一章 海の姫 その5
ちょうど同じ時に白鯨城の青い壁と金の天井の密室にてユニオン・パール5代目の国王―トリポセ・シーキングは3人の女と晩酌をしていた。
「トリ様ぁーん、あったらしんペット飼ってん!」
「飲んで、飲んでー。酔っ払った王様、かっわいい!」
「この後はあたしと二人っきりだもんね〜。」
ワイワイと騒ぐ人魚の女性達を、顔を赤くしながら王は答えた。
「よいの、よいのー。溜まらんのー。ワイは最高の気分じゃ…」
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン
突然閉ざされた赤い戸が強く叩かれた。突然のこちで、4人はみなびびったが、トリポセはすぐに音に怒鳴り返した。
「ワイは瞑想中だ! 後にしろ!」
ギゴギゴギゴギゴギゴギゴギゴ!
「ええええ! なんじゃこの音⁉︎」
とてつもない音と共にあっさり門が横に真っ二つに斬られた。その者は奇妙なギザギザな異形の刃物を持っていた。トリポセはすぐに正体がわかった。
「デボレ! …お前帰っていたのか⁉︎」
「お久しぶりです、お父様。お母様の葬式以来ですね。」
デボレは怒りの笑顔をしながら、双方にて震える三人の女性を交互に眺めた。
「おや〜? はじめまして三人のの新しいお母様〜。お三方お父様とのご予定、先延ばしでよろしいか?」
三人の人魚は恐怖で動けなかった。トリポセはデボレの持っている刃物を指した。
「なんじゃそれは⁉︎ 今まで見たことない!」
「おやおや、海神であるあなたがこれを知らないのですか? お母様方、お父様が大変お恥ずかしい御失態ですぞ。」
デボレの発言で人魚達はどよめきトリポセは赤面した。デボレはわざとらしく高笑いした。
「ハッハッハッ、無理もない。これは陸の技術者が開発した魔動ソーサー。魔力を注入することで斬れ味が上がる。戦闘面より家庭面や生活面で役に立つ優れもの。」
デボレは清々しい顔で宣言する。
「我々が陸の方々に教えれるものもあるが、彼らから我々が学べることも数知れず。」
「何が言いたい?」
トリポセは強張った表情に替えて、デボレを睨みつけた。デボレはここで初めて真顔になった。
「ここから先は二人きりで話すがよろしいかと? まあ私は構いませんが…。」
デボレの提案を聞いて、トリポセはより不機嫌になった。
「あいかわらず可愛げのない娘じゃ。」
トリポセは腕を軽く振ると、人魚達はデボレに会釈をしながら即座に退場した。
「で? お前は何が言いたい?」
「この海は深くなり過ぎた。我々は海上と友好的な交流を取るべきだ。」
デボレは堂々と発言した。トリポセは寒気がしたように横に向いた。
「何を言ってんねんきねんぶつ? 交流はしているではないか。」
「その方らはお父様が神々と認識している方のみ。神々が下賎の者と判断している人々や怪人の者とも向き合うべきだ。」
デボレは反論すると、トリポセはまた誤魔化した。
「た、確かに。ワイも子供の頃よくパピーに連れられて海上の者の貢物の回収とワイ達を賞賛する礼拝に行ったものだ。」
「それには明らかな上下関係があろう。私は友好的と言った。」
デボレは真っ直ぐな眼差しで強気に言った。
「私はメリゴール中を廻ったが、未だ全てを知らず。だがそれでも我々が助けれる者、逆に我々が助けをもらえる者がたくさんあるのだ。それに海上の者は我々と違い、海の利用に苦戦している。技術が発展していないのだ。このままでは海の死者がさらに急増して、飢餓に苦しむ陸の人も増えます。」
デボレは熱く語ると、トリポセは鼻息を勢いよく出してにやけてとんでもないことを口走ってしまった。
「フン! 半分くらいいなくなってもいいではないか? 人口が減れば残った者は飢えなくて済むだ…」
パッチーン!
デボレは感情任せにトリポセをビンタしてしまったため、その部屋は強く揺れた。それでもトリポセは踏ん張り言い返した。
「痛いよおおお! デボレ、お前実の父に何を…」
「愚かな父に怒りをぶつけたまで! 黙って世界の道理を聞かれよ!」
デボレの勢いに、トリポセは怒りが恐怖にかわり黙っだので、デボレは話を続けた。
「人口を半分にしてメリゴールが栄えるわけなかろう! 飢餓が増えるのは人が増えるためにあらず! 食品や生活必需品などの消耗品は場所によっては余るほどあるのだ! 問題は国同士の交流や貿易が少ないこと、まだそのなかの数少ない供給連鎖の管理不足にある!」
デボレは勢いよく指をトリポセに向けた。
「我々ユニオン・パールが率先して多くの海上の者と交流を持ち、海を隔てて存在する供給連鎖を危険から守ることによってメリゴールはより輝くのだ!」
この勢いにもトリポセはまだ言い訳をした。
「随分とスケールが多いの〜。ユニオン・パールが与えるだけになりそうだ。」
「とんでもない! 他の海の国だけではなくさらに海上の者とも貿易をしたらこの国の貧困層は減るぞ。」
そう言うと、デボレはトリポセの耳元に囁いた。
「念のためここに来る前に姿を変えて国をある程度観察させてもらった。税金が有効利用されてないのはトロールでもわかろう。」
デボレは再びトリポセと目を合わせた。
「帰還する前にユニオン・パール出身の小さな人魚に出会いました。おそらく貧困層。その子は海上を冒険したくて堪らなく、色々な望みを私に打ち明けてくれました。私はこの子の願いを国民の願いの一つと捉え、決意はより硬くなっています。」
デボレが熱弁を振るっているとある声が扉から入ってきた。
「トリちゃーん! どぉー、このドレス似合うー? 私と似てキラキラしてるでしょー?」
海のように鮮やかな宝石がついた青いドレスを見事に着こなしていたタオ子であった。しかし彼女はデボレを見た瞬間固まってしまった。
「え、……デボレ様。」
後ろを振り向いたデボレはすぐにタオ子の特徴的な瞳と髪、そしてタコの下半身に気づいた。
(……先程の遊女じゃないわ。新しい正妻?……あの子に似てるわ。もしかして…。)
「んのおおおお! 最高だぜ、タオ子ちゃんマイハニー! 美しきワイの妃よん!」
トリポセは急に変なテンションになった。それを遮るようにデボレはタオ子に話しかけた。
「タオ子お母様、はじめましてかしら? 義理の娘のデボレと申します〜。」
そう言うとデボレはタオ子に抱きついて、耳元にさらにささやくのだった。
「私の勘が正しければ、タオ子さんは事情があってここにいると思います。今夜の食事を付き合ってくれませんか?」
気がついたらデボレとタオ子は姿を消し、トリポセは個室に一人ぼっちになった。
「姫の帰還はユニオン・パールの改革の一歩、か。」
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