第40話 1-40 騎士の精進

 今日もそんな感じで、グラッセル皇女やフローセル皇女のところへ足しげく通って装備の更新を行なっていた。


「ほれ、これがお前さんの要望の、マギメタル製ドリル・ブレットや。

 大型で高価な弾だから、さすがにうちでもそう数は出せん。

 大事に使いや」


 そう言って、宝飾品でも入れるような立派な箱に収められた三発の弾丸を見せてくれた。


 口径五十ミリ、全長二百ミリという大型のドリルのような形状になった細い竹の子のような弾丸だ。


 戦車砲の弾丸のように分離する事により運動エネルギーを集中させたり、砲身との摩擦や電磁的な力などから弾体を保護したりするための筐体分離機構などは一切備えていない。


 砲も弾丸もシンプルにして、一切すべて自分の能力で動力を賄い、また発射制御する。


 反動は電磁的に砲身に働きかけて無反動砲のようにする扱いだ。


 ただ電磁力が強く作用するように砲弾にはコイルのようにドリルに合わせて鉄が巻いてあるので、それは最初の砲身との摩擦だけで燃え尽きるだろう。


 砲身自体も、普通に発射する鉄の槍なんかとは違い、これだけの代物だと一発の発射にしか耐えられまい。


 まるで使い捨てのロケット砲みたいだ。

 こいつも弾丸と同数を用意してくれてある。


 さすがにマギメタルの砲身はコスト的に厳しいらしかった。


 この砲弾が入っている箱に宝石を満タンに詰めたとしても代金には遥かに足りない。


 今出来るだけの分の弾丸を、予算や材料の在庫を加味して作ってもらったのだ。


 あの景品でもらった槍はかなり奢ってくれたものなのだから、そうそう簡単に壊せないな。


 たとえ砲身にマギメタルを使用しても、本物のレールガンではなく俺の能力で強引に発射しているため、おそらくそう何発もの発射には耐えられないだろう。


 マギメタルを砲身に使うくらいなら、その分貴重な魔法合金は弾丸の素材に回した方がいい。


 こいつを使い捨て用の肉厚な鉄の砲身から、電磁力などを本物の艦載レールガンのようにコントロールしてローレンツ力により発射するのだ。


「ありがとう。

 こんなもんは、そうそう要らないと思うんだが」


「まあ先の事はわからんからな。

 備えているに越した事はあるまい」


 何か水面下で不穏な話でもあるのだろうか。

 金のかかるような装備を頼んでも、ホイホイと作ってくれている。


 俺にしか使えないような物ばかりで、帝国にとっては無駄金に近い代物なのに、特に装備が過剰だとも言われない。


 まあ皇帝陛下の許可はもらってくれてあるんだろう。

 これも依り代の巫女っていう奴の話絡みなのだろうか。


 そして姫様の外出のお供をしながら、また例の二系統の索敵を精進し、またそれとは別で空気を帯電させてそれの中を進んで来るものがあれば大きさや形すら捉える事ができた。


 だが、そういう物に敏感な相手の場合は、こちらが探っている事に気づかれてしまうかもしれない。


 それは前に使っていた索敵能力も同じ事なので、その辺の逆探知防止のためのステルス性能は要改良だ。


「ねえ姫様、今日はどこへ行くのです?」

「ふふ、行ってみてのお楽しみだよー」


 こんな感じで、俺もこの帝都ブラスのあちこちへ出かけているので、それなりに街には詳しくなってしまった。


 まだ市外へ出た事はない。

 街自体は塀に囲まれているような事はないようだが。


 いやしくもここは広大な大帝国の中心であり、ここに強大な敵が攻めてくるようなら、それは即ちこの帝国の終焉をも意味するのだ。


 それにこの世界にはゴブリンやスライム、オークなんかのありがちな魔物も出ないしね。


 飛行の練習で飛び上がって空から見たところ、街の外はゆったりとした広い空間になっているものらしい。


 保安上の理由なのかな。

 日本だと、ずっと街や道が繋がっているものだが。


 一言で言やあ、東京あたりに住んでいて、地方の街へわざわざ用足しに行く必要がそうそうはないって事だ。


 まあ旅行や遊興なんかの場合は別なのだろうが。

 グラッセルなんか視察の機会があれば逃がさない方針らしい。


 彼女の場合は、皇帝である父の代理のような感じで出かけるようだった。


 彼女自身は政務の多い父親とは異なり、出ずっぱりになってしまうのでなければ、帝都を離れていても困らない。


 もう王族としての権勢は手に入れてあるため、定期的に自分のシンパである第一皇女派の貴族などと会合が開ければいいのだ。


 彼女と政治的に争っていたのは立場的にそうせざるを得ない第一皇子であったのだが、彼には好待遇の婿入り先を宛がって戦いに終止符を打ったらしい。


 次に反対派が篭絡しようとするならば第二皇子になる訳なのだが、彼には意図的にゴリラの騎士を宛がっておいたので、さすがに担ぐ貴族はいなかったようだ。


 第三皇子は全姉たるグラッセルにべったりの変人皇子で担いでも意味がないし、第四皇子はパッとしないため最初から担ぐ貴族もいない。


 第二皇女はまたアレな訳で、しかも皇帝命令で手出し無用となっており、その上研究資金を好きなだけ出してくれるグラッセルについていっている。


 そして、あとは『依り代の巫女』たる我が姫君はグラッセルが猫かわいがりにしている全妹だ。


 残りは落胤の子供達が数名いるだけで、揉め事を避けるために彼らには初めから帝位継承権が与えられていない。


 その代わりにかなり優遇されているらしい。

 皇帝の子供として最高に優遇されながらも気楽な立場。


 それもなかなか悪くない物らしい。

 俺だったら、迷わず最後の落胤コースがベストだけどね。


 もう盤石な基盤だな、グラッセル第一皇女。


 そんなこんなで、最初に俺が来た時以来、そうたいした出来事もなく過ぎていた。


 季節は春となって、心も体もほわほわとした状態で緩み切っている。


 俺は、半ば月収百万円をもらう給料泥棒と化しており、装備を整えたり能力についての修行をしたり、姫様のお供をしたり、いつもの女性警備隊の奴らとぎゃあぎゃあ騒ぎながらじゃれていたりと平和な日々だった。


 少なくとも、そいつが帝都へやってくるまでは。

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