第46話 1-46 ジズの処遇
俺は座って寛いだまま、彼(彼女?)とお話していた。
「なあ、お前って男の子か女の子かどっち?」
「クウ?」
「いや、俺の世界の話なんだけどな。
ジズが卵を産んで、それが腐ったから天上の巣から落として、それの中身で地上が大洪水になったなんていう、ありえないエピソードもあったくらいだからさあ」
「クー?」
だが、俺の後ろから少し苦笑いの気配が伝わってきたので振り向いた。
「あ、ディクトリウス、早かったですね」
「私も貴族家の一員ですから馬くらい乗れるんですよ、いやそれにしても改めてこうしてみると大きい魔物だ。
何て言うのか、完全に聳え立っていますね。
それにしても、よく慣れていますね。
安心しましたよ」
俺はチラっと見たが、その件の馬は大欠伸をしていた。
おい、ラシオン家の馬って肝が太いな。
いや神殿の馬なのか?
この図体をした魔物ジズを前にして、それかい。
あるいは、目の前の存在があまりにもでかすぎて、魔物鳥だとかいう認識が無いのかもしれない。
彼も今仕事で文字通り主を乗せて駆けつけて来たばっかりだしね。
俺は立ち上がると、収納から飼い葉と水を出してそいつの頭を撫でてやった。
おや、ちょっと擦り寄ってきたね。
餌をやって頭を撫でたら、もう『ティム』できちゃいましたか。
所詮は畜生だな。
もしかしたらジズの奴もそうなのかな。
俺もマナはだいぶ吸い取られてたし。
奴は丁度キュートな嘴で羽根の繕いを始めたところだった。
あ、羽根を投げ捨てたー。
「これこれ、羽根はやたらと捨てないの。
それだけでも落ちたら家が何軒か潰れるう」
そう言うと賢い子なので、空中でパクっと自分の羽根を咥えて俺の方に差し出した。
もっとも、それだけで激しい気流が巻き起こっていたのだが。
「ひゃあ、凄い迫力だなあ。
はいはい、ありがとうよ」
俺はそう言って、全長六十メートルはありそうな、そいつの美しい水色の羽根を収納バッグに仕舞い込んだ。
長い奴は二百メートルくらいありそう。
尾羽なんか凄い長さだ。
こいつを売ったら、いくらぐらいになるだろうか。
あるいはフルーセルが欲しがるかもしれない。
あの子に渡しておいたら、何かいいアイテムなんかを作ってくれるだろうか。
「これは、やはり凄い事になっているねえ。
これは各所と調整しないと揉めそうですね。
まあ、それは皇帝陛下に一任いたしましょうか。
あなたは皇帝家の管轄なのですし、あなたの活躍で帝都に被害は出なかったのですしね。
何か帝都に致命的な被害があったならマズかったのですが、まあそこは結果オーライという事で」
「おう……すいません。
うちの子が大変御世話をかけます」
もう、俺の中でこの子は『うちの子』扱いになっていた。
「ところで、魔物に関してはどれだけ知っていますか?」
「うーん、多分あなたから聞いた話の範囲くらいじゃないのでしょうか」
「そうですか。
ではまず、この子達はマナをエネルギーにしています。
落ち人が魔物を使役する事が多いのは、あなた達落ち人が物凄い量のマナを吸収し、また蓄える性質があるからだと思います。
それを魔物が欲するのだと言われています」
「あー、そうみたいです。
なんか一緒にいると凄く回復が早いみたいで。
こっちはマナを吸われちゃうので疲れちゃうのですけど」
「まさにそういうものですね。
そして、この子達をティムする時は一旦倒してから、ティムしてその後にマナで回復させるのが一般的でしょうか。
あなたは言われなくても出来ていたようですが、落ち人だとわかっているのですから、どうせなら説明しておけばよかったですね。
まさかすぐこういう事になるとは思っていなくて」
「それで、この子の処遇はどうなりますので?」
屠殺処分って言われたら絶対に泣く自信がある。
その前に存分に駄々だけは捏ねさせていただくとしよう。
そんな俺の顔を見て察したものか、彼は笑って言ってくれる。
「そんな顔をしなくても、その子は絶対に殺されやしませんよ。
むしろ、しっかりと世話を焼くように言われるでしょう。
そいつはあなたの言う事しか聞かないでしょうから。
そいつが帝都にやってきたという事は、おそらくはこの国へ他の魔物も差し向けられるという事ですので。
おそらく闇魔法の強力な使い手が動いているのでしょう」
「え、そうなるのですか⁇」
「まあ、そういうケースが多いという事です。
軍の連中も難しい顔をするでしょう。
帝都の警備隊の簾中も。
彼らから何か言われるかもしれませんが、そういう時は皇帝陛下に相談してください。
勝手な事はしないように。
皇帝陛下に直接言いにくいようならグラッセル皇女に言ってください。
私も相談には乗れますが、私には権力がありませんので」
「わかりました。後は?」
「そうですね。
一番肝心なのは契約の話ですが、その前に魔物について話しましょう」
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