第33話 1-33 真打登場
「第二皇子ファウスト殿下のおなありー」
よかった。呼び出しは元に戻ったな。
でも皇子様の名前がなー。
どんな人が出てくるのだろう。
だが、そこに現れた彼は逞しい、本当に立派な顔をしていらっしゃった。
精悍で野生的な貌、俺の腰回りほどもありそうな太い二の腕。
そして、そいつは、こうおっしゃった。
「ウホっ」
あれー、まさかのゴリラ?
ゴリラが皇子様なのー!
なんでやねん。
だが、慌ててそいつの後を追いかけてきた人がいた。
「あー、もう駄目じゃないか、ホルス。
皇子より騎士が先に出たら」
って、そいつが騎士なんかいっ!
人間様がそんなもんに勝てるか!
頼むから勝負の種目が『アームレスリング』とか言わないでくださいよ、第一皇女様。
噂の人物像からすると、それくらいの事は平気でやりかねんな。
電磁力で腕力を上げる方法って何かないものだろうか。
人工筋肉って電気の力で収縮するんじゃなかったっけ。
人間の筋肉は化学反応的な力か何かだったかなあ。
そういや蛙の足なんかは電気を流すと収縮したりしなかっただろうか。
電磁気で神経に影響くらいは与えられそうなのだが。
いや腕力を上げるだけではなく、それに耐えられる肉体と足腰がないと。
結局は鍛えるしかないのか。
さすがに、もう間に合わないよ。
頑張って考えてみたのだが、とりあえずいい具合のネタは思いつかなかった。
それにしても悪魔ファウスト皇子と天空神ホルスの騎士の組み合わせなのか。
何故密林の王者ゴリラがホルス!
皇子様方は、あまりギリシャやローマっぽくない名前なんだ。
ホルスはエジプトネタじゃなかっただろうか。
そして皇子は楽しそうな騎士殿に軽々と抱き上げられてしまった。
皇子様も楽しそうに高々と腕を上げてガッツポーズだ。
このゴリラ、いやに皇子を抱き慣れているな。
もしかして、この逞しいお方は皇子様の乳母さんか爺やさんなのか?
駄目だ、この催しは。
やられた。完全に御遊びなんだ。
ただの家族でやる罰ゲーム付きの余興なんだな。
しかも、滅茶苦茶に体を張っている奴なんかも混じっているし。
皇族の集まりだからって、こんな物の準備に必死になってしまって、俺なんか馬鹿丸出しだ。
うちの姫様は知っていたのかな。
だが、その肝心のうちの姫様なのだが、こんな事をのたまわれている。
「すごーい。
初参加だからよくわからなかったんだけれど、凄く楽しい催しだね、ホムラ」
「あー、そうですねー。
姫様は楽しいですか。
よかったですねー(棒)」
まあ、うちの主は楽しんでいるようなのでいいか。
この家族親睦会自体も、もしかすると襲撃を受けて乳母さえも失ってしまった失意の妹への励ましの意味もあるのかもしれない。
うちの姫様、エリーセルには絶対出てこいって書いてあったし。
他の兄弟達には、第一皇女様から『全員、ちゃんと可愛い妹ちゃんへの励ましのためにとことん弾けるように』とかいう指令書が出ていたっておかしくない。
さっきのあの皇子、さてはシスコンだったのか?
傷心の妹のために体を張っている?
いくらなんでも、ここまでの乱痴気騒ぎの全てが大帝国皇族の素で、平常運転っていう事はないよな⁉
そして注目の大一番、じゃあなくってトリを務められるお方の呼び出しを、俺達関係する下々の者は心して待った。
だが次の瞬間に俺は盛大にずっこけた。
「赤コーナー、第一皇女グラッセル殿下こと、パピヨン・アゲーハ。
今華麗に登場です」
ちょっと待てや、そこの解説者。
なんだ、その展開はよ。
そして、まさかの赤コーナーの再来。
そして、その赤コーナーから走り込んできたレオタード仮面の奴と来た日には!
こいつもマスカレードな仮面をつけているし。
どうせなら仮面舞踏会にしたらよかったのに。
満面の笑顔で、何故か両手を上げたまま走り込んで来たかと思ったら、大阪は道頓堀の、あの看板のポーズをパシっと『あの笑顔』で決めやがった。
ム、ムカつく。
今確信した。
こいつは絶対に俺に喧嘩を売っているのだと。
駄目だ、この特異体質のせいで自由にテレビやネットの世界を旅できなかった俺には、その『元ネタ』が特定できない。
アゲハ仮面なんてアニメや漫画にはなかったよな。
レオタードみたいな恰好のキャラはいたし、仮面のキャラも大勢いたような気はするのだが。
確か蝶がテーマの、男の変態キャラならいたが。
しかも、その明らかに『パピヨンという犬種を真似たケモミミ』を頭部に装着しているのは、異世界の皇女から日本生まれの俺に対する挑戦なのか?
だが、迂闊には攻められない。
こいつは何だ。
皇帝家に生まれたからには落ち人なんてものじゃあるまい。
転生者なのか?
だったらチートなスライムにでも転生しておけやー!
この世界に魔物のスライムなんていなそうだけどな。
川にはアメーバとかなら、いっぱいいそうだ。
さすがに普通のアメーバに転生は辛いわ。
チートなんて欠片もなさそうだし、寿命も凄く短そう。
陸上にいる普通の粘菌に転生するのと、どっちが幸せかな~。
あれかな、これはもう俺が青コーナーから登場してガチンコしないといけない展開なんだろうか。
死亡フラグが立つ予感しかしねえ。
奴の能力というか、スキルというかが、なんだかわからん。
そもそも何のつもりだー。
最初から俺が目当てだったろうと言う事だけはわかったのだが。
馬鹿馬鹿しい、もう馬鹿馬鹿しいな。
俺だって暴れちゃうからなー。
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