第6話 デート?!
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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11時まで待ったが彼女が来ることはなかった。
那奈ちゃんに何かあったんじゃないか。スマートフォンを取り出してドコネを開く。図書室で交換した連絡先にメッセージを送ろうとしたが……。
「那奈ちゃんの連絡先が無い……」
スクロールして1件1件連絡先を探す。一番下まで来ると上に戻して再び連絡先を探す。何回繰り返しても見つからない。
壁に貼られたポスターを背に寄りかかって腕組みする。間違えて消してしまった? ……いや、そんなはずは。いくら考えても答えなんて出てくるわけないのに一生懸命考えてしまう。
「けーんしんっ!」
振り返った瞬間に時間が失われた。寄りかかった壁から滑り落ちて尻もちをつく。目の前はブラックアウト、体中の神経という神経が停止する。
「謙心、どうしたのよ幽霊でも見たような顔をして」
表情は自分でも想像できないくらい驚嘆……いやそれ以上だろう。声の主は病気で学校を休んでいるはずの祥奈だったから。
「あ……祥奈……、病気は治ったのかい」
精いっぱいだせる声。
気にすることなく祥奈は僕の手をとり腰を支えて起き上がらせてくれる。
「一体どうしちゃったの? 私はずっと元気よ。昨日だって一緒に学校に行ったじゃない……夢でもみたんじゃない?」
カラカラと笑う祥奈。夢の続きか?……そんな思考が頭を巡った。
顔を左右に振って正常な意識を取り戻す。約束したはずの那奈が来なかったこと、那奈の連絡先が消えていた事実が夢である認識を助ける。
「ごめん、夢と現実の区別がつかなくなっちゃったのかな。祥奈が病気でずっと休んでいた夢を見たから驚いちゃってね」
僕の右手を掴む祥奈。柔らかな感触、ほのかな温もりが心を安堵させる。
「じゃあしっかり目を覚まさなくっちゃね。謙心、ご飯食べに行くわよ」
手を引かれるままおレストラン街へ向かう。多くの利用客で賑わう食品街を抜け、輸入食品や雑貨屋、花屋に薬局などの脇を通り抜けた先。
お昼前のレストラン街、店舗外に置かれた椅子に座って待つ人がいる程に混雑している。
その中にある1軒のお店。ドリアやステーキ、ハンバーグなどを中心とした洋食メニューを取り揃え、ビックパフェやデニッシュ生地にアイスや生クリームを乗せて温かいジャムソースをかけたデザート。他にも色々と取り揃えているメニュー豊富な店の列に並んだ。
「謙心、良かったわ。わたしねここで新商品のビックパフェを食べたかったの。友だちの前で食べるのも恥ずかしいし、謙心に分けてもらったことにすれば恥ずかしくないでしょ」
祥奈は人差し指を自分の口にあてて内緒ポーズをとるとウィンクする。更に話し続ける。
「それにしてもラッキーだったわぁ。ちょっと楽器屋さんに行こうと思ってたのよ。暇だったら付き合ってよね。もしかして謙心は待ち合わせだった? すっぽかされたとか」
人差し指で前後についてくる祥奈。ニヤニヤしている。病気だと思って心配していた祥奈の元気な姿が嬉しい。那奈はきっと何かあったのだろう、今度学校で聞いてみることにして今は祥奈との行動を楽しむことにしよう。
「何言ってるんだよ。僕が女の子にモテるわけないでだろ。こんな僕に付き合ってくれるのは祥奈くらいだよ。祥奈が従妹じゃなかったら女の子とこうしてご飯を食べる事なんて無いんだろうな」
グランドメニューを捲りながらおちゃらける。
「もしかしたら私がいるから謙心に想いを寄せる女の子が声をかけられないのかもしれないわよ。あ、わたしパフェ食べるから軽めのドリアにするね」
少し小ぶりな器に盛られたシンプルなドリアを指さしている。何匹かエビの乗ったクリームドリア。
「僕は祥奈と一緒に居た方が気楽でいいからな。勉強が出来るわけじゃないし運動もそんなに得意なわけじゃないからな……。まあ祥奈に彼氏が出来るまで付き合ってくれや。あ、僕はこのワンプレートハンバーグにするよ」
メニューを閉じるとテーブルの脇にある仕切に立てかけてオーダーコールを押した。
「わたしが彼氏を……謙心は……まあいいわ。しょうがないなぁ、それまで私が謙心の面倒を見てあげよう。で、今日は何をしにここに来たの?」
心なしか怒っている気がする。長年、近くでお互いをみてきたおかげで何となく考えていることが分かる。
祥奈はスマートフォンを取り出すと何かを調べ始めた。
「ちょっとね、暇だったからブラブラしようと思ってたんだ。なんか最近変な夢ばかり見るような気がして」
肘をついて右手でつまむように額を乗せる。スマートフォンで調べものが終わった祥奈が画面をこちらに向けてニコリと笑う。
「見て見てー。この動画作ったのー。今度、謙心の心を明るくするピアノ生演奏をしてあげよう」
動画投稿サイトに投稿されている動画。顔は映っていないが、数種類の楽器をひとりが演奏し合成した動画。
「僕は祥奈の演奏が大好きだよ。何より楽しそうに演奏する祥奈を見ていると元気をもらえるからね。表情が映ってないから魅力は半減かな……まあ僕は想像できるからね。そういえば一番得意なのはピアノじゃなかったっけ」
僅かに頬を赤らめる祥奈。動画を見ている最中にドリアとプレートハンバーグが運ばれてきた。
「ピアノはね、頼まれたときしか人前でひかないの。特に本気ピアノは信頼できる人の前でしかひきたくないの。だから……表情の暗い謙心に本気ピアノを聴かせてあげよう」
右手でスプーンを拾い上げると、ドリアを食べ始めた。熱々のドリアから
「じゃあ僕に本気ピアノを見せてくれていたのは信頼されてたんだね。なんか嬉しいなぁ……学校でピアノ演奏をしているときと違うよね」
ナイフとフォークでハンバーグを切り分けていく。切った場所から滝のように流れ出る肉汁が食欲を掻き立てる。
「そうよ、頼まれた時は正確さを追及しているの。本気ピアノはね、正確さより感情よ。聴いてもらう人に私の心を感じてもらう勢いで弾いているわ」
切り分けたハンバーグにフォークを刺して口に運ぶ、続いてポテト……ブロッコリーへと続く。
「確かに祥奈のピアノは心を揺さぶられるよ。音楽とか良く分からないけど一生懸命に心を伝えようとする想いと、楽しそうな演奏を見ているだけで元気になれるからね」
ドリアを平らげた祥奈はパフェを注文するためオーダーコールを押す。
「それを感じてくれるだけで嬉しいわ、やっぱり私の心の声を演奏に乗せてるんだもん、私からのメッセージを受け取って欲しいわ。いつかきっと私が」店員がオーダーを取りに来る「春のイチゴジャンボパフェをひとつ。スプーンは2本お願いします」オーダーをとった店員がテーブルを離れる「私がいつも送っているメッセージをいつかは受け取ってね」
コップに注がれた水を一気に喉へ流し込んだ。冷たい水が食道を洗い流すように胃へと到達する。ジャンボパフェの隙間を空けるようにさりげなく胃を動かした。
「メッセージ? 僕の心を癒してくれる祥奈の優しさは感じるよ」
直径15センチ、高さ30センチ程のパフェグラスに盛られたイチゴジャンボパフェが運ばれてくる。こんなの食べきれるイメージが全くわかない。
「まあ、それを感じてくれればいいわ。あっ、その顔、ジャンボパフェに少しひいてるでしょ。別腹よ別腹……。でも食べきれなかったら謙心お願いね。残したらお店の人に悪いから」
祥奈はクスリと笑った。
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《登場人物紹介:6》
夢彩高校
1B:
1B:
1B:
2A:
1B担任:
不思議な世界
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