上げる。祥奈のことや僕がこれから出来ることに頭を巡らせていた。
ブッゥ、ブッゥ、ブッゥ
尻ポケットに入れたスマートフォンが座面とお尻を小刻みに揺らしてメッセージを受信したことを知らせる。
取り出したスマートフォンの電源を入れて画面を見ると、ドコネを通じて祥奈からメッセージを受信していた。
[祥奈] 今日はありがとうね。お母さんに毎日来てって頼まれてたでしょ。無理しなくていいんだからね。
受信したメッセージを見て気を使ってくれているのが分かった。メッセージを打つ祥奈はどんな気持ちだろう……治る可能性があるのに……スマートフォンを持つ手が震える。何度も隣のキーを押して打ち直しするほど心が揺れている。
[謙心] 何言ってるんだよ。祥奈には早く良くなって元気な本気ピアノを聴かせて欲しいからな。
[祥奈] 明日からリハビリだって。車いすの生活になっちゃうけど謙心にまたピアノを聴いてもらえるようにがんばるよ。
[謙心] 楽しみにしているよ。祥奈に僕が必要なくなるまではがんばるね
[祥奈] 何言ってるのよ。感情のままにそんなこと言わないの。あんまり私にかかわると重荷になっちゃうわよ。早く謙心も彼女を見つけなさい (笑顔の顔文字)
[謙心] 前に行ってたじゃないか。祥奈に彼氏が出来るまで僕の面倒を見てくれるって。
何回かメッセージをやり取りしていると駅に到着する。電車を降りると朝から何も食べていないことに気づき駅前ロータリーに建つマックリアに寄ってハンバーガーを注文した。
3階のイートインスペースの窓際に向かって設置されているカウンター席に座って外を眺めながら食べ始める。
駅を行きかう電車や寂れつつある駅ビルに向かって歩く人、バスを待つ人々など様々。
ハンバーガーが包まれているボックスを開いて端を剥がして包みを広げる。
バーガーに挟まれているレタスが行き場を失って包みの上にパラパラと落ちた。
両手で2段に重ねられたバーガーを持って一口かじると中からソースがじわっと溢れ出す。
包みの上に広がっているレタスを拾い上げてソースにつけて食べる。すかさずポテトを口の中に放り込んですべてが入り混じった味を堪能する。そして仕上げにウーロン茶をすすって口の中をリセットすると、再度バーガーをかじるのだ。
「
両手でトレーを持った女の子が声をかけてきた。喫茶店で頼んだようなキレイなカフェオレ色に染められたらナチュラルボブの女の子。彼女は僕の横にトレーを置くと、そのまま隣の席に座った。
「えっと……どちらさまでしたっけ」
彼女に心当たりは無かった。どこかで見たことあるような女性だが思い出せない。頭をひねって考えていると彼女はクスリと笑った。
「酷いわね覚えていないなんて。
彼女の名前を聞いて頭の
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《登場人物紹介9:5月》
夢彩高校
1B:
1B:
1B:
2A:
1B担任:
不思議な世界
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