第2話 違和感
下部に簡単な登場人物紹介があります。参考にして下さい。
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「さぁ。委員会の仕事を済ませるかー」
僕の所属する読書部は図書委員も兼ねており、昼休みと放課後に部員が交代で図書室の貸し借り手続きを任せられている。
最初は面倒だったが、金曜日の放課後だけだし適当に本を読みながら時間を潰せるので楽なもの。
「みんなどんな本を借りてるのかなー」
貸与履歴を眺めてどんな本を借りているのか見るのは楽しい。人の好みや好きなジャンルが分かり、つまみ食いしたのかな。好みが変わったのかなと頭の中で妄想ストーリーを作ってしまう。
貸与履歴で好みを知り、趣味が同じだったことで仲良くなった女子がいた。
同級生だと勘違いして那奈ちゃんと呼んでいたら、1年先輩だと知って謝ったが、そのままが良いと那奈ちゃんと呼んでいる。
僕は歴史系が好きだが不思議系を中心につまみ食いする。那奈ちゃんはほぼ歴史系。嗜好が同じだと話題が尽きることはない。
同じ中学校だったらしいが、彼女のことを知らなかった。
「謙心さん、これお願いします」
那奈が3冊の本を両手に持ってカウンターに置く。いつもなら歴史系だが全てが不思議系の本。
「那奈ちゃん珍しいね。不思議系の本を読むなんて」
本に貼られたバーコードをハンディースキャナで読み込む。
「何言ってるんですか。わたしは昔っから不思議系好きですよ」
驚きつつ貸与履歴に視線を動かすと不思議系のタイトルがずらりと並ぶ。軽い混乱が思考を停止させる。
「謙心さん、大丈夫ですか?」
那奈の声に意識が引き戻される。動揺する心を隠すように震える手を抑え手続きする。
「ごめん、ちょっと考え事しちゃって……。じゃあ、貸与期間はいつも通り一週間ね」
本を袋に入れて彼女に渡す。那奈はニコニコしながら袋をバックにしまう。
「ありがとうございます。謙心さん、今度ゆっくり本の話しでもしましょうね」
那奈は頬を赤らめると、バックを抱えてそさくさと図書室を出ていった。
混乱する頭を掌底で何度か叩いて違和感を頭から追い出す。違和感を忘れようとさっきまで読んでいた本に目を落とした。
「柿……柿……白……白」
人差し指でなぞりながら文字を探していく。読んでいるのは夢占いの本。不思議な夢を見たことは覚えているが内容は覚えていない。残っているのは白い柿のことだけ。
「あった」
──柿:これまでの努力が大きな成果となって返ってくる
そして
──白:健康志向の高まり。少し休みましょう
「なんだこれ」
背もたれに上体の全体重をあずけ、両手を頭の後ろで組んで天井を見上げる。良く分からない結果に夢の記憶を一生懸命に探る。
気付くと壁に備え付けられたスピーカーから終業の音楽が流れ、図書館で本を読んでいる人がいそいそと帰り始める。
「よし、今日の仕事は終わり。祥奈の家に行かなくちゃ」
* * *
祥奈の家は屋敷から自宅に向かう途中にある道をちょこっと入った一軒家。僕の部屋から直線距離で150メートル程離れ、畑越しに建物が見える。
『高梨』と刻まれた表札の脇にあるインターホンを鳴らすと祥奈の母が出てきた。
「あら謙心くんいらっしゃい。ごめんね、祥奈は寝ているの」
祥奈の部屋の方をチラッと見ると申し訳なさそうな顔になる
「預かってきたプリントを持ってきただけだから。祥奈は落ち着いているの?」
プリントを取り出して
「大丈夫よ。いつもありがとうね」風呂敷に包まれた箱を手渡される「それ、
「オッケー。それじゃあまた来ます。祥奈によろしく言っておいてください」
祥奈の家を出ると、何も育てられていない畑を突っ切って自宅に帰った。
* * *
1週間ほど経つが祥奈はずっと学校を休んでいる。
「
同じクラスの友人、中学時代の同級生でもある
「は? 謙心、最近おかしくないか? なんか違うんだよなぁ……」
首を傾(かし)げながら握り拳から親指を立てて顎に当てる恭平。
「そうか? いつも通りだと思うんだけど」
「なんだろう……なんか良く分からないんだけどなんか違うんだよ。それとな、祥奈さんは一度も高校に来てないだろ。なんかの病気だって聞いたけど、それは
祥奈が一度も高校に来ていない? 僕が祥奈と学校に通っていたのは夢なのか……でも確かに祥奈に背中を叩かれた記憶はあるし、クルリと回る仕草にときめいたこともある。
「おい、大丈夫か謙心。ずいぶんと青い顔をしているけど」
恭平の言葉が意識を現実に引き戻す。慌てて頭を掻いて誤魔化す。
「え、あ。すまん。昨日、祥奈と遊んでた時の夢をみてな。最近、会ってないから混乱しちまったよ」
椅子に座って腕組みをする恭平。
「そうだよな。謙心と祥奈さんは小中と仲が良かったよなー。従妹のくせに恋人同士のようにいつも一緒にいて」
ここは僕の記憶と一緒だ。高校から学校に来ていない……とりあえず帰りにもう一度祥奈の家に行ってみよう。
授業が終わると図書室に向かう。週に1度の図書室当番の日、カウンターに座って本を読みながらいつも通り仕事をこなしていく。
「謙心さん、これお願いします」
いつも通り那奈が本を持ってくる。レンタル履歴で見たが必ず金曜日の放課後に3冊ずつ借りていたが今日は1冊。
「那奈ちゃん1冊だけなんて珍しいね」
本に貼られたバーコードをスキャナーで読み込む。身を乗り出す那奈。
「謙心さん、
緊張しているのが分かる。同じ趣味を共有する友達として本のことでゆっくり話しが出来るのは楽しいけど……学校の……生徒たちの目がある。
「僕は良いけど、ほかの生徒に見られたら那奈ちゃんが困るんじゃない」
「大丈夫です。謙心さんが良ければお願いします」
素早く手の平を左右に振る那奈。普段より高い声。
「じゃあ明日10時に待ち合わせしよう」
メッセージのやりとりが出来るドコネでフレンド登録をする。
近所にはショッピングモールが2つ、自転車で5分の場所にある100店舗程のテナントが入ったお店と、自転車で20分の場所にあるテナントが300店舗程入ったお店。
後者にある本屋は、品ぞろえが凄まじく本好きにとっては天国。もちろん待ち合わせはこちらである。
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みなさまは色々な小説をお読みかと思います。再開時に名前とキャラが一致しない可能性があるので参考にして下さい。
《登場人物紹介2:4月》
夢彩高校
1B:
1B:
1B:
2A:
1B担任:
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