第32話 1-32 騎士杯?
そして、次は皇子様のおなりだった。
「第四皇子エルンスト様のおなありー」
「あ、皇子様がいたんだね。
しかも四男様からだ」
「ああ、うちは皇女様がいろんな意味で濃い方ばかりだからな。
第一皇子様も第一皇女様には跡目争いで敵わないので、もう他国へ養子で婿入りして今は王様になる修行中らしい」
「嘘! 普通ならその人が皇太子殿下じゃないのかよ。
第一皇女様が跡目だって言っていたから女ばかりで男はいないのかなと思ってた」
「だから言っただろう。
第一皇女様が派閥も含めて、兄弟姉妹の中で一番強いんだって。
お前も今日はあの方を絶対に怒らせるなよ」
「へーい」
この四男様は雰囲気というか、その見た目の風体こそフローセル第二皇女に似ているのだが、大人しそうであまり存在感はない。
髪は爆発していないが。
強いて言えば、クラスで目立たないガリ勉で眼鏡の小柄な少年という感じだろうか。
跡目争いなんて興味はまったくなさそうだ。
まあ既に第一皇子様が海外逃亡しているくらいだからなあ。
だが彼もこちらへやってきた。
まあこの俺が本日一番の興味の対象なんだろうし。
これもプログラムのうちの一つみたいなものか。
侍女が一人と、そしてまるで騎士団長のような雰囲気の、大人の騎士さんを連れていた。
ちなみに、この国に騎士団は存在しない。
あるのは軍隊だけだ。
俺は立ち上がって静かに彼を待った。
「こんにちは。あなたがホムラさん?
僕、第四皇子エルンストです。
よろしくお願いいたします」
「これはこれは、私のような者にまでそのようなご丁寧なあいさつをどうも、エルンスト殿下。
ホムラ・ライデンです。
この国も、なかなか濃い人物が多いので、あなたのような皇子様とお会いできるとホッといたします。
どうぞ、よろしくお願いいたします」
すると彼はそばかすの残る、まだあどけない顔を崩して素晴らしい笑顔を見せて笑ってくれた。
「あははは、確かにそうかもしれません。
それ、まだ男の方にもいますから楽しんで見てやってください」
「いやあ、そうでしたかー。
では楽しみにしておきます」
うーん、どんな奴が出てくるんだろうなあ。
「また落ち人の話を聞かせてもらえると楽しいですね。
ああ、僕は今十五歳ですので、あなたと同じ歳ですね」
「そうですか、ではまた後ほど」
なかなか好感が持てる人だな。
この人とは年齢的な物もあって、いい友達になれるかもしれないな。
すると、お付きの騎士団長様(俺命名の仇名)がおっしゃった。
「いや、敵の重装歩兵数十人を倒したというから、一体どのような荒くれ者かと思うておれば、まさかうちの殿下と気が合うような真面なタイプであったとはのう。
よければ今度御手合わせを願いたいもんだ」
なんか、会うなりにとんでもない事を言っている人がいた。
がしっと腕組みをしながら、じろじろと俺を舐め回すように上から下までじっくりと検分していた。
筋肉の量とか測っているらしい!?
「もう、バイカン。初対面の方に向かって失礼じゃあないですか。
すみません、ホムラ。
この人、本当に脳筋なもので」
「あっはっは、どうかお気になさらないで。
それに、今日は騎士同士が対決する催しなのではないのですか?」
だが、二人とも少し妙な顔つきをした。
「ああ、ホムラさんはまだ知らないのですね」
「まあ参加してみれば直にわかるわい」
あれ、この催しってなんか考えていた物と違うのかなあ。
そりゃあ、一応はこれもダンパなんだから模擬戦とかをやる訳じゃあないんだろうけど。
それでも一応は騎士杯なんだよな。
そして、お楽しみの皇子様の紹介は続いた。
「赤コーナーより、第三皇子グレート・サンボーイ・サンクレストの登場です!」
あれ、何でここだけ呼び出しの仕方が違うの⁉
皇子様なんだよね、プロレスラーなんかじゃないよね。
クレストって英語だと、確か兜飾りか。
偉大なる太陽の少年、太陽の兜飾り君か。
名前と、その呼び出しだけでもうお腹いっぱいだな。
それに赤コーナーって、もしかしたら青コーナーからも何か出てくるのだろうか。
「来たか」
「ああ、来ましたね」
「うん、来た来た」
あ、うちの連中もなんか言っている。
そして、そいつは突然天井から降って来た。
ロープか何かに捉まって。
ええい、あんたはジャングルの王者か。
いくら他に誰も来ない家族ダンパだからといって、ちょっと弾け過ぎていないか!?
なんか殆ど裸の格好で、短パンみたいな物だけを履いていて、裸足だし。
一応はパンツだけじゃないところに好感が持てるな。
頭には何というかローマの百人隊長みたいな立派な羽根飾りのついた金色の兜にマスカレードっぽい感じの仮面を付けていた。
もちろん、その頂点には立派なクレストが輝いている。
そして、奇声を上げて突っ込んできて、何故かそのまま床に大音響と共に激突した。
いわゆるプールの飛び込みで失敗して腹を打った感じで、そのまま何回か床を跳ねてから墜落した飛行機のように不時着をして、そのまま機体は動かなくなった。
おいおい、大丈夫なのかい?
あんたが第三皇子なんだよね!
「大地の豊穣よ、汝が子を癒せ、アクアミスト」
青コーナーの方から涼やかな、女性の唱える魔法の呪文のような声がして、そのまま死んでいるんじゃないかと思われた彼を淡い色合いの水色をした魔法のミストが包み込んだ。
彼はピクっとして蘇生したようだった。
誰も助け起こしにいかないので仕方がないから俺が助けにいった。
「大丈夫ですか、えーとサンボーイ?」
たぶんそう言ってほしいんだろうと思って、わざとそう言ってやったんだけどね。
案の定、彼はガバっと身を起こして嬉しそうに俺の両肩を捉まえた。
「いやあ、ダンス会場の広いサロンとロープの長さを間違えてしまったようだ。
オープニングをあっちでやるのかと思っていて、最初はあっちの長さに調整しておいたんだ」
「いやまあそれはいいんですが。
サンボーイ殿下、その格好は一体どうなされました!?」
だが、彼は悪びれずに立ち上がると言い切った。
彼への俺の呼び方に対しては誰も突っ込んでこない。
そんな気はしていたんだけれども。
本人もそれで当然みたいな顔をしているし。
「今日の衣装があまりに奇天烈だったので、私の女騎士に全部没収されてしまったのだ。
これだけはなんとか、今しがたその辺で調達してきたのだよ。
酷いぞ、アリアセル」
だが即座に俺の背後から氷のように冷たい返答が返ってきた。
これ、さっきの回復魔法の主だ。
呪文を唱えている声は天使のように素晴しい物だったのに。
「もう。
せっかく衣装を取り上げたのに、そんな格好で出てくるなんて。
それなら、まだ前の衣装だけの方がマシでしたわ。
そのロープも危ないから使っちゃ駄目だって言ったでしょ」
そこにはスラリっとした、銀髪で藍色の瞳をした美しい女性が立っていた。
両手に作った拳の甲を腰の両側に当てるような感じで、少し、いやかなり残念な己の主を睨みつけていた。
戦闘職たる騎士のくせに、その美しい長髪は反則だぜ。
まるでエルフのように美しい人だった。
怒った顔がまたそれを引き立てている。
「あの、ちなみに前の衣装は?」
「え、ええまあ、あの、ちょっとその、なんというか凄く残念な奴でした」
うーん、口に出すのも憚られるのかあ……。
またここにも苦労性の騎士が約一名。
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