第44話 1-44 落ち人の僕
自分は逆に高空に飛んでいて、その惨禍は無事に避けたのだが、それでもある程度の余波は届いたほどの強烈過ぎる衝撃だった。
高度を失速ぎりぎりくらいまでに落とさせて、速度も充分に落とさせておいてよかった。
ここまでの図体となると落下したら兵器級の破壊力だ。
神の杖のような衛星兵器に匹敵するかもしれない。
こいつの体重は一体どれくらいあるのだろう。
全長二千メートルもある怪物の体重など測る気にもならんのだが。
測る方法すら思いつかん。
下が荒野でなかったらとんでもない事になっていただろう。
近隣の都市や村に衝撃による被害がなければいいのだが。
少なくとも耐震住宅はこの世界になさそうだ。
俺の電撃の影響は大丈夫だったかね。
俺はゆっくりとそいつのところへと降りていった。
まだ警戒は解かずに、バリヤーなども展開したまま用心して近づいていく。
「おー、死んではいないか。
テレパシーの波動を感じる。
今ならいけるかもしれないな」
そして背中へそっと舞い降りたが、奴はピクリとも反応しない。
「ヒュプノ・ドミネイション」
しかし、まだのたうち抵抗するジズ。
だがその抵抗は緩やかで、俺は空中へ飛び上がり、その大地震のような身動ぎを避けた。
だがそのまま許す気はない。
俺はヒュプノをかけつつ、更にテレパシーで従属要求を突き付けた。
何度も何度もそれを繰り返すうちに、次第に奴の抵抗は弱まり、そしてテレパシーの感覚で理解できる。
『ティム成功』と。
どうやら、今度は従属化に成功したようだ。
俺は巨大な従者、僕となる魔物を手に入れた。
そういや、そういう魔物を使役する落ち人の話も聞いた気がするな。
こいつは、もしかするとこのまま弱って死んでしまうかもしれないが、とりあえず帝都への攻撃は防げたのだから良しとするか。
「ジズ、お前は俺に倒された。
俺がお前の主だ。
認めるのなら返事をしろ」
特に期待した訳ではないのだが、応えはあった。
それは先程のそいつが上げた叫びに比べれば、さほど力強い物ではなかったのだが。
「クアー……」
「マジか、それにしてもどうしたものか。
こいつに四六時中ついていてやるわけにもいかんし、またヒュプノが解けてしまうと困るしな」
どうしようもないなら、俺の手で始末してしまうしかないのだが。
それに何を食べて活動しているのだろう。
国家丸ごと食い尽くしてしまいかねないほどの大きさなのだが、今までも何かは食べていたはずだしな。
「帰ってから偉い人達に相談するかあ。
おい、お前。
飛べるか」
「クアアーっ」
奴は俺を乗せた巨大な頭をゆっくりともたげると、その巨大な翼を広げてみせた。
十分な上昇Gを感じるな。高さ二千メートルの建造物に備えられた超高速昇降機だ。
まさに勇壮の一言に尽きる。
なんていうのだろうか、こいつは猛禽に近い感じのスタイルだ。
なんというか、こいつこそホルスと呼んでしまっても構わないような、そんなイメージだ。
目は邪悪な感じではなく何かこう凛々しい、いや可愛くさえある。
操られていた憑き物が落ちて、大人しくなったような感じがするし。
その眼からすると、明らかな賢さが見受けられる。
それに!
「なんという回復力だ。
ついさっきまでへたばっていたのに、もう焼け焦げ一つついていない感じだ。
心なしか元気になったみたいだし、何故なんだろう」
だが逆に俺は強い倦怠感を覚えていた。
確かにあれだけのエネルギーを集めて一息に放ったなんて初めてだし。
ん?
エネルギーを集めてだと。
まさか。
「この感覚は!
今現在進行形でエネルギーを吸い取られている気がするぞ。
そうか、こいつら魔物はマナを集めて生きているんだ。
そして、今は俺の支配下にあるので、主である俺からもそれをもらっているのだな。
『今日から僕は君の御飯~』……っていう事?」
「クエー」
「あ、こいつ肯定しやがったぞ。
まあそれは別にいいのだけれど。
マナを受けると傷ついた体が回復もするみたいだなあ。
じゃあ行こうか」
「クオオオオオー」
一頻り叫ぶと、彼は羽ばたき大地に埃を巻き起こした。
俺は風をバリヤーで防ぎ、埃を帯電させて弾いた。
「ああっ、ゆっくり、ゆっくり行ってくれ。
頼んだぞ」
「クエっ」
空の旅はあっという間だった。
俺が自分で飛ぶのはあれこれと電磁気などのコントロールが大変なのだが、こいつは何の苦も無く凄い速度で飛んでいる。
まあ立派な羽根を生やしているのだしな。
羽根の端から端までの距離は翼長三千メートルくらいあるのではないだろうか。
自由に空を飛ぶ事に関しては人間が鳥に勝てる道理もない。
へたをすると、こいつらは飛行にも魔法も使っているのかもしれない。
マナを食って生きているのだから当り前なのかもしれないが。
「へえ、お前は速いな」
「クエーー」
やがて王都が見えてきたので、その近辺、三十キロメートル手前当たりで降ろしてみた。
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