一章 海の姫 その4

 パン!

 冒険から戻ったルシアをスーアは思いっきり家の前でビンタした。

「お前、あっしがなんで今叩いたかわかるかい?」

 スーアは怒りながら、ルシアに問いかけた。

「やるなと言ったことをやって、嘘をついて、探してくれたみんなに迷惑を掛けたから?」

 ルシアはそう応答すると、スーアは深くため息をした。

「あんたはあいつと違って賢いね。まあほとんどあっしが育てたんだから当然か。だがその答えじゃ30点さね。」

「50点中?」

「100点中だよ! あっしは甘くないよ!」

 そう言いながら、スーアは優しくコツンとルシアの小さなおでこを叩いた。

「本来ならお前がどうなろうが知ったこっちゃない。だけどお前はあっしにとって……。」

「何―? スーアママ、何―?」

「あ、あっしは甘くないと言ったはずだよ! ……無事で何よりだ。晩飯の支度手伝いな。」

 スーアがそう言うと、二人は部屋に入って支度をした。ルシアが海藻をとウニをまとめていると、マグロをさばいていたスーアはルシアに話しかけた。

「そういやルシア、お前あっしに叩かれる前にデボレ様にお会いしたって言ってなかったかい?」

「あ、うんうん。私を野蛮な海賊たちの手から一瞬で助けてくれたの。親が心配しているから先に帰りなさいって私を急かして本人は瞑想をしていた。もう会えないのかな〜。」

 ルシアが素直に答えるとスーアは食材を見ながら考え事をした。

(ようやくお帰りか…。あなた様の帰還は何をもたらすのかね?)

「神々の中では珍しく、フォーマルで民愛家なデボレ様のことだ。国中を廻っては子供たちに旅の面白い話をするんだろうね。あんたもまた会えると思うよ。」

 スーアはそう元気づけると、ルシアは一瞬目を輝かせたが、すぐに思ったことを言葉にした。

「あ、だけど私がフォーンのお話をしたらデボレ様何も反応がなかったの。何でだと思うー?」

「……大人は子供のためを思って話さない世界の真実がたくさんあるんだ。あんたも守る立場になれば理解できるさ。」

スーアはそう言いながら何かを悟ったらしく、一粒の涙を流した。それに気づかずにルシアはまた質問をした。

「じゃあ吸血鬼ってみんな悪いの? スーアママは詳しかったりするの?」

「……逆にあんたは彼らの何を知ってるんだい?」

 スーアは逆に質問で返した。ルシアは淡々と答える。

「生き物の血を吸って、莫大な魔力と不死身の肉体を誇る怪人だというのは知っている。噂では神々も倒せるとか。」

「今のあんたはそれだけ知ってればいい。」

 スーアは容赦なく、ルシアの話を断ち切った。

「海の彼方のその先に目を向けるのは結構だけど、今のあんたがどうするかがそれにつながるんだ。それを忘れちゃいけないよ。」

 その後、二人は晩飯を食べている、ルシアはまた質問をした。

「そういえばスーアママはデボレ様にお仕えしていたんだよね?」

「……適当なことを言うんじゃないよ。」

 スーアママは食べ物を頬張りながら、受け流した。しかしそれにめげるルシアではない。

「私知ってるもん。いつの日か事務の整理をしてたら、デボレ様との冒険の記憶が書き記されていた。スーアママの字は見分けがつくよ。それに…。」

 ルシアは窓から見える白鯨城に目を向けた。

「海神様などの神々の方を悪く言うスーアママがデボレ様だけ特別扱いは怪しい。」

 スーアは少し黙ると、口を開く。

「あっしはあの方の一部についてしか知らないよ。謙遜でストイックで過去も現在も未来も客観的に分析できる方だ。また失敗や過ちから学ぶのを恐れない方で、常によりよい世界のために悪戦苦闘してらした。どんな奴の潜在的可能性も見抜くのが得意さね。だけどたまにドジっ子で大雑把でルーズなくせに、頑固で意地っ張りな困ったさんでもあるね。神々の中でもトップの強さと言われてるけど、あっしは賛成さ。海がまるで体の一部のように自由自在に操るのさ。時に緩やか、時に荒々しく。あの方の技はまさに芸術。鮫の宝杖(さめのほうじょう)という黒い三日月のような形の刃物が青い杖にくっついてるような武器でいくつもの化け物と戦った強者。陸のトロールという怪人の軍団を片指だけで倒したこともあるらしい。ハンデを与える契約をしたうえで勝ったのがすごいお方だよ。他にも…。」

「いやすごく知ってるじゃん! スーアママさてはものすごく好きじゃん!」

 真剣に聞いていたルシアは思わずツッコミをいれてしまった。

「こんなとこで何してるの?」

 ルシアはスーアがなぜ今まで話さなかったか気になってしょうがなかった。スーアは語ってしまったものは仕方ないと思い、渋々答えた。

「デボレ様は海の太陽。あっしにとってあまりにも眩しかったからも距離を置いたんだ。だけどね、ルシア。あんたも素敵な女性を目指すならあの方を目指しな。」

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