第31話 1-31 天災少女現る?
「第三皇女エリーセル殿下のおなありー」
おなありーもへったくれもない。
一番下っ端というか若い、うちの姫様は最初に御登場だからな。
これが宮殿全体の催しとかだったら、貴族達が先にいてエリーセルも緊張するのかもしれないが、今日は参加するのは基本的に皇帝御一家のみだから。
もっとも使用人なんかは見ているのだから、皇族たる者がだらけていてはいけないのだ。
キャセル達は敵と出会った時よりも緊張している感じだ。
恐れられているなあ、一番上のお姉様。
俺は、でんと構えていた。
今更取り繕ったって、所詮高校生(通信制)にはどうしようもない。
俺は通信制高校の、実地に学校へ行かなければならない部分さえ特別に免除されてしまっていたほどの特殊事情の引き籠りなのだから。
そして、俺達がその参加者が最初に集まるサロンにおいて宛がわれた一角に座る頃、次の客が呼ばれていた。
こういう順番も進行係の手によって仕切られていくので、参加者はただその指示に従っていればいいだけの話なのだ。
「第二皇女フローセル様のおなありいー」
「へえ、第二皇女様はそういう名前なんだ」
この方はまだ成人したばかりだと聞くな。
だが俺がボーっと彼女の入場を眺めていると、その方はこちらへやってきた。
おっと、いきなりご挨拶なのかな。
俺はソファの上で両肘をもたせかけ、足を組んで寛いでいたが慌てて戻した。
いや、ちょっと態勢を崩し過ぎだったか。
キャセル達も俺なんかに構っていられるような場合じゃないので、碌に注意もしてこなかったもので。
だがその彼女ときたら、なんていうんだ。
一言で言うのであれば、ちんちくりんと言えばよいのか。
パッと見にはエリーセルよりも幼いのかと思うような体形だが、雰囲気は遥かに大人っぽい。
少し妙な威圧感もある。
なんというか、別に威張っているとかそういう感じではないのだが。
そして頭は爆発しているのかと思うほどの癖毛で、それをいかにも強引に撫でつけましたがこれで限界ですみたいな感じになっている。
特徴的なのは、その真ん丸で大きな眼鏡だろうな。
なんというか牛乳瓶の底なんかではなく、ファッション的にこうあらねばならないとでもいうような、何かの拘りみたいな感じ?
「ふむふむ、これが落ち人って奴か。
うんうん。
君い、ちょっと解剖してみてもいいかね」
「は⁉」
「グラン、ちょっとそいつを押さえておけ」
そしてグランと呼ばれた、彼女をエスコートしている体付きがすらっとして格好いい彼は、俺ではなく彼女を押さえると言うか抱き上げた。
「な、なにをする!」
そして彼は足を宙でバタバタさせているそれには答えず、その残念な姫を小脇に抱えると、左手を恭しく体の前に優雅に回して深々と礼をした。
「エリーセル皇女殿下、どうも大変失礼いたしました。
そこの新人の騎士君も我が不肖の主が申し訳ないね」
「ああいえ、どうかお気になさらずに」
あ、凄い人間が出来ている人だった。
さすがは、あの皇帝陛下だけのことはある。
ちゃんと的確に人材が配置されているのだなあ。
「いーえ、グランも相変わらず苦労性ですわね」
「まったくその通りにございます」
そして再び礼をして彼らは去っていった。
他に護衛は連れてきていないようだ。
彼一人で間に合うのか。
いくら身内だけの集まりとはいえ、侍女の一人も来ていないのもあれだな。
さてはあの解剖姫が無理ばっかり言うので、皆すぐに辞めてしまうのだな。
あの姫、へたするとお着替えまで騎士にさせられてしまっていそうだ。
よかったなあ、俺はあっちの世話係じゃあなくって。
さすがに、俺にあれの世話は無理だ。
そして運搬されている最中の残念姫君が俺に向かって叫んでいた。
「おーい、落ち人の君。
後で話を聞かせてくれなー!」
はいはい、いきなり解剖しない約束さえしてくださればね。
俺は軽く手首を振るだけの挨拶をしてあげた。
たぶん、悪い子じゃないと思うのだが。
「ふう、相変わらずだな、あの姫は」
キャセルも溜息を吐いていた。
「あの方も世話が焼けるので、乳母の息子であるグランがずっと世話係に付けられていてな。
彼はしっかり者で有名なので、皇帝からの信頼も厚いのだ。
おかげで今みたいな被害が未然に食い止められているのだ」
オレンジ頭のミッセルも、うんうんと頷いていた。
「被害?」
「ああ、あの方はその、性格はアレなのだが、いわゆる天才という奴でな。
ここだけの話だが、多くの魔導具の開発にも密かに携わっているという」
「あれ、魔導具は新しく作れないんじゃないのか?」
「いや普通はそうなんだが、あの方なら出来てしまいそうな勢いなんだ。
独創的な物の考え方をなさる方で、あちこちで何かに首を突っ込んでは余計なトラブルを巻き起こしていなさるよ。
あれで上手く興味が一点に集中しさえすればな」
「なるほど。
常に明後日の方向へばかり飛んでいく人間な訳か」
「まあそういう事だ。
魔導関連から生物学から占星学まで興味が幅広く、多くの分野のあらゆる可能性について書を著し、専門家が読めばどれもこれも目から鱗だという。
他所の国家からしてみれば、へたをすると依り代の巫女よりさえも拉致したいほどの価値ある人物なのだ。
それで警護が必要なくらいのマズイ事態の時には、そう気兼ねのいらないうちに預けられる事さえある」
「あー、侍女だけじゃなくって警護の人間まで寄り付かないのか……」
「まあそうなんだが、あの出来た騎士のグランがついているからな。
あいつは腕も立つし、普通は野放しさ。
今回は狙われているのがうちの姫様だし、まだあの姫様は野放し状態らしいな」
「へえ。
あの人、うちに来ねえかな」
「なんだと、お前なあ。
本当に解剖されても知らんぞ。
うちに来た時なんか、いつも大騒動なんだからな」
「いや、だって魔導の天才様なんだろ。
俺、ちょっと作って欲しい
もちろん、それは風呂の湯沸かし器の事なのだ。
作るのならどこに作ってもらおうかなあ。
でも俺が入るのならエリーセルの部屋じゃあマズイよな。
でも、うちの部屋じゃ狭いし。
やっぱり、お風呂は大きい方がいいよなあ。
よし、あの姫様とは絶対に仲良くしておかなくっちゃ。
でも解剖されるのは嫌だよ。
そういや、日本の医者も俺の事は解剖したがっていたっけなあ。
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