第45話 1-45 可愛らしいモノ

 俺は一度帝都へ戻ろうかと思ったのだが、この巨大すぎるこいつだけをここに残して野放しにしておくのもなんだ。


 少し思案した俺は、ある人物に念話を放った。


「聞こえますか、ディクトリウス。

 ホムラです。

 聞こえますか、ディクトリウス」


 ある人物もへったくれもない。


 彼は今現在、俺が念話を双方向でやりとりできる、ただ一人の人物なのだ。


 しばし待ったら、彼からの返信が届く。


「感度良好ですよ。

 どうしました、ホムラ。

 もしかしたら、あの怪鳥の騒ぎに関係しているのではないですか」


「ええ、その通りです。

 あいつと戦って弱らせて、ヒュプノの力で配下にしました。

 今、帝都の西三十キロメートルの位置に、そいつといます」


「そ、それはまた!」

 彼の少し絶句したような感覚のテレパシーが戻ってきた。


「そっちの被害状況は?」


「ここは神殿だからね。

 とても頑丈に出来ているよ。

 ここは絶対に大丈夫。


 でも街の方もそう心配するほどの被害は特にないはずだから安心するといい。

 あの騒ぎは私も見ていたが、あの鳥はまともに帝都を攻撃できていなかった。


 あの街は石作りだから殆ど被害はないのではないかな。

 この街の建物が石で出来ているのは、かつて魔物の攻撃を受けて大被害を受けたので、その対策なのだよ」


「あー、なるほど。

 そういう事があったのね」


 やけに金をかけて一般の建物まで石作りにしているなと思ったら、そういう事なのか。


「だから、たとえ被害が出ていなくてもこの帝都に魔物が出たという事は、帝都にとっては大問題なのさ。

 また大騒動になるから覚悟しておくといい」


「あのう、それで相談なのですがね、ヒュプノはどれくらいの威力を持つ物なのでしょうか。


 というのはですね、あいつはどうも誰かに操られていたようなので、どこか近くに元々の魔物の操縦者がいるのではと。


 もしそうなら、そいつは魔物の奪還を企てるかもしれないですし、俺も無闇にこいつの傍を離れられないので」


 彼はしばし沈黙してから答えてくれた。


「その魔物は、今大人しいですか?」


「え、ええ。

 今は完全に俺のコントロール下にありますので。

 でも俺がここを離れてしまえばどうなるのかわかりません。


 向こうにも元々魔物を操っていた能力があるわけですので奪還されてしまうかもしれない。

 そうなったら大変です。


 こいつをどれだけコントロールできているかはテレパシーで確認できます。

 今は百パーセント隷属状態です」


「わかりました。

 それなら大丈夫でしょう。


 あなたの主である『依り代の巫女』は、そういう敵が魔物を操る力を封印する力も持っています。

 巫女の血にそういう力があるのです。


 あなたが魔物の傍を離れられなくて、そこが安全だというのであるならば、巫女姫様にそちらへ行っていただく他ありません。


 こちらから皇帝陛下に連絡しましょう。

 彼、念話を使えますから、あなたも今度お話しておくといいでしょう」


 あう、それって完全に社長の紐付きじゃないですか。

 まるで俺の父親みたいだ!


 碌な事ないよ、あれは。


 でもその方が何かあった時には、あれこれと動きは速いだろうしなあ。

 ちょっと悩むな。


「じゃあ、待ってますのでよろしく」


「では、宮殿へ連絡したら私もそちらへ参りましょう。

 私はその血の盟約を契約処理する方法を知っていますので。


 まだエリーセル皇女は一人でそれを行なえないでしょう。

 彼女はまだ幼く、経験も浅い。


 ちょうどいいから、あなたと二人で『契約』について覚えてください」


「ありがとうございまーす。

 じゃあ待ってますのでー」


 そして、俺は愛鳥? に話しかけた。


「みんな、お前のために来てくれるってさ」

「クウ」


 あ、可愛く返事した。

 こいつって、よく見ると凄く可愛いよな。


 立ち上がっているのを見ると体形とか凄く愛嬌がある。


 でも大地に立ち上がっただけで、ちょっとした山脈並みにこいつの周りに気流が発生するんだけど。


 御嶽山くらいの高さの山だって、独立して聳えてエベレストみたいな形をしていたら気流がきつくて年寄りが登れるような山じゃないはずだ。


 マスコミのヘリとかがいたら、ちょっと近寄っただけで油断すると墜落しそう。


 よかったな、こんな可愛い魔物に大口径のレールガンを撃ち込んだりしなくて済んで。


 俺のパワーで撃ち込んでいたら翼の一つくらい千切れて飛んでしまったかも。


 そこまでいっても俺のマナさえあれば回復するもんなのかね。


 だが、そんな俺の想いは知らず、そいつはただ可愛らしく小首を傾げていた。


 なんか見ているだけで楽しくて飽きないので、俺は地面に座り込んで、そいつの愛らしい様子をたっぷりと鑑賞させていただいた。


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