第4話
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
1-3.大東帝国の思惑(1)
「あいつらの言いそうな事で、俺が知らない事がある?」
俺は首をひねる。
俺には幼い頃から何人もの家庭教師がつき、ボンになるための様々な教養を叩き込まれてきた。
ボンであるためには、ある印が認められる事だけが条件で、中には知能は凡庸なボンも歴代には存在した。とはいえ外国の使節との会話や、ジョウザを訪れる高僧やボーサットと言われる修行僧との問答もあり、ある程度の知識は叩き込んでおかねばならない。
もっとも訪れる僧たちにとっては、困難な旅程を経てジョウザに辿り着くだけでも大きなステータスであり、何度ジョウザに巡礼したかが国元の寺院での序列に影響する程であったので、ボンが多少マヌケな事を言っても
「常人にはとても思いつかない発想!」
「また新しい事を教えられた気がする」
と曲解して勝手に感動してくれるので、その辺は楽だった。
今代の俺はと言えば、何人もの家庭教師が辞めて行く状況だった。馬鹿なのではないぞ。逆にすぐ教える事がなくなるのだ。
例えば魔術の時間で
「主上、これが炎魔法の初歩、灯し火でございます」
術師が呪文を唱えると指先に小さな火が灯る。
「そうか、これでいいか?」
俺の指先に火が灯る。
「え!無詠唱で?」
目の前の3歳児の才能に術師は狂喜する。やっと自分が長年修行を重ねてきた魔術の全てを受け継ぐ素材が現れたと。
修行が高度になるにつれ、術もすぐには習得出来ない。しかしこの弟子は異常な熱心さで練習を重ね、じきにできる様になる。最初は喜んでいた術師も、やがて術が高度になるにつれ、習得のための時間が短くなって行く事に戦慄する。
俺は覚えた事を絶対に忘れず、本質を見抜いてそれを組み合わせて新しい発想を得る事が出来るからだ。
「もう私には教える事は何もございません」
「ご苦労だった。よければ貴方の師を紹介してくれないか?」
という訳で今は、はるばる招いた最高の魔術学の権威が冷や汗を書きつつ古文書をあたって授業している状況だった。
当然歴史学、地理学、政治学にも精通した俺には、歴代のボンの来歴は頭に入っているつもりだ。
「何の事?」
「大東にとって、一言で言ってボンは何?」
ヨウコは珍しく質問に質問を返す。おかしいな。ヨウコは何を赤くなっている?と俺は驚く。
「ボンは梵だろ?」
大東語と大東史を教えてくれている大東人の教師から、最初に習った文字を俺は空気に書く。もっとも言語としての大東語は、小さい時から大好きだった芝居のセリフからあらかた喋れる様にはなっていた。
この次期支配者の聡明さに大東人教師は驚倒するが、概ねこう言う手合いは外国の間者と相場が決まっているので、余り近づかない様にはしていた。因みに梵とは悟りを開いたもの=覚者である。
「そんな宗教の話じゃなくて、ドロドロしたあの帝国の政治家がボンをどう思ってるか?って事」
「そんなの邪魔に思ってるに決まってるじゃん」
大東帝国の約三割が醍醐教の信者。幾つもある宗派の中でも初代ボンの開いたジョウザの教えは孤高のストイックさで大東の民にも人気がある。
かつてはもっと盛んで、参上法師と言う僧が皇帝の依頼でジョウザから経典を持ち帰り、醍醐教が大いに盛り上がった時代もあったが、南朝が衰退し北方民族の北朝が興ると、皇帝自らを神として信仰する様に強制が始まり、反抗する醍醐信徒を抑えるため、遂に皇帝は10万の兵を醍醐教の聖地である西域に向けた。
そのうち3万がジョウザを包囲したが、術師の魔術と僧兵の法力で撃退されたため、帝国は懐柔策に転じた。すなわち醍醐教の布教を認め、ジョウザに使節を送ってその教えに耳を傾ける「フリ」をした。その上でジョウザの上層部を豊富な資金力で囲い込み、何人かの大東人を官僚に送り込む事に成功した。
「そこまでわかってるならわかるでしょ?、大東はボンに何を望んでる?」
「これ以上ボンが力を持たない様に…」
「そのためには?」
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