第3話
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
1-2.ジョウザでの暮らし(2)
「メグル、これからどうするのよ?」
大層な名前の猊下だが、ヨウコにはメグルと呼ばせている。
他の人が居ると、ヨウコは土下座せんばかりに俺に接し、俺もいかにも徳の高い修行僧の様に応じる。両者の主従関係は明らかだが、この国の宗教上の頂点、ボンという称号は普通の王だとか、教祖と言うものと少し違っている。
先代のボンが崩御すると、国中で赤子があらためられる。そこで、とある印が認められる子供が見出され、次のボンとなる。
ヨウコと言うのも代々顕れ、一定の地域に産まれる、やはりとある印のある女子が、顕われた赤子の侍女兼秘書の様な立場として一生仕える。
ちなみに大東から来た家庭教師によれば、ヨウコは「妖狐」と書く様だ。大陸のどこかにいると言う獣人のように、頭の上に耳があったり、尻尾が生えていたりはしない。紅に輝く瞳が他民族にはない特徴、程度。ただ歴代のヨウコは姉妹よりも似ており、国が傾くほどの美人だ。
彼女達は心の中に別人格の妖怪を飼い、その神通力に助けられて、様々な術を使うという。
伝説によれば、ボン一世、つまり開祖が諸国を訪ね、修行していた折に、幾つもの国を破滅に追い込んだ妖狐を法力で調伏し、改心した狐は末代まで生まれ代わって主上に仕える約束をしたという。
そこで、ある村のいくつかの家に脈絡なくヨウコを宿した女の子が産まれる様になった。
「どうするって、どうしたらいい?」
「それはあんた次第よ。このままボンになるなら、あたしは生涯仕えるわ。嫌なら」
「嫌なら?」
「逃げるしかないでしょ!」
俺がヨウコに会ったのは0歳の時。
先代ボンのヨウコが亡くなった時、新しくヨウコが生まれ、新しいボンの誕生が予見された。老齢だった先代ボンは自分のヨウコに先立たれ、心折れたかの様に崩御され、一年後に俺が生まれた。つまり俺たちはひとつ違いだ。
ヨウコはボンに仕えるため侍女の務め、すなわちメイド道をみっちり鍛えられる。場合によっては独りで主上を守らねばならないため、武術や魔術の心得も仕込まれる。水汲みも修行の一環という訳だ。
俺が初めて会った時はヨウコはまだ1歳。漸く掴まり立ちし始めた頃だ。
俺にはその記憶がある。
愛くるしい幼女のヨウコも、少女になって時折ドキっとする妖艶さを見せる様になった、今の15歳のヨウコも。
そう、俺には生まれたその日からのはっきりした記憶がある。
「どうすっかなあ…」
胡座をかいた俺はケバブの串を齧りながら言う。
「時間はないわよ。あんた小さい頃ヨウコをお嫁さんにするって言ってたじゃない!」
「うん、そんなこといってたなあ。でもボンになってもずっとヨウコと一緒に居られるだろ?」
「それはそうだけどねえ。メグルは私をお嫁さんにしてくれないの?」
俺は年子の様に育てられたこの幼馴染に大変懐いている。小さい頃はヨウコと上手く発音できず、
「オコちゃんオコちゃん」
とついて回っていた。ヨウコも
「メグちゃん」と可愛がってくれた。その頃から今まで、正直大好きだ。宮殿には他にも侍女達が居るが、ヨウコ以外の女に興味がない。姉の様に世話をしてくれるヨウコを、たまには面倒に思う時もあるが、結局は完全に惚れている。
「ボンになったら、結婚は出来ないのよ」
「そりゃ聖職者だからな。でも歴代のボンには妾とか作ったり、子供作ったりした人もいたし」
百年ほど前に宗教改革が行われ、そう言うボンは最近はいない。しかし大好きなヨウコを内縁の妻にしてしまうのも、自分がボンになればなんとかなるのではないか?
「それがね。昨日偶然聞いちゃったんだけど」
「何を?」
「侍従長と神官長の内緒話」
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