2-8 追憶1

「なんだって? 侵入者?」

「へえ、まちげえねえです」


 そんな会話が、まず聞こえた。目の前に広がる風景は……謁見の間? 赤いカーペットが足下からずっと流れるように向こうまで延び、自分は立派な玉座に座っている。


 おそらく、いいやこれは絶対に夢だ。なぜなら今目の前にいる男は、現代社会にいるはずのない姿をしているからだ。


 倒れてきたら押しつぶされそうな大きな体を、ちゃんと黒いローブが包んでいる。全体的にスライムのようなぶよっとした肉体だから、簀巻きにでもされているみたいだ。頭もこれまたぶよっと丸まった形をしているが、ちゃんと人の表情をしている。しかし左右に伸びる管のようなものは、およそ異形と呼べるものだろう。耳の器官の役割をしているのか、先端は人の耳のような形をしており、くねくねとダンスするように動いている。


 この異形の者は間違いない。序列6位のリリムールだ。


 やがて思い出す。ああ、この場面は、まさしく勇者たちが侵入してきた時の一コマだ。


 ……これが夢なのは間違いないが、なぜ今さらこんな場面を思い出すのか。


「侵入者は四人です。あの勇者とかいうやつと、その仲間でしょうかね」

「今は会談中だろ。どうして喧嘩をふっかけてくるようなマネをするんだ」

「……やはりザルザの悪い予感は的中しましたかね」

「ふむ。だがそれを目一杯に汲んで、周辺の見張りは厳重にしたはずだが」

「どうやって抜けたんでしょうかね。カーリンやザルザ、他の砦もその辺抜け目ねえですし」


 体躯には似合わない短い腕をもじもじと動かす。


「だが侵入してきたのは現実に起こっていることだ。四人というのは、本当か?」

「本当ですぁ。城の警備が薄れているとは言え、なんとも無謀だ。いかがいたしやしょう?」


 肘掛けに手を掛け言った。


「話し合う」

「はあ?」

「軍ならまだしも、たった四人だ。どれ、真意でも聞こうじゃないか」

「いや、燎王様なら負けるはずはないと信じておりやす。しかし何やら不気味でねえ。何の策もなしに突っ込むとも思えませんし」

「そこらへんも含めて聞こうじゃないか。だが、仕掛けくらいは発動させた方がいいな。せめて二組に分裂させるような……」

「それくらいならもうやりやした」

「さすが仕事が速い。次は……お前の『トーポギス』を借りたい」

「どこのです?」

「この部屋の前のホール」

「わかりました」


 管のようなものをうねうねと動かし、ぴたりと頭上で合わせた。やがてぶつぶつと長く呟くと、


「完了です。ひとまずジアルード様に権利を譲渡した形になりやす」

「ありがとう」

「……三つの砦に置いても使えるのであれば、今の状況もわかるんですがねえ」

「距離が遠すぎるからな。魔術の発展を今願っても仕方がない。お前はいつもの場所で待機していてくれ」

「くれぐれも気をつけてくだせえ。俺やシャクシャハリもいるんでね」


 そう言ってどでかい図体をゆったりと動かし、横の扉から出て行った。

 ここでトーポギス――音や映像を受信するコウモリ――と感覚を繋げる。

 ふむ。視界はクリア。待機させてある場所は、ちょうど真上の窓に位置するところだから見やすい。会話も拾えるだろう。

 ひとしきり確認したところで、折良く四人が入ってきた。

 様々なやり取りがあった後、勇者とかいうやつと、姫様が残った。

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