第34話 1-34 黒幕登場

「やあ!」


 そいつは堂々と俺の目の前に、まるで銀河パトロールの剣呑でグラマーなお姉さんの如くに、際どいデザインのレオタードに豊満なボディを包み込んだまま仁王立ちしながら、手を頭と腰に当てた悩殺ポーズで挨拶してくれた。


 俺はもう『日本語』で叫んでいた。


「お前は一体何者だ。

 挨拶なんかいいから、とっととその半端なコスプレの元ネタを吐けよ。

 さっきから気になってしょうがねえんだから」


 だが、そいつは「くっくっくっく」と笑いながら、ドヤ顔で語り出した。


「ある時は変態レオタード犬耳仮面、またある時はシスコンの危ないお姉さん、そしてまたある時は異世界の大帝国最強の悩殺ヒロイン!」


 おい、その定番のスムーズ過ぎる口上だけでもう元日本人確定だな。


 そもそも魔導具も使わずに日本語が理解できている点で、もうな。


 そうか、そっち方面の奴だったか。


 薄幸の巫女姫妹萌えのマニアック変態オタク姉か何かのロールプレーなのかな。


 もしこいつがアレなTS転生だったのなら主のために絶対暗殺しておこう。


「ふふ、だがその実態は、元はアブノーマル系アラサーオタクOLの転生皇女よ!

 ああ、婚約破棄された公爵令嬢や悪役男爵令嬢に転生できなくて残念至極だわ!」


 あー、どうやら違ったようだ。

 運がよかったな、姉ちゃん。


「うーむ、転生皇女なんて割と少数派というか、あんまり需要がないよね。

 大体、大量の派閥を組んで直系男子の皇太子を跡継ぎから蹴落としている段階で、もうなあ」


「異世界の現実はシビアなのよう。

 結構知識チートも使ってみせたわ。


 まああれも実践するとなると本格的にはやれない代物だけどね。

 さすがに基礎技術が存在しないから実現があまりにも辛いわ。

 魔導や錬金の方が分もいいわね」


「ああ、知識チートも最近はそういう解釈の方向だよなあ」


「それでも、あれこれと権力を掌握するだけの派閥を組む分には有意義に使えたわ。

 それより向こうの話を聞かせなさいよ。

 あんたはどうやって、こっちに来たのよ」


 おっかねえ奴。

 腕組みして凄いドヤ顔しているし。


 確か今十九歳か。

 凄いプロポーションの美女なんだから普通にお姫様をしていれば安泰なんだろうにな。


 何故そうなるのかよくわからないが、ピンクの髪で物凄く派手な外見だし。


 地球でも瞳の色は本当にたくさんある。


 普通は肌の色と似たようなもので、髪の色は黒から金や茶、そして銀(白?)へと色が抜けていく感じで、染料で染めでもしない限り、このような奇天烈な髪の色にはならないはずなのだが、どう見てもナチュラルな地毛だ。


 確かに赤毛なんていうのもあるんだけどな。

 そういや警備隊や神殿にもオレンジとか紫と、いろいろいたんだっけ。


 体を紫外線やらなにやらの色々な物から保護するための物なので、本来は髪や肌の色は黒の方がいいのだろうがな。


 色素ってどうしても抜けてくるし。


「俺は……重度の静電気体質でな、学校にも登校禁止を言い渡されて引き籠っていた。


 碌にパソコンにも触れなかったから、あんたが一番欲しい情報と対極にいる人間だな。


 そして、静電気による人体発火現象を起こして死んだ、はずだったのだが気がついたらこの世界にいたのさ」


「あらまあ。

 そういう話もあるんだ。

 うーん、過去の伝説なんかもまた分析し直しね。

 あたし、ずっと日本へ行く方法を捜していたのよ」


「やれやれ。

 じゃあ吐け。

 お前が欲しかったのは、ラノベかコミックスか乙女ゲーかアニメのブルーレイか、キャラの抱き枕か、そのうちのどれだ」


「全部よ、それ以外にも、あっちの世界の楽しい物ぜーーーーんぶ~!」


 後ろから入場してきていた両親が背後に立って話を聞いているのにも気がつかず、そいつは浅ましい雄叫びを上げていた。


 この女、こういう事を日本でもやってたんだろうなー。


「はあー」

 とりあえず、この会話は日本語で行われていたので、他の人にはわからなかっただろうなあ。


 あ、翻訳のアイテムがあれば言葉は理解できるのか。


 まあ、たとえ聞いていたとしても多分マニアックな内容は理解できなかったのだろうが。


「くっくっく」

 今度は、この俺が「くくく笑い」を響かせる番だぜ。


 そしてテーブルの上でそれを描いてみせてやった。


「おおおおおおー!」

 それを持って何か雄叫びを上げている奴がいた。


「へへ、絵は上手いだろう。

 俺はこの体質だからパソコンで絵なんか描けないから、いつも紙と鉛筆さ。


 お蔭でこっちでも絵を描くには特に困らない。

 ここの良質の紙は、お前が強引に作らせたのか?」


 特にトイレの紙が本当に助かるんだ。

 ロール式のトイレットペーパーが作れていないのは、おそらく設備的な問題なんだよな。


「こ、こ、こ、このキャラは一体なあに~。

 思いっきり可愛いじゃないのさ」


「くく、そいつはなあ、多分お前がこっちへ転生した後でヒットした少女主人公のオタク作品だ。


 あんたが転生したのは、もう十九年も前の事なんだろう?

 その作品はアニメにもなったんだぜ。

 というか、それ明らかに男性向け作品なんだが。


 俺は本屋さんに入店するだけで迷惑をかけるから、本なんかは親に買ってきてもらうしかないので健全な方向の作品しか見ていないから。

 あんた向けの絵なんか絶対に描けないからな」


「いいの! 可愛いは正義」


 こいつ、一言で言い切りやがった。

 一体どうしてくれようか、このおばはん。


 年甲斐もなく、そんなレオタードなんか着込みやがって。

 なんだよ、その股間の食い込みはよ。


 まあ見かけと肉体年齢だけはまだ若いのだが、少なくとも中身は俺の三倍は歳を食っているはずなんだからな。


「よおおし、第八回エルスパニア皇帝家騎士杯の優勝はホムラ・ライデンで決定~」


「おい、ダンスパーティはどうしたー。

『第八回エルスパニア皇帝家騎士杯ダンスパーティ』じゃあなかったのかよ。


 せっかく、あれこれ苦労して準備してきたのに。

 どうしてくれるんだよ」


「あたしがルールブックよー。主催者なんだから。

 でもダンスパーティはやるからね~」


「はいはい」

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